第12話 魔王候補募集中て。
時として反論する事はとても大切な事ではあるけど、尋ね人の張り紙は全くの無駄だ、などと言われたら、きっと反論する事は俺には出来ない。事実、今のところ収穫はゼロ。加えて、情報が得られるという気配さえ感じられていない。
そんな状況だから、時折、無性に自虐に浸りたくなる。
嗚呼、なんて自分は無力なんだ。嗚呼、何のためにここにいるのか。などなど。
超の付くマイナス思考で、実にネガティブだ。
落ち込んだ思考にも関わらず忘れたことが無いのは、数日おきに案内所および併設されている酒場へ赴く、ということだ。
と言うのも、村での生活同様、ここでの他人との関わりも、楽しみの一つになっているからである。案内所職員と窓口で世間話を繰り広げたり、俺は飲まないが――その酒場で行なわれる酒の席で冒険者のおっちゃんと会話をしたり。それは情報収集の一環でもあったのだけど、やけに楽しく感じられた。
だから忘れずに続けられた、と言っても何ら間違いではないのだと思う。
情報収集の中でも、最近よくやるのは盗み聞き。
成神とその酒場で食事をする事が多々あるのだが、その際、盗み聞きをよくする。盗み聞きというととても聞こえが悪いのだけれども、要するに、常時周囲に聞き耳を立てるわけだ。そんなことをしてたら楽しんで食事が出来ないように思えるだろう。だが違う、娯楽の少ない異世界では、それさえも俺たちにとっては楽しみのひとつになる。
幼稚園児みたいだと馬鹿にされるかもしれないスパイごっこ。されど、俺たち高校生がやっても大層楽しいのだ。
それに、俺たち二人は魔術不法行使者を狩る断罪者だ。それはつまり、スパイ行為に類する調査法を学ぶこともカリキュラムに含まれているということであり、このごっこ遊びも決して無駄ではないのだ。帰る事が出来れば、の話だが。
……どうしよう。このままじゃ本当に帰れないよ。
気持ちを切り替えて、さらに能動的に行動をしなければなるまい。
周りの人間に頼ることが悪なのではないが、自らの脚で探し回れば気も紛れることだろう。
そうだ、ギルド、入ろう。
掲示板に張り出されている募集広告を眺め、俺と成神は頭を抱えている。彼女は俺と同じギルドに入りたいということなので、自然と選択肢は減る。
この前確認した魔法剣士は、もう、絶対無理だ。
「やっぱり魔術師ギルド、かな?」
悩む俺に、上目遣いで成神が問う。
「だろうな。俺としては魔法剣士がいいんだけど、無理だしなぁ」
「まぁ、そうだよね。和人、剣士なんて経験無いし」
残念そうにする俺を見て、彼女もまた合わせるかのようにそうする。それがなんだか妙におかしくって、成神と目が合った瞬間に軽く吹き出してしまった。
「何よっ!?」
「すみません、なんでもないです。ちょっと面白いなって……」
「むっ……」
なにも睨むことはないと思ったが、それを成神に言ったらまた拳が飛んでくるだろう。
ここは無難に魔術師ギルドにしようかな。
と、受付に向かおうとした時、妙な募集広告を見付けた。紙はしわくちゃで、物陰に隠れるようにそれは貼られていた。
それにはこう書かれている、「魔王候補募集中」と。




