屋台通りの来訪者(1)
「おっ、今日はタイ焼きか?」
「ああっ。秋の新メニューって事で、色々と試してる最中。試作品あるけど、喰ってく?」
「試作品?」
「そう。秋の味覚で、手軽に作れる物の試作品。サツマイモ、栗餡、柿クリームに……」
「流石は凝り性の光一、拘ってんなあ」
「自分で食う為がメインだからね。甘党舐めんな」
季節は秋に移行する中、屋台通りもそれに合わせて秋の味覚をメインにした物が増え始めていた。
その中で光一は、新メニューの試作品を手に、つぐみ達のサークルを訪れ、その際に裕樹達も合流。
「ホント、美味しそう。どれにしようかな……?」
「なんだよ、またダ……」
バチ――ンッ!!
「またとか言うな!!」
「ってえ……大体宇佐美、普段から運動してるだろ? そこまで気にする様な……」
「これだから男……じゃなかった。ユウは」
当然だが、つぐみ達を始めとする周囲の女性陣は、云々と頷いていた。
「――相変わらず、女ってのは良くわからん」
「よくどころか全然でしょ」
『女がらみでバカな所は、いつまで経っても治らない物ね』
ふと、機械的な声が割り込んできて、周囲が呆気にとられている間に裕樹だけは冷静に周囲を見回し、ある地点で止める。
そこには、高級そうな黒いゴシックロリータ服に身を包み、ヘッドドレスをつけ服と同じ位にフリルのついた日傘と、所々色違いの布でツギハギになっているぬいぐるみをもった、小柄な少女が立っていた。
「やっぱ詠お嬢さんか――久しぶり、元気そうだな?」
『――裕樹は相変わらずね』
詠と呼ばれた少女の視線は、当然だが頬のビンタ痕に集中していた。
「誰?」
「陽炎詠。水鏡グループとライバル関係にある陽炎財閥総帥の令嬢――みなもなら名前くらいは知ってるだろ?」
「知ってるもにゃにも、美術科の主席れしゅよ」
「ついでに言えば、パイプオルガンを始めとするクラシック方面でも首席で、学園都市の芸術と言えば陽炎詠って言われてる位の人」
「そんなすごい人とまで、裕樹さん知り合いなの?」
「知ってるも何も、ユウのお得意様だぜ? 陽炎財閥って」
「――そう言えば裕樹は、陽炎財閥の商売敵、水鏡グループとの諍いで保安部を追放された過去があったな。そう考えれば陽炎財閥にとって、優秀な上に因縁関係方面で共通点があると言う、これ以上ない優良物件だな」
「――なんだか嫌な考え方だね。怜奈さんとっても優しいのに」
「個人がどうとかじゃなくて、グループとしてだよ。そう言うのは」
等と、外野がそれぞれいい合っている間に、裕樹は詠に歩み寄る
「で、どうしたんだ今日は?」
『仕事の依頼よ。勿論前金は用意してあるし、裕香ちゃんにも不自由はさせない』
「あーっ……悪い。今もう受け持ってんだ」
裕樹は宇佐美の方に視線を向け、そうやんわりと詠に伝える
詠は宇佐美(主に胸のあたり)をじっと見て、みるみる不機嫌になって行く。
『――あれで1年って言うんだから、ムカつく』
「なんだ、巨乳嫌いなの相変わらず――!!?」
裕樹の足に、詠の傘がめり込んだ。
「――結構嫉妬深い性格な上に、発育不良がコンプレックスなんだよ。多分つぐみにみなもも嫌われるだろうな」
「――思ったより難儀な人なんだね。所で、さっきから気になってたけど」
「詠お嬢さんの事なら、昔事故で声が出せなくなったらしい。あのぬいぐるみはDIEシステムで具現した、電子ツールの一種なんだ。簡単にいえば、DIEシステムであのぬいぐるみと脳を直結して、思った事をあのぬいぐるみが代わりに喋るって感じの代物」
「ふーん……DIEシステムって、結構いろいろと出来るんだね」
「その分、悪用や問題も色々と厄介なんだけどね」




