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第16話 えっ……?

「マジでその真顔やめて、おねがいだから!」

 いくらか演技じみた俺の悲痛な叫びが、虚しくもこの箱庭へと響き渡った。


「こんなにカワイイ女の子にセクハラとか、ホンット! 信じられない! サイッ……テー! まぁ、でもさ、和人だから許してやらないでもない……けど、ね……」


 カワイイ女の子は自らの事をカワイイなどとは言わない、と成神に言ってやりたい気持ちだが、ここは我慢。お前はカワイイよ、とも言いたくはないので、成神への報復と言わんばかりに俺は魂の無い人形のような表情をした。

 そう、真顔カウンターである。


 言わずもがな飛んできたのは拳で、それはびっくりするほどの痛みを生み出す。俺の鼻が取れてしまったのではないのかと心配になったが、大事なそれはしっかりと正中線上にくっ付いていた。


 神様、成神様、ありがとうございました。



「うぅ。成神様、鼻はやめて、鼻は。最悪出血するから、ブリードするから!」

「ご希望に沿えずに恐縮ではございますが、反射的に殴ってるので殴る場所を指定することはできません……あらかじめご了承ください」

 嘘吐け、こいつ絶対狙って鼻を殴ってきてるぞ。


「了承できるわけねぇだろがぁ!」

「あはー」


 と、ふざけている間に成神の打撲の症状は収まった。


 こんな時、治癒魔法を羨ましく思う。

 打撲程度ならそれで即元通りに回復、となるのだが、残念なことに俺たちは治癒魔法を行使することが出来ない。治癒を促進する魔法は使えるがそれは気休め程度の物で、治療と呼べるかどうかは怪しかったりする。傷を治すという本物(モノホン)の治癒魔法は、看護学科でしか教えられていないのだから、それも仕方が無い。

 ちなみに俺たちに何が出来るかを具体的にいうと、皮膚表面の再生や癒合、化膿止め、その程度だ。放っておいても治る傷しか癒せないという、ちょっとなんだか微妙な魔法なのだ。私生活で受けた傷、例えば包丁で指に受傷した際は案外重宝する。要するに、マジカル絆創膏である。


 ……欠損部分を再生させる治癒魔法があれば、鼻が取れても大丈夫なのになぁ。って、いやいやいやいや、欠損させるわけにはいかない。だって痛いとかいうレベルじゃないもの。それに、画的にヤバい。きっと成神でさえドン引きする。


「今日はもう帰ろうか?」

「うんん! 大丈夫だよ。行こっ」

「そっか……。辛くなったらすぐに言うんだぞ」

 俺がそう言うと、彼女はコクッと頷いた。調子が悪そうどころか、その顔はやる気に満ちているようにさえ見える。

 ……うん、これなら大丈夫。


 俺たちは、その“箱庭”を後にした。

 そこは、とてもいい所だった思う。今度はもう少し暑い季節に来ようと、密かに練った計画をそっと心の引き出しにしまい込んだ。


「和人くぅん……その杖貸してぇ~よぉ~、ねぇ~」

「王笏な。絶対壊すなよ、絶対だぞ」

「えっ? なに、なになに?」

 壊して欲しいんだろ? という表情が絶妙に腹の立つ。のだけど、少しばかり疲れているようなので、登山用ストックの代わりに使わせてやった方が良さそうであった。

 転倒してまた打撲でもしたら、ちょっとだけ面倒くさい。


「貸してやるけど、マジで壊すなよ」

「えへへへへへ、分かってますヨ……ヘヘッ」

 成神は俺が手渡した王笏を、なんの躊躇いも無く手近な岩に何度も叩きつける。夏の花火のような火花が散ることはないものの、キンキンと金属音が森に響く。

「ヒャアァアアアアアア何するのぉ!!」

「やっぱり壊れない……。この杖、頑丈だなぁ……」

「分からないよ、分からない! 次のタイミングで壊れるかもしれないだろぉおおやめろぉおおよおお」

「大丈夫」

 実際、その王笏には傷一つ付いておらず、叩きつけられた岩は少しばかり欠けていた。


「俺の心が壊れちゃうよ、ソレ! 壊れちゃう!」

「ちっ」

「んんん!! その顔!! ありがとうございます! じゃないや、ほんとやめぇろああ」

 これはいったいどんな素材で出来ているのだろう。この王笏は村にあったショートソードを元に再構成させた。なので、含まれる炭素量に多少の違いはあったとしても鋼の類であることは間違いないのだが、余りにも硬すぎる。


 ま、硬いに越したことはないし、“なんか魔力的なアレで堅い”ということにしておこう。



「あれ、和人、物音しなかった? ガサッって」

 何かに気付いた成神が小声で知らせる。

 その指は、ただ単に虚空を指したわけではなかった。

 そこに立っていたのは、人よりわずかに小さいくらいの亜人種。恐らくは、コイツがゴブリンという名で通っているモンスターだろう。


 そいつは小さな唸り声を上げていた。

 今にも襲い掛かってきそうだ、そんな感じがする。


 ゆらり、ゆらり。表情はうかがえない。

 来るか、と思った次の瞬間、その身体は地面へと突っ伏した。


 ――死んでいる。

 そいつの背中には弓矢が刺さっていた。むろん、俺たちが放ったものではない。

 ではいったい誰が……?


 視線を茂みの奥へ向けると、そこには狩人とおぼしき人影があった。

「あれ、和人?」


 ……えっ?

 その影は俺の名前を知っている。って事はつまり、クラスメイト?


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