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第23話 怖かった。

 まったく、人間とはなんと不思議な存在なのでしょうか。我々はまるで、何が起きるか予想も出来ない、宇宙のようなもの。人間は宇宙を内に秘めているのです、コスモを秘めているのです。

 かどうかは、俺には分からないけども、きっと魔力の源って内に秘めた何かなんだろうな。だから、魔法は妄想を具現化できるのでは、という考えに至る。

 無から有は生み出せないけど、妄想は無限大。ならば、具現化も無限大だったりするのかなぁ。


 何がいいだろう、カラアゲを魔法で作り上げたり……は、聞いた事もないな。仮に出来たとしたら、どこかの馬鹿がカラアゲ専門店を乱立させて世界経済が大混乱になってしまう。カラアゲを無限に食せるとしたらとても嬉しいのだけれども、大混乱はノーサンキューである。


 否、仮に経済が崩壊しても、カラアゲを無限に出せるのなら食う物には困らないか。ただ、栄養は極端に偏るだろう。そういった場合は、サラダなんかも出せたらいいのだけれど……。出来れば、サプリメントなんかを……。


 いや、そんな事はどうでもいい。

 大戦勃発に匹敵するそこにある危機を、今すぐになんとかしなければならない。このままここで繁殖させてしまっては、きっとこの農園は閉鎖されてしまう。そうなったら、美味しいフルーツが食べられなくなってしまうかもしれない。

 それは絶対に避けなければいけないだろう。


「成神、俺、帰ったら併設酒場(あそこ)でカラアゲ食うわ。腹いっぱい食って野望を食い止めるわ」

「えぇ……この状況で普通食べたくなる……? ならないよ。なんで? 鋭利やん発言といい、和人くん頭おかしくなった……?」

「いや、カラアゲは世界経済を……」

「あっ、もしかして何か毒ガスでも吸った……?」

 ごめんね、俺、毒ガスは吸ってないんだよ……。カラアゲがちょっと好きなだけなんだよ……。


「まぁどうせ、和人くんはカラアゲ大好きだから魔法で出せたらなぁ、とか、考えてたんでしょ」

「なぜ……分かった……?」

「幼馴染に分からないことはないのでぇーす!」

「じゃぁ、ぐへへ、俺のホクロの位置全て知って――」

 めり込む拳、軋む骨格。それを受けた瞬間、俺の魂だけが、まだどこかへ転移したような気がした。

 そういうスキルなのかなぁ、アンデッド系モンスターを浄化する、みたいな。


「ぅ……、幼き日の見せ合いっこという思い出が走馬灯のように……。ナイス打撃でした、色んな意味で昇天しそうですよ」

「し、知ってるけど……そういう風に言わないのぉ! もおおお」

「え、憶えてるの? どこかな? どこなのかな? ど――」


 さて。

「ちょっと、うん、レバー? 肝臓にキタかなぁ……うーん。少し休んでいいかな?」

「んっ!」

 そういって差し出してきたのは、成神の水筒だった。

 でも、これって、間接キス……。

「いや、こ、これは、あの、アレだ、水筒だろ?」

「そう、水筒よ。私の水筒……あっ」

 顔を紅潮させたこの女の子は、先ほど俺に拳をねじ込んだ拳闘士・成神とは別人ですね。ちょっとかわいいとさえ感じてしまいました。

「の、飲んで良いわよ、飲めばいいじゃない、飲みなさいよ、飲まないと殺す……」

「分かった、分かったよ。頂きます」

 なぜか俺もちょっと恥ずかしかったので、水分を頂く際は成神に背を向けた。


 わぁ、これ、ハーブティーだ。落ち着くわぁ……。口の中に大草原の風が吹き抜けるぅ……。

 ていうか、俺のただの水だったんだけど。なんでこの子自分のだけハーブティーにしてるの!?

 まいっか、とにかく、落ち着くわぁ……。


 いやいやいや、落ち着いてる場合などではない。

 今はとりあえず、女王部屋入り口近くの岩陰に隠れているが、いつ気付かれるもしれないこの状況では体力もちろんのこと、気力もそれはもうゴリゴリとヤスリがけされているかの様に削がれてゆく。

 このまま隠れていては、追い込まれるのは俺たちである。それも、勝手に。


 ならば先手を打つか?

 いや、巨大甲虫と戦う訓練なんてしなかったぞ。そりゃぁ、変身したヘクサーとの戦いを想定した訓練はしたことあるけど、さすがにこんな信じられないくらいにデカイ甲虫なんて想定外もいいところだ。こんな非常識なモンが出てきたら軍を呼ぶしかないよ。実際、チェイサーで対処出来ない事件の場合は、軍所属の特殊部隊に治安維持権限を委譲する事にはなっている。今までに一度もそうなった事はないのだけど。


 絶対にかないっこないと思わせる程に、外骨格、そいつらの鎧は分厚く見える。なまくら刀では髪の毛ほどの傷さえも付けることは出来ないだろう。

 いや、流石にソレは言い過ぎか。細かい傷くらいは付けられるかもしれない。もちろんそれでは、ゲームで言ったら1ダメージにさえならない。0である。

 とは言っても、俺たちは、元々刃物なんて小さいナイフくらいしか持っていないので、それを考えても仕方がない。

 俺たちにあるのは、やりようによっては何でも出来る魔法。夢と絶望の詰まった願い力だ。甲虫の外骨格くらい、簡単に灰に……出来たらいいなぁ。

 これは願い、ある意味で“希望”だ。“良い見通し”という意味ではない方の。


 まぁとにかく、俺たちには魔法が有るには有るのだ。だけれども、その力が彼らの強固な鎧を通すかどうかは、当然の事ながら経験が無いわけで、それを想像する事すら無理だった。

 最初に戦ったオークなら、アレらの亜人族はほとんど人間のようなものであって、大体はそれに与えられるダメージは想像できる。後付け(・・・)の鎧も、ハーフプレートであったし、露出している部分もそれなりに存在したし、まぁ直感的に倒せるな、殺せるなとは思った。

 しかしどうだろう、彼らの産まれ付きの鎧は何で出来ているのか分からない。元いた世界なら、きっとそれはカニなどと同じような、ともかく、然程硬くも熱に強くもない成分なのだろうが……、ここは異世界だ、何だって有りうる。たぶん。


 カニも食べたくなったなぁ……。エビの存在は確認出来たけど。イセエビみたいなやつ、ロブスターだっけな。いや、イセエビもロブスターか。まぁ、それらは淡水性のエビなんで、お刺身は食べられないのが悲しい。


「成神はここで待ってろ。あと、アレ頼むわ」

 こくっ頷く。


 一呼吸入れ、彼女は呟く。

「照らせ、リュスィオール」


 彼らの女王様が産卵するコンサート会場のような大きな空間に、無数の光の球がパッパッと発生する。それは淡く周囲を照らし、まとわりつく暗闇から俺たちを解放してくれた。

 その瞬間、女王を世話する虫たちの鳴き声がキッキッというものからギリギリという歯軋りに似たものとなり、時折ガチッガチッとあごを鳴らしている。動きは止まり、明らかに周囲を警戒しているようである。


 うん、怖い。クソ怖い。

 饅頭怖い、食べたい。昆虫怖い、食べたくない。というより食べられたくない。


 湿った大地をしっかりと踏み込む。

 歯を食いしばる。

 ありったけの力を込めて、彼に突進した。


 無数の光はシャワーみたい。後方へと流れ、眼前には虫。

 俺の王笏は手のひらへと食い込み、感覚が麻痺しかけてた。

 そのままそれを、力任せに振り下ろす。


 響く金属音、散る火花。

 勢いでやってしまったが、魔法を使う事を忘れる。これは大失態だ。

 俺の一撃は彼には通らず、先ほどよりも激しく彼らはあごを鳴らす。

 ギィギィギィ。ガチガチガチ。


「ですよね! さすが!! 固い!」

 さっ、と、一歩下がる。


 あぁ、殺虫剤が欲しい。まぁ、そんなモンはない。

 それならば。


「焦がせ、ブリュレ!」

 甲虫の外骨格が赤熱。上がる白煙。同時に独特のいやな臭いが鼻腔をつついた。

 うええ、吐きそう。


 煙が晴れ、焼き尽くされたはずの外骨格を晒す。

 が、彼は生命活動をやめることなく、その前あしを横へ払う。

 王笏がソレを受け止める。

 が、身体ごと突き飛ばされる。


 頭部を強打することはなかった。だが、擦り切れた皮膚に血は滲む。


 追撃は無い。それが救いだ。

 余裕なのだろう、腹が立つ。


「和人くぅうううううううをぉぉおお!! このぉおおおおおお!!」

 待ってろと言ったのに、成神は甲虫へ弾丸の如く……。

 そして、その勢いを拳に託した。


 そんなモノが効くはずは……。


 虫はその関節から……、膝と言っていいのか分からないが、膝から崩れ落ちた。


「ええぇ……うっそだろお前、マジかよ……。俺、そんなお前のパンチをいつも受けてたの……?」

 怖かった、今後の事を考えると、ただただ怖かった。

ちょっと実験的に……。

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