協力者の出現・・・・・・・なのでしょうか?
『おはよう。よく眠れた?』
―――あぅ………ぅ?(おはよ………う?)
声の主を探しつつ、反射的に挨拶を返しました。「おはよう」であってるのでしょうか?部屋の中が真っ暗なので判断つきません。
視線をめぐらすとベッドの柵に淡く光を放つ少年が片膝ついて腰掛けていました。ずいぶん小さいです。羽は無いようですが、妖精でしょうか。
『「おはよう」で正しいと思うよ。まだ夜明け前だから暗いんだ。ちなみに、僕は妖精ではないけど、存在的には君たち人間よりそっちに近いかな?』
あぁ、そうでしたか。
と納得しかけ…………、ちょっと待てよ。
今は、夜明け前?眠る前は、完全に青い空にお日様が輝いていましたよ?
…………と、いうことはひょっとして今日は私の誕生から101日目………?
『正解。君の足元見てごらんよ。魔力抑えの珠があるだろ?儀式は無事終わったよ。』
言われて、えい!と両足を天井に向かって上げてみると、確かに片方の足首に珠が柔らかい紐で結ばれてありました。
『どうやら魔力が検出されたみたいだね。』
ロザリアだった頃は全く魔力がありませんでした。器が変わると、魔力の有無も違ってくるんですね。
教会に目を付けられなければいいんですが……………。
『部屋が暗くて見えないと思うけど、君の色はほとんど透明に近いピンク色。珠の色の濃さは魔力量に比例するから、今のところそれは考えられないよ。』
そうですか。教会嫌いの私としては、願ったり叶ったりです。
ああ、でも昨日の儀式を見逃してしまいました。
前世で経験したことのない儀式だったから、どんなことするのか興味あったのですが。
『そう?それは残念だったね。』
絶対そう思って言ってないですよね。
『だって人間のやることに興味ないし』
一言でばっさりでした。
本当にどうでもよさそうです。
『基本的に、人間そのものに興味ないから。でもね、時空を捻じ曲げてくれるような存在のやることは別だよ。』
にっこり、とこちらに向けて視線を向けてきます。
『こう見えても僕、「時の番人」なんて呼ばれていて、普段でも意外と忙しい立場にあるんだ。しかも最近、予期せぬ時空の歪みが発生する異常事態が間を置かずに2回も発生したせいで休む暇も無い位忙しいんだ。』
いや、しかし、それ私のせいでは……………
にこにこ、にこにこ。笑ってる額に青筋が浮かんで見えるのは私だけでしょうか。ああ、ここには私しかいないから、私だけですね。
『それなのに3回目も起こりそうだったから僕も予防策を考えてみたんだ。だけど、意外だったな。僕の案を断った上に、喜んで僕の使いを引き受けて出かけて行った彼――――「モフモフさん」だっけ?彼につれない態度をとって、とんでもなく落ち込ませて帰らせた君に興味が出たんだ。こうしてわざわざ世界の時をとめて顔見に行こうなんて思われただけでも結構すごいことなんだよ?』
顔はにこやかなのに、どこか黒いオーラが漂って見えるのは私の気のせいでしょうか?
『気のせいだよ。ところで、僕がわざわざ使いを出して今の君でも実行可能な提案をしてやったにも関わらず契約を断るなんて、よほど自信のある策でもあるのかな?』
黒いオーラがどす黒いオーラに変わってるように見えるんですけど!本当に私の気のせいでしょうか!できることなら全力疾走して隠れたい気分です。
『ははは、面白いこというね。できるようにもできるけど、やってみる?全力疾走』
ひぃぃぃ。嘘です、嫌です、こめんなさい。カクレンボを始めた途端に、本当の鬼に化しそうな気がします。
『あぁ、大丈夫。君に危害を加えようなんて考えていないよ。君はただ与えられた選択肢のうち、難しい方を選んだだけ。君を想って易しい選択肢を勧める彼の言葉を無視しただけ。君がしたことは、この2つしかない。僕の思う通りにならなかったなんてことで、気分を害したりなんてしていないよ』
じゃあ、なんで懐から刃物を取り出すんですか!小さな物とはいえ、殺傷能力ありそうですよ。
『よくわかったね。見た目はこんなに小さいけど、実は結構なもんだよ。』
口調は柔らかいですが顔が真顔ですよ。真顔!
そんな物騒な物、こっちに向かって振り上げないで下さい。
わあああああ!!!!!!!!
――――チョッキン。
あれ?何か今、剣じゃない音がしましたよ?
何でしょう、これ?2つの細長い銀色の刃物を中央部で重ねて片手の親指と人指し指を使って私の足首にある魔力抑えの珠と紐に向かってチョキチョキしています。
見た感じ、紐も珠も何事も起こっておりませんが、確実に何かが切れる音がしています。
『鋭いね。切っているよ。』
チョキチョキ
『既に聞いてると思うけど、異世界にあった君の魂がこの世界に強制的に召還された時、記憶の引継ぎが中途半端に終わってしまったんだ。それは君を召還した奴が魔力切れ起こしたせいなんだけど、その引き継がれなかった記憶が僕の管理している時空を彷徨っていたんだ。最初、持ち主がわからなかったから少し覗かせてもらったよ。』
チョキチョキ
『少ししか見てないけど、興味深い道具なんかがたくさんあったな。その時見た道具の1つを再現したのがこれだよ。「はさみ」っていうらしいよ。意外と魔力消費がなくて効率的に作業が出来るものだから、重宝させてもらっているよ』
チョキチョキ
『できた』
時の番人さんがはさみを再び懐にしまいました。
何ができたのでしょう?私には何も変わってないように見えるのですが。
『この珠、実はその身に付けているだけで居場所や魔力の変化が教会にわかるようにできているんだ。今後のことも考えて少し細工をしたんだ。』
細工ですか?
『今回みたいに僕が時を止めて君に会ってる間にもし魔力量が変わったりしたら?時間を動かし始める前と後で何かが急に変わってたら変に思われるだろ?そうならないように、この珠と紐にこめられた魔法の術式に小さな綻びをいくつも作って、こっちで上手く操作できるようにしたんだ。』
うわ~、何だかすごく難しそうなことをしていたんですね。
『僕にしてみたら、どうってことないよ。』
実際、何でもないって顔してます。やっぱり、すごい方なのでしょうか。
『今頃気づいた?ところで、最初の話に戻るけど、5~6年の内に何とかできる策があるの?それとも、死んでもいいと思ってる?』
う~、策は特に無いです。言っておきますけど、死んでもいいとは思ってないですよ。意思に沿わぬ転生術をかけられて、また死ぬ人生になるのも嫌です。
でも、それ以上に教会の人間として生きるなんてまっぴらごめんです。
『よっぽど嫌なんだね。』
ええ、そりゃぁもう!
『―――――――わかったよ、僕がした提案はあくまで僕にとって都合のいい提案でしかなかった。これからは、君の意思を尊重しようじゃないか。』
―――――――はい?
『君は、教会の力に頼ることなく生きることを望んでいるんだろ?僕にとってすれば、時空の歪みを起こさないために君が奴の転生術を阻止してくれればそれでいいんだ。教会の力を借りようが借りるまいが、君が生き残れば僕の望みに繋がる。それでいいよ。』
ええと、とりあえず教会が嫌だというのは理解が得られたようです。
それで、どうであれ私が生き残ればそれでいいんですよね?
難しいでしょうが、頑張りたいと思います。
『そうだね、ぜひ頑張ってもらおう。そのために、僕は僕の考えのもと、君が生き残るための助力は惜しまずやっていこうと思うよ』
そういって笑いかけてくれたのですが―――――――
にやりって笑いましたー!
絶対「にやりっ」てしました。
いやぁぁぁぁ。怖いんですけどー!
私は私の力で何とかしようと思っていますから、どうぞおかまいなくー!!
『そう遠慮しなくていいよ。僕がこれからすることは、基は君の力として備わるはずだったものだ。
時空の狭間に忘却された前世の君の「記憶」に基づく「知の力」、今から君にお返しするよ。今の君の小さな器じゃそれだけでも結構辛いと思うけど、大丈夫。ちゃーんと調整してあげる
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――死なない程度にね』
最後に呟かれた一言に返す暇も無く、その瞬間から数年間、重度の知恵熱に悩まされることになりました。
モフモフさんのボスが登場しました。
夜の闇の中、淡く光を放つ少年•••••••••のはずなのですが、光よりもブラックな感じに(遠い目)
さて、次はそれぞれの時間です。