学園都市での想像から
ちょっと旅行パンフ見て、思いついた裕樹とひばりの話です。
「この食材って、山奥でとれる物だから……わあーっ」
「? 何読んでんだ、ひばり?」
「あっ、裕樹さん。ちょっと郷土料理関係を」
声を掛けた裕樹に、ひばりは手に持っている本を見せた。
日本の郷土料理を特集している、料理雑誌を。
「実はこの前、珍しい山菜が入荷されて、その山菜がある郷土料理の材料って聞いたから」
「郷土料理に興味がわいた?」
「はい。どの料理も地方の特色が良く現われてて、まるで旅行でもしてるような気分です」
「旅行かあ……奇遇だな」
そう言って裕樹は、カバンから一冊の本を取りだす。
「それは?」
「言語学の課題で、旅行記読んでレポート書けって」
「それ、英語……にしては、なんだか違和感ある羅列ですね?」
「そりゃフランス語だからね。言っとくけど、読めるからな」
フランス語のタイトルに、列車の絵が乗せられた表紙の本。
裕樹は本を開いて、ひばりに並んで読み始める。
「旅行、かあ……最後に旅行したの、いつだったかな?」
「そりゃ、流石の学園都市も行楽までが限界で、旅行だけは無縁だから無理ないけど」
「でも、憧れますね――この本みたいに、果てない景色を眺めつつ、列車に揺られながらの旅路なんて」
「行くなら鈍行が良いよ俺は。ゆっくり駅弁やお茶を嗜みながら、車窓からいろんな景色を眺める旅路……なんて、贅沢じゃない」
「良いですね。でもそれだけじゃなくて、一緒ならトランプも良いかもしれません」
「ババ抜きにポーカーが定番だな――乗り継ぎがあると、時間も考えなきゃいけないけど」
いつの間にか、2人の会話は仮想旅行の話へとシフトしていた。
「で、目的地に着いたらお食事だ」
「道中で駅弁食べてませんでした?」
「道中の食事は軽食です。旅行先では、ご当地品を食べるのが筋ってもんだ。やっぱり定番は蕎麦かなあ?」
「あたし、こういうお蕎麦が食べてみたいです」
「どれどれ……うわっ、美味そうだな。俺もそれ食ってみたい」
ひばりが郷土料理の本を差しだして、裕樹も嬉々として賛成する。
次に裕樹の本――山中の自然に囲まれた絵の乗せられてるページを、ひばりに見せる。
「目的地は、やっぱり山かな?」
「そうですね。ハイキング気分で綺麗な空気を思いっきり吸い込んで、景色を写真に撮ったりしたいです」
「山かあ……だったら、超高いつり橋とかある所が良いな」
「裕樹さん揺らしそうですね」
「言われたらやりたくなるな――で、山頂」
「夕焼けの景色ってきれいでしょうね」
2人は本を閉じて、話に花を咲かせていた。
「宿は……日本の旅なら、やっぱ旅館だ」
「はい。チェックインしたら、露天風呂に入ってみたいです」
「露天風呂かあ……月を見ながら、ゆっくりのんびりかな。裕香ははしゃぎそうだけど」
「? ――そうですね。周りに迷惑かけないよう、注意しなきゃ」
てっきり2人で旅行なイメージをしていただけに、ひばりは一瞬だけ動揺した。
が、考えてみれば3人仲良くが基本の為、持ち直す物あっと言う間だった。
「お夕食は……旅館と言えば、揚げだし豆腐に茶碗蒸しに、何と言ってもお刺身です」
「おっ、じゃあ――ドーンと舟盛りをさ」
「わあっ、贅沢の極みですね」
「そう言うのを、芸者さんを眺めながら……」
ひとしきり話し終わって、2人はふーっと息をついた。
熱中していたらしく、2人は心地よい疲れを感じている。
「――やばいな、話だけでも超楽しい」
「はい――本当に行きたくなってきました」
「いつか本当に行こうよ。金や計画なら俺がやっとくから、俺と裕香にひばりの3人で――まあ、俺とひばりでってのもありだけど」
「考えておきますね」




