学園都市の大晦日
「うーっ、寒い」
「本当ですね」
学園都市においては寺や神社はなく、初詣の代わりに大晦日の夜は二年祭りが行われる。
生徒会のその年の干支にちなんだ電子召喚獣及び、仮装や芸能学科生によるパレードに、大通りに並ぶ出店。
その立ち並ぶ出店の一角で、光一と歩美がおしるこの屋台を、つぐみとみなもが所属するサークルは、来年の干支にちなんでワタアメの屋台を開いている。
「追加の砂糖と塩、持って来たぞ」
「あっ、どうも」
その両方の手伝いとして、榊龍星は資材の運搬と言った力仕事を受け持っている。
報酬自体は、光一とサークルが一緒に出す方針で。
「ちょっとこっち着て、接客やって貰えるかな? そろそろ朝倉に休憩させたい」
「おう、任せろ。それじゃあゆっくりして来てくれ、歩美ちゃん」
「はい」
光一が歩美のおしるこの入った器を幾つか乗ったお盆を渡し、龍星と交代で接客に入ると、歩美は屋台の裏手に出てサークルと教養の休憩スペースに入って……。
「お疲れ様、歩美ちゃん」
「つぐみ先輩、みなも先輩。あの、こちら」
「それ、光一君のおしるこ? ありがとう――あちちっ」
「――おいしい」
先に入って休憩していたつぐみとみなもに迎えられ、歩美は2人におしるこを差し出す。
みなもが一口すすって熱さで驚き、つぐみは程良い甘さに関心の声を挙げる。
「――大丈夫?」
「あっ、あひはほうほは……あっ」
「大丈夫ですか? みなもさん」
「蓮華さん! それに、怜奈さんも」
みなもに苦笑しながら飲み物を渡したのは、黛蓮華と水鏡怜奈。
元々怜奈は和装が好きなのだが、大晦日使用なのか大財閥の令嬢らしい、格式の高い事が見てわかる着物を着た上で。
「ごめんなさいね。勝手に入ってしまって――表からでは、騒ぎになってしまうから」
「いえ、良いんですよ。待っててください、今ワタアメ貰って来ます」
「あの、こちらをどうぞ」
みなもが飲み物を飲んでる間に、つぐみがワタアメを貰いに行って、歩美がおしるこを手渡した。
――その一方。
「よっ、光一。来たぜ」
「流石光一、美味しそうな匂いね」
「これだから、光一君の屋台は見逃せないんだよね。ボクって」
光一の屋台に、一条宇佐美とアスカ・ホークアイを伴って、朝霧裕樹がやってきた。
「……どうしよう? またおいしいんだろうけど」
「悩むよね。お手頃価格なのも尚更だし……」
「やめとけって。どうせ明日体重げふっ!!?」
裕樹の暴言(笑)は、宇佐美の拳が腹に、アスカの電子召喚獣イクシオンの角が命中した瞬間に遮られた。
「……明けても暮れても、デリカシーのなさは致命的か」
「どうでもいいけど、店の前で騒がんで欲しいんだけど」
「コラ、一体何騒いで――あれ? 朝霧さん」
「……また何か言ったんですか?」
そのやりとりを見咎めた見回りの保安部員――中原大輔と高峰光がやってきた。
「よう、見回りご苦労さん」
「ああっ、光一も御苦労さま――ちょっと冷えたし、おしるこ2つで」
「ん、ありがとうございます」
「あっ、大輔君。私の分は――」
「良いよ、俺が出すって」
ピッ! ピッ! ピッ!
「おっ、カウントダウン始まったか」
一際大きな電子音が鳴り始めて、周囲が鎮まった。
時計を見てみれば、既に11時59分-―学園都市における、除夜の鐘の様な物。
「先輩」
「ああっ、来たか――って、水鏡のお嬢さんに、黛まで」
「まあそれはそれでいいか――今位は」
『30! 29! 28』
周囲がカウントダウンを揃えて叫び始める。
2桁を切った所で、裕樹が--
「それじゃ皆! せーの……」
ピーーッ!
『あけましておめでとうございまーす!』
--一方。
「あけまして、おめでとう」
「おめでとうございます--何も私に付き合って、サーバールームで年を越さなくても」
「我がそうしたいからいいのだ。さて、年越しそばも出来たころだ」
「……わかりました」