こうして物語が始まります
「で?どうしてここにいるのかわからない、と」
はい。てっきりこちらに呼び戻されたものとばかり思っていました。
「いや?戻すべき知識は全て戻した。特に呼び戻す理由もない。考えられるとすれば……………」
?
めずらしく言いよどむ姿。どうしたのでしょう?
「……………とにかく、この空間はもう必要無いから閉じることにするよ。君がここに来るのはもうないはずだ。君も現世に帰るといい」
思ていたより大きな手に視界を覆われました。
心地よい冷たさに意識を向けると、闇が広がる気配も気になることはなく、そのまま意識が遠のいていきます。
「そういえば、以前君に渡した贈り物、まだ取り出してないみたいだね。贈られた方はいつ出してもらえるかワクワクしているみたいだよ。そろそろ開けてやったら?開けたら特別なサプライズも待ってるよ」
その言葉に、思い切りしかめ面になります。
贈り物といえば聞こえがいいですが、正確には押し付けられた物です。
以前、知識の泉が崩壊した時初めてあの怪しい「番人コール」を使いました。すると、目の前のお方はお詫びの印をプレゼント!
その時のことを思い出していると、押し殺した笑い声が聞こえてきました。
「そろそろ開けないと、大変なことになってるかもしれないよ。ナマモノだし」
う!すごい説得力です。しかしそう言われると、開けるのがとても怖いです……………押し付けられてから、現世の時間でどれくらい経ってるでしょう?大丈夫でしょうか……………?
「とりあえず、開けてあげてよ。そしてできれば、嫌わないであげて。君のこと、本当に好きみたいだから」
いつもの意地悪な声。けれど、顔が見えないからでしょうか?どことなく、優しい響きをもって耳に届きました。
「君が正しい道を歩んでいけるよう、願っているよ」
居心地のよい闇に包まれながら、意識が途切れ、そして目を覚ますと……………
「あれ?」
思わず声が出、その声に自分自身が驚いてしまいました。
久しぶりに発した声。けれど、届いた声は記憶にある自分の声ではありません。
そう、ロザリアではないのです。
目に映る部屋の様子もロザリアの知っているものはなく……………
ロザリアはもういない、その現実を突きつけられました。
「……………モフモフさん」
小さく呟くと、いくつもの光がくるくると渦を巻きつけまばゆい光を放ちました。
『ジャジャーン!呼ばれて飛び出るモフモフでーす!』
キラキラの光を撒き散らしながら現れたのは、灰褐色の毛に覆われた球体。
しっぽがすごい勢いでフリフリしています。
『わ~い!やっと出してくれた。いつ呼んでくれるかと僕ずっと待ってたよ』
「お久しぶりです」
『はい、久しぶり……………って、何かすごくテンション低くない?』
「気のせいです」
そうです、気のせいです。別にモフモフさんに非はありません。ええ、本当に。
ふぅ、とため息をついてモフモフさんを眺めます。
お詫びの印にモフモフさん。
なんと、時の番人の使いをまるまる1匹(?)プレゼント!
わぁ~お、太っ腹~!やったね!
なんて気分になるわけもなく。
だって、モフモフさんですよ、モフモフさん!
モフモフさんをプレゼントってことは、私の使いになるってことですよね?実質、契約と一緒じゃないですか!
教会の巫女コースまっしぐら!
そんな爆弾いらないって断ったのに、彼はにっこり笑って「教会には目をつけられないようにしてるから大丈夫」と強制的にプレゼントされてしまいました。
私の意志は!?
そして何より、モフモフさんの意思は!?
『あっ、僕の意思なら大丈夫。どちらかというと、僕の意思でそうしたかったから』
思考を読んでいたモフモフさんは、即座に答えました。
そうなんですか?
『そうなんです』
そうですか。
なんだか、いまひとつ納得できないですが。
『それはさておき、知識の引継ぎも終わったことだし後は蘇りの術を阻むためにどう動いていくかだよね。何か手はあるの?』
あからさまな話題の切り替えですが、重要な話題ですね。とりあえず、ここはのっておきましょう。
そうですね……………、何はともあれとりあえず情報収集でしょうか。
私がこの世界にいなかった4年間、そして産まれてからの3年間で計7年分の情報が白紙の状態です。
そして今私がおかれている状況もわかっていません。
集めれるだけ、情報を集めたいと思います。
『そう。それで、君は僕にどんな働きをして欲しい?』
何も。
『え?』
何もしない、ということを望みます。
『でも、情報収集でしょ?僕なら、色々役に立つと思うよ』
それでもです。
今の私は、魔力の容量はそれほどないはずです。それなのに、モフモフさんという使いができてしまいました。
こうして呼び出しているだけでも、魔力は消費されているのにずっと呼び出した状態で情報収集させるなんて危険行為ですよ。蘇生術を阻む前にこちらの命が尽きてしまいます。
それに使いができたことを教会側に万一知られることがあれば、それだけで目をつけられることになります。
なんといっても、そんな人はこの世界にそう何人もいないのですから。
タイムリミットまであと2~3年しかありませんが、だからといって周囲の環境も分からない状態で先を急ぐようなマネをするのは危険です。
『なるほど。そうかもしれないね』
と、いうことで何もしないで下さい。
『え~、じゃあ、ずっと待機?つまらないな~』
体を左右にふるわせて駄々をこね始めました。
……………誰もいない時で、かつ私に迷惑をかけない場合に限って自由に外に出てきてもいいですから。
特に、腐る前には必ず出てきて下さい。
『うん、わかった。勝手に出てくるね』
私がつけた条件を華麗にスルーして都合のよいところだけ聞き入れられた気がします。大丈夫でしょうか?
『大丈夫、大丈夫。なんとかなるさ!それじゃ、君がアンデッドにならないよう頑張ろう!』
へ?
あんでっど?
アンデッド―――――ゾンビとか死霊とかの類だったはず。
え?なんでそんな言葉が??
『え?聞いてない?もし蘇生術が完成した場合、今の君が亡くなるだけじゃなくて、たぶんほとんどの確立で蘇った君は君じゃいられずにアンデッドになっちゃうって』
何それ!聞いてないです!?
『だって、転生術と蘇生術で時空を往復した魂が平気なわけないよ。次に術を行使されたら、君自身の器と魂に影響がでるのは確実だよ』
助かる可能性は?
『蘇生術が成功することもあるだろうけど、体と魂に負担がかかるのは避けられないよ。しかも、今回もきっと術者は同じだよ』
ああ。思わず納得。
あのリューイだ。2度あることは3度ある。
頭を抱えてしまいました。
【昔々、意地の悪い王女ロザリアは亡命しようとした際、うっかり転生してしまった挙句、アンデッドとして蘇生してしまいましたとさ】とか、そんなお話が作られようとしているのですか?亡命しようとしてうっかり転生しただけでも、十分恥ずかしいのに、その挙句アンデッド??
いやぁぁぁぁ!
絶対にいやぁぁぁぁ!
亡くなられたお父様やご先祖様に顔向けできな~い!!
S氏の言ってた特別なサプライズって、この情報のことですかぁぁぁぁぁ!!
『あの、大丈夫?』
モフモフさん!
『は、はい!』
私は今、握りこぶしを天井に向かって突き出し、高らかに宣言します。
前世のリトレティア王国の王女として、私はなんとしてでもリューイの行動を阻止してみせます!
見ていて下さいね!