言葉の刃(3)
「よっ」
「お疲れ様、ひばり姉ちゃん」
その次の日の、ひばりの仕事上がりの時分
ひばりが仕事を終えて、着替えて終わってエントランスに差しかかった時。
「裕香ちゃんに、裕樹さん?」
「迎えに来たよ。はい」
「あっ、ありがとう」
笑顔で駆け寄ってきた裕香が差し出した、ペットボトルのスポーツドリンクを、ひばりは戸惑いながら受け取る。
「どうしたんですか? 2人して」
「昨日あんな事があっただろ? だからちょっと、気になってさ」
「……いえ、あたしよりも裕樹さんの方が」
そう言って、ひばりは周囲に目を向け――
「――ねえ、あれ朝霧裕樹じゃない? あの子は、妹さんかな?」
「へえっ、支倉さんって朝霧兄妹と仲良いんだ?」
「そうじゃない? 良く妹さんを預かってるって話、聞いたことあるから」
「もしかして、付き合ってるとかかな?」
「うん。見てるだけで、お姉ちゃんのように慕ってるのわかるよね」
「それは良いけど――でもなんか、あの身長差じゃ犯罪臭する組み合わせじゃない?」
「確かに、あの身長差じゃあね……意外とロリコン趣味とか?」
周囲が主に裕樹と自身を見て、何やら色々とコソコソ言い合ってるのを感じていた。
元々ひばりは、感受性が強い上に絶対音感も持っており、そう言う事は嫌でも感知出来てしまう為、悪口も混ざっている事が大きく起因し、裕樹達に対しての申し訳なさで居た堪れなかった。
「言わせとけ言わせとけ」
「そうそう。あんなの気にしたって疲れるだけだもん」
「……でも」
「私達が気にしないって言ってるから良いの。それより今日は、ユウ兄ちゃんが夕食は一緒にたべよって言ってるから、早く行こうよ」
裕香がひばりの腕をひっぱり、ひばりはまだ堅さの残る苦笑をする。
「支倉さん」
「課長? あの、何か?」
「いえ、何やら人だかりが出来てると聞き、来てみたら……」
「え? あっ、すみません」
ひばりの上司に声を掛けられ、そこで3人は周囲に思った以上の人だかりが出来てる事に気付き、3人して謝る。
余談だが、裕樹は基本的に女性関連同様に、自分が学園都市でも有名人である事にあまり自覚がなかったりする。
「…………」
「――?」
ひばりの上司が、裕樹とひばりの2人を交互に見比べ、裕樹を値踏みするように見始める。
「あの、何か?」
「――支倉さんの事、よろしくお願いします」
「え?」
「はいはい、エントランスで人だかりを作っていたら、業務に差し支えますから解散してください!」
裕樹にそう告げて、ひばりの上司は周囲の人だかりに声を掛け、解散を促し始める。
「課長……?」
「羨ましい位に良い上司もったな、ひばり」
「……そう、ですね」
「――ひばりが突き放す分には良いけど、俺は突き放したりしないからな。絶対に」
「え――?」
「さ、そろそろ予約の時間だから、急ごうか」
「うん。行こうよ、ひばり姉ちゃん」
「そうだね。どんなお店かな? しっかり勉強させて貰わなきゃ」




