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第17話 とりあえずパーリィー

 心臓がドキリとはしないものの、俺はその影の言葉に面を食らった。

 ――その影は俺を知っている。

 俺の名を発するまではいい。異世界で交流のある村人なら名を知っている。

 さりとて、発音まで正確な人間は滅多にいない。かずぅーとぅ、などなどがほとんど。


 となれば、可能性として高いものとしてあげられるのは、異世界に飛ばされて来た他のクラスメイトという事になる。

 背丈も我々とそう変わりはない。

 いや、背丈だけなら異世界人と我々に雲泥の差があるとも言い難いか。

 亜人種では小さいのも大きいのもいるが。


 とにかく、この木漏れ日が騒がしく降り注ぐ中では、その影の主を見極める事は出来なかった。

 ……よし、声をかけよう。

「あなたは、だあれ?」

 恐る恐る、問う。


「私は……忘れたの? リコよ、塩見リコ(しおみりこ)。あなたのクラスメイト」

 薄暗い茂みの中で、キラリと、そのメガネが輝いた気がした。

 

 影は自らを塩見リコと名乗る。

 メガネを見て確信するのもなんだが、本人が発した事かと疑う余地はなかった。


 なぜか? 俺もその子をよく知っているからだ。

 内気だった成神と仲良くしてくれたその子に、俺は恩を感じている。

 塩見は少し性格に難があるが、裏表のないそれに嫌悪感を抱く人間はいなかった。そんな彼女を成神も慕い、陽の当たる場所へと引き上げてくれたのだ。幼馴染をある意味で救ってくれた人に、恩を感じずにはいられない。

 彼女の事もまた、記憶に、割りと深く刻まれている。



「リコちゃん……! 久しぶりぃ!」

 一瞬不穏な空気に包まれたこの場所が今はどうだ、成神の言葉と共に景色が一気に色彩を孕む。


 そしてそのまま、勢いよく彼女へと駆け寄った。

 成神にとっては数ヶ月もの間音信不通だった仲のいい友との再会なのである、発車寸前の電車へと飛び込むサラリーマンの如き身のこなしも納得はいく。

 ……(こめじるし)、成神さんは特殊な訓練を受けています。一般の方の駆け込み乗車は非常に危険ですのでお止めください。

 一般の方じゃなくても、駆け込み乗車はやめた方がいいかもしれない。

「おー、なっちん久しぶりー! 1ヶ月ぶり……くらい、かな。私にとっては」

 ぎゅっと抱き合う二人。感動の再開である。


「というか、和人と一緒にいたんだね。変なことされなかったかい?」

「変なことって……? 一緒に寝たりはしてるけど、変なことはされてないよ」

「……んっ!? イッショヌィ・ネテェェイィルゥ!? ほうほう、なるほど、なるほどなるほど。詳しい話は後で聞かせていただきましょう、グヘヘヘヘェ」

「ネテェイルゥってなんだよ、古代ローマ帝国の人名かよ。彼は何世だよ」


 この塩見という子は学園では新聞部の記者をしており、素直過ぎる性格と共に少々ゲスい事で名を馳せている。彼女は嫌われ者ではないのだけど、少しだけうざったいと思われたりはしていたらしい。

 ……根掘り葉掘り聞こうとするからね、しょうがないね。


「それは置いといて……、お前独りなの?」

「ん、いや、違うよ。千晴ちゃんと志月ちゃんもいっしょにいる。今日はちょっと独りでモンスター退治~。依頼でね」

 話によると、塩見リコ(しおみりこ)雨飾千晴(あまかざりちはる)芦尾志月(あしおしづき)、この3人はほぼ同じ時期同じ場所に飛ばされて来たらしい。

 そして、現在一緒に何不自由なく暮らしているとの事。


 あの日、俺たちは異世界に飛ばされた。

 国立魔法学園の教員や生徒たちは、俺を除くほぼ全員が同じ時間に居なくなったのだが、それぞれの着地点はどうやら違うようだった。

 そんな状況の中、ほぼ同じ時間、ほぼ同じ場所に転移、というのは幸運としか言いようがないだろう。


「良かったな、成神、友達が無事で」

「うん、嬉しいっ」

 成神はその目に涙を浮かべていた。

 普段は俺を躊躇なく殴るが、そういう優しいところも彼女には有るのだ。

 その優しさは宝石。それ故に、触れただけで壊れそうな儚さを孕む。であるからして、俺が一緒にいてやらなければならない。


 ……彼女の拳はダイヤモンドを砕くことが出来る程に硬いんですけどねぇ。その拳に折られる事のない俺の心が一番硬い、と言えるのかも知れないなぁ。



 それにしても、塩見の弓の腕前はなかなかだ。

 一撃必殺ワンショット・ワンキルではない。ただ、目測直径15センチメートル内に矢が数本刺さっている。動いている的にこれだけ当てられるのだから、止まっている的ならば継ぎ矢も可能なのではないだろうか。貫禄は無いが、腕は確かなようだ。

 

「何かギルドでも入ってるの? 弓を使うような」

「入ってないよ。弓は狩りをするために練習したからねぇ。ほら、人間、食べないと生きていけないじゃない? そりゃ必死になるわよ」

 確かにそうである。俺たちの場合は、村の人たちに助けられてばかりだったが。


「苦労したんだな、お前」

「これくらい普通よ、フ・ツ・ウ」

 ドヤ顔をする塩見。

「で、一緒に寝てるってどういうこと? ヘヘヘッ、かーずーとーさぁあん、あなたからも詳しい話を聞かせてくださいなっ」

「そのネタ引っ張るねぇ。あ! そうだ! 用事を思い出したわ! 早くしないと!」

「いやいや、待って待って、こちらも仕事で仕方が無くやってるんですよ。教えてはいただけませんかね?」

「うん、まぁ、それはそれはよく分からないのでおいおい話すとして……今日は再開記念って事でウチでパーリィーしようか」


 パーティーと言っても、俺たちは未成年だからお酒も無いし、豪華な料理を用意出来るわけでもない。

 それでも、成神が作ったポトフ的なスープは絶品なので、彼女たち3人も喜んではくれるはずだ。


「ま、大したもんは用意できねぇけど、それなりに美味しいから、成神の料理」

「和人ぉ、それなりじゃないでしょおお! ドォーン!」

「んークリティカル! クリティカルだよ!!」

 照れ隠しに殴るのはやめてほしいですけどね、それはそれで愛らしくもあるものです。


「なっちんと和人、なんか夫婦みたいやねぇ~たははは」

 塩見にはそう見えるのかもしれないが、幼馴染といったら大体こんなものだろう。

 ……ま、夫婦みたいと言われるのは悪い気はしないけれど。


「さてと、その前に~っと」

 塩見はゴブリンへと近付く。

 そして、ついとナイフを取り出し、その首筋へと深く突き刺した。慈悲である。

「苦しませてごめんね」

 そう、呟いた。


 ナイフと言えばナイフなのだが、よくよくみるとそれは包丁であった。しかも、スタンダードな文化包丁である。


 ナイフはナイフで、当然の如く生々しい。けれでも、包丁を使うことによってソレが倍化する。

 包丁ってのは一番身近にある刃物だ。なので、残虐とおも思える行為と日常との距離が瞬時に縮まるのかもしれない。


 ……まぁいい、これはなれていかなければならない事だ。今は無理して考えなくてもいい。


 成神と塩見、俺の3人は、とりあえず彼女らの住まいへ向かう事になった。

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