第20話 キイチゴジャム
あぁ、気持ちまで晴れ晴れする実にいい天気だ。
窓を開けると、代わりに目蓋が閉じる。そして薄目を開けて、薄手の窓掛けを引く。
あぁ、ぴーちくぱーちく鳥が鳴いている。
弾む小鳥の鳴き声が、そのまま俺の心までを弾ませるようである。
そんなキラキラと騒がしい今日は、例のギルドへと赴く日。
街のマーケットで塩見たちと待ち合わせをし、彼女らも一緒に見学をする事になっている。
何故かというと、彼女らは急に暇になったから。この前の一件で倒したゴブリンが迷惑モンスターグループの最後の1匹だったらしく、当面は狩るモンスターもいないらしい。
俺たちも同様の依頼を受けていたのだが、どうやら対象としている物が偶然被っていたらしい。なので、一応任務が終了したという事を報告するためにちょっと卑怯なのだけど、再会祝いパーティーの帰り道でゴブリンの装備を剥ぎ取り、村長さんに討伐の証拠として提出。
ごめんな、塩見! これが俺のやり方さ!
その代わりといっていいのかは分からないが、報奨金は丁重に受け取りを拒否。ちょっと失礼な村長には“お前がお金いらないなんて、体調でも悪いのか”と心配された。
すまんな、村長! ただの罪悪感だよ!
彼女ら3人と落合い、魔王候補養成ギルドへと足を向ける。
燃費の悪い武道派・雨飾千晴は、何かを食べながら一方後ろを付いてくる。待ち合わせのマーケットの屋台で買ったのだろう。
しかし、ちょっと行儀が悪い。
「――でもしょうがないじゃん、ぼくお腹すいたんだもん」
「まぁ、分かるけどね。お腹空いたら我慢できねぇもんな、分かる分かる」
「でしょ……? 美味しいなぁ……このとろけるような脂身、神だよ神。噛む力がいらないの。噛み神ぃ」
……やっべぇこいつ、成神より扱い辛いかもしれねぇ。
いや、食べ物で釣れば、扱いやすいとも言えるが、流石にそれは失礼であろう。
「太るぞ」
「心配ご無用。ぼくはその分動くから」
そう言ってその場でシャドーボクシングを始めたまではよかったのだが、手に串焼きを持ったままやったもんだからあら大変。串刺しにされていた焼かれた肉が空を舞うのに、他に理由はいるだろうか?
私は声を大にして言いたい、雨飾千晴はアホであると!!
空を舞う元串焼き肉は、ポトッという軽い音をたて地へと落ちた。これがかの有名な万有引力と言うやつなのだけれど、今の雨飾にそれを説明出来るメンタルの余裕は無い。笑えることは続くもので、落ちたそれは通りがかりの野犬が悪気もなしに咥えて持って行った。
地に落ちた時点で食べられなくなったわけだし、みすぼらしくも可愛い野犬が有効利用したのだから、ここは良かったと思うべきだろう。
「良かったな、雨飾」
「ぼくの串焼きが……」
ここで諦めてくれれば良かったのだが、雨飾は肉の刺さってない元串焼きを強く握りしめ野犬を追いかけてしまう。
「コ、コラぁぁー! カエセぇぇー!」
発音がだいぶおかしい。
どの位の時が経っただろう。インスタントラーメンならば、10杯は連続して作れただろうか。
戻って来た雨飾は泣いていた。泣く程のことじゃねぇだろと思ったが、彼女に理由を聞いてみると意外な事実が判明する。あの野犬には脚の不自由な友達の犬がおり、その犬への土産として例の肉をあげていたというのだ。雨飾には申し訳ないが、落としてよかったのだろう。一時的な施しでは意味が無いとも言える。しかし、とりあえずの食事を彼が出来たのだから、これはこれで素直に喜んでもいいだろう。もっとも、食いしん坊・雨飾千晴に関してはそれほどのメンタルの余裕がある様には見えなかったが。
さらに聞くと、余りにもその犬がかわいそうに思えた彼女は、手持ちの小遣いを半分ほど使ってその犬のために食事を買い与えたという。
うん、そこまではいい話だったのだ。
その犬に食べ物を与え終わってさて帰ろうとした時に悲劇は起こった。これから先は非常に哀しいとなってしまうが、結果から言うと、脚の不自由な犬はいなかった。
食事を終えた野犬友達はすくっと立ち上がり、その場を件の野犬と共に後にした。
そこに残ったのは、食いしん坊・雨飾千晴の悲哀だけだったという。
「あはははははは」
「こら笑うな塩見、かわいそうだろ! 笑うなら本人がいない時にしろ!」
「あはははははは、分かった、また後で笑うぅ」
こいつ俺よりクズだ。クズの極み乙女だ。
「なんかごめん雨飾……、帰ったらキイチゴジャム1瓶あげるから泣かないで」
「えっ、いいの!? やったー!」
元気そうでなによりである。
というか、キイチゴジャムそんなに美味しいなら売ろうかなぁ……。
戦闘無くてすみません!
ですが! 戦闘に関しては力を入れて書きたいと思うので、
乞うご期待!!




