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言葉の刃(2)

「――成程、事情はよくわかりました」

 保安部の詰め所にて。

 頬を膨らませ、ダンマリを決め込んでる初等部2人を尻目に、裕樹が代わりに事情説明し、それを受けた保安部員がゆっくりと2人に歩み寄る。

「人を嫌いになる事を悪いとは言わないけど、だからって家族まで貶すのは感心しないよ。君はもっと、人の気持ちになって考える事を覚えなさい」

「……はい」

「君もね、家族が貶されて怒るのはわかるけど、暴力は良くないよ。守る事と暴力は、決してイコールじゃないんだから、それを履き違えちゃいけない。良いね?」

「……ごめんなさい」

 こういう小規模な詰所では、実は初等部のトラブル対処が主な業務である。

 その為、保安部にはトラブルの仲裁を専門とする部署があり、その所属員が各詰所に配置され、事に当たっている。

「――どうもお手数を掛けました」

「いえ、とんでもない」

「「――ふんっ!」」

 事情聴取と説教が終わり、裕樹とひばりが頭を下げてる間、裕香達は変わらず犬猿の仲。

 にらみ合って、そっぽを向いたと同時に、その場を後にした。

「……」

 保安部の詰め所に来てからずっと、俯いて呆然としてるひばりを裕樹が促して。

「……ごめんね、ユウ兄ちゃん、ひばり姉ちゃん」

「相変わらずみたいだな、あの子とは」

「覚えてたんだ? ……うん、あれからもずっとああだよ。まさかひばり姉ちゃんにまであんな事言うなんて」

「……ロリコン……変態、趣味」 

 そこでようやく、呆然とした雰囲気のまま、自嘲気味にひばりがそう呟いた。

「気にする事無いよ。あの子、私がユウ兄ちゃんの妹だって言うのが気に入らないってだけで、いっつもああなんだから」

「……」

「……ひばり、姉ちゃん? ねえ、だから気にする事……」

「――仕方ないな。裕香、ちょっと下がってな」

 呆然とするひばりを、なんとかなだめようと語りかける裕香を制し、裕樹は――

「……?」

 膝をついて、ひばりを耳が自身の左胸に当たる様に抱きしめた。

 呆然としてるひばりは、そのまま裕樹の心音に浸り……心臓の音に心地よさを感じながら、徐々に自身のおかれてる状況を把握すると、ゆっくりと顔を赤くしていき――。

「――!!? ゆっ、裕樹さん!? 何を!!」

「眼ぇ覚めた?」

「離して下さい! 覚ましましたから離してください!!」

「ダーメ。俺の心臓の音でも聞いて、落ちついてから」

「こんな事になって落ちつけませんよ!!」

「――わあっ」

 パニック状態のひばりを、裕香がドキドキと言わんばかりにじっと見つめていた。


 ――数分後。

「――流石に恥ずかしかったな、あれは」

「だったらやらないでください! 大体さっき変態趣味呼ばわりされたばかりなのに」

「だってああでもしないと、ひばり目を覚ましそうになかったから」

「それでもですね、結婚もしてないのに抱きしめるだなんて、非常識です!」

 裕樹はようやく普段通りに戻ったひばりに、抱きしめた件について説教されていた。

 裕樹も元々怒られる事覚悟の上でやった為、なすがままになっている。

「――? 抱きしめるっていけないの? 私、ユウ兄ちゃんにも……」

「裕香ちゃんの場合、兄弟のスキンシップの範疇だから文句は言わないよ。だけどあたしと裕樹さんの場合は別で、こういう事はキチンと段階を踏んでからやるべき事で……」

「……」

 裕香に男女関連を諭している間に、ひばりがふと裕樹がぽかんとした表情で見てる事に気づく。

「なんですか?」

「いや、月にクリスと言った面々を始めとして、仕事面でも色々と見てきた所為か、そう言うプラトニックな恋愛観ってホントにあるんだなあって」

「――色々と怖くなりそうだから、ツッコミは入れませんからね?」

 ぶすっとしながらひばりはそっぽを向いて――

 先ほど裕樹に抱きしめられた感触と、冷静になって思い出した少しリズムの早い心音を思い出し、耳まで赤くなる。

「いきなりあんな事したのは、悪かったよ――でも気にしてないって言っても、ひばりわかってもらえないだろ? だから、俺なりの愛情表現のつもりだったんだけど……」

「――もう良いです。裕樹さんの事疑ったりしませんから、二度とあんな事はしないでくださいね?」

「はーい」


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