第15話 横目でチラ見
お米最高!
ということで昨日の晩、俺たち二人は久々の白飯をたっぷりと堪能させていただいた。お米なんてもう食べられないと思っていたもんだから、それはそれは尚の事美味しく感じられた。まるで遠雷の響く夏の夕方の如く、俺たちの脳髄へと響き渡ったのをおぼえている。そう、ビリビリと。
オカズは何だったかって? と問われたら、俺はきっと、美味しいお米にオカズは必要ねぇ! と答えたはずだ。それが間違ってるとは思わない。
だがそう強がってはみたものの、やはり、味噌汁と漬物を体が欲していた。目の前にそれらが置かれていたら、思考するよりも早く口の中へと運ばれていただろう。そう、パクッと。
だけど今回の一件で、お米があるという事は確認出来たのは大きな収穫だったと思う。いや、収穫といっても俺が稲刈りをしたわけじゃないが。
お米があるのならば精米する段階で米ぬかが発生するという事であって、それを利用した漬物、つまりはぬか漬けの再現も可能だということになる。そうなれば食生活はより豊かになるはずであり、ぬかの確保が緊急課題となってくる。
問題なのは味噌の方で……。
こちらは正直に言って、再現できる自信はまるでない。ぬか漬けも味噌も発酵がキーワードとなってくる。が、味噌は段違いに難しいだろうと考えている。
単に俺が作り方を知らないだけ。
こっちの世界にも同様の発酵食品があればよいのだけど、酒場で見る限りは発酵食品と言えばチーズかお酒。味噌作りの参考に出来るようなものは何一つ無い。
ぬか漬けはぬか漬けで、手入れが大変らしいけどね。
遠い昔、田舎のばあちゃんがぬか床をよくかき混ぜていたのを記憶している。とても、面倒そうだなと、その時思わされたものだ。
何はともあれ、魔王養成ギルドにお世話になっていれば、いつか味噌も味わえるだろう。それを信じて頑張っていくのも、またありなのではないだろうか。
そして、明日はいよいよ、そのギルド本部へ赴き正式加入の手続き等を……。
お米は普段世話になってる村人たちにお裾分けし、残りは二つの大きなおにぎりへと変身した。今日はそのアホほどに大きいおにぎりを持ち、成神と二人で村に程近い森の迷惑モンスター退治へとやってきた。
少し薄暗く絵画のような小ざっぱりとした森には、少々困ったゴブリンが住んでいるそうだ。
そいつらはイタズラを繰り返し、それが時には人の生き死にに関わるものであったりする。実際のところ、数年前には死者も出ている。
「ねぇ和人、この森に本当にゴブリンなんているの? すっごく平和そうなんだけど。風景も綺麗だし」
あたりをキョロキョロと見回す成神は、特に不安がる様子などは見せなかった。
「まぁ、どこにいるかは分からないからな、一応気をつけておけよ。足元もな」
木の根は地面を、まるで蛇のようにはっていた。子供であるならば、簡単に脚をとられてしまうだろう。
ドスン、という音と共に、成神の成神の叫び声が。
「らヴぃにゃっくッ!」
「うわぁ……うわぁあ、すごく痛そう。というか、マジで大丈夫?」
成神の膝に外傷は無いものの、打ちつけた部分は少し赤く腫れていた。
……成神は俺が一緒にいなきゃだめだな。まったく、世話の焼けるクラスメイトだ。
「な、なぁああああ」
「なんだよ、さすってやってるだけじゃねぇか」
「だ、だ、打撲は冷やさなきゃ……だめなの……! さすられたら! あつくなっちゃう! でしょうが……」
「分かったよ。ちょっと行ったところに川あると思うから、そこで冷やそう」
初めてのその場所。そこは緑が美しい、川の音が響く静寂であった。
苔生した岩に腰を下ろさせ、その透明に脚の熱を奪わせた。
特に治療も必要の無い打撲ではあったが、水の冷たさは心地良いらしく、成神は顔をほころばせている。
「わぁはー。気持ちいいよ、和人。あははーオシリぬれたー」
俺が「脱いで乾かすか?」と問うと、鬼神のごときオーラを纏った真顔で彼女は「は?」と返す。しかし俺にはソレさえご褒美になる事を彼女は思い出し、真顔のまま真正面を向いてしまう。
そして横目でチラ見を繰り返すのであった。




