言葉の刃(1)
今回は鬱展開です
「――裕樹さんは、裕香ちゃんの事が好きですか?」
時分は夕方。
本日は特売日と言う事で、ひばりは行きつけのスーパーで裕香と一緒に買いものをし、その際あった裕樹と一緒に帰宅の、人通りの少ない通りの道中。
「――どした、いきなり?」
「聞いてみたくなったんです」
「好きに決まってるだろ。可愛い妹なんだから」
「うん、私もユウ兄ちゃん大好き」
「人を好きになるって、どんな感覚ですか?」
ひばりの質問に裕樹は疑問符を浮かべ、すぐに腑に落ちた様にああっと言う表情に。
「こんな感覚」
それより早く、裕香が買い物袋を落とさない様に気をつけながら、ひばりに目立たないように寄り添った。
「私はね、ぎゅーっとして欲しいとか、一緒の時間がたくさんほしいとか、かな?」
「裕香ちゃんは、そんな感じ?」
「うん。ひばり姉ちゃんは違うの?」
「――違わないよ。あたしも裕香ちゃんにはぎゅーっとして欲しいし、一緒の時間がたくさん欲しいって思うから」
「なんか俺より、裕香の方がひばりのケアには最適かもしれないな」
「そうかも、しれませんね」
裕樹はひばりと顔を見合わせ、笑い合う。
「――今ね、私すごく幸せだよ」
「そう?」
「うん……ユウ兄ちゃんがいて、ひばり姉ちゃんがいて、こうして大好きな人と一緒に居られるって、すごく幸せだなって思う。だから、ずっとこういう時間が続けばいいなって」
「うん。あたしも……」
「――朝霧さんじゃない」
「……!」
声を掛けた相手――クラス委員長を見て、裕香は珍しく嫌悪感をあらわにした。
ひばりは初めて見る裕香のそんな表情に動揺し、裕樹は見覚えのある顔に苦笑する。
「どっ、どうしたの裕香ちゃん?」
「……行こ、ユウ兄ちゃん、ひばり姉ちゃん」
「――姉ちゃん? まさかその子、そんなで朝霧裕樹の彼女とか? ……うわっ、ロリコン」
「――!?」
「やめてよ! ひばり姉ちゃんはれっきとした、高等部の先輩なんだから!」
「そんなのが? 驚いた。朝霧裕樹がそんな変態趣味だったなんて、サイッテ……」
ビシっ!!
中傷発言以上に、ひばりはショックを受けた様に眼を見開いた。
裕香が少女に、怒りをあらわにした表情で頬をはたき、襟元を掴みあげている。
「ユウ兄ちゃんとひばり姉ちゃんに謝って!」
「何すんのよこの!」
「謝ってって言ってるでしょ!! 頭いいくせに、日本語わからないの!!?」
「やっ、やめろ裕香!」
2人して取っ組みあいになり、慌てて裕樹が間に割って入り、腕を噛まれたり掻き毟られながら、無理やり2人を引き剥がす。
「コラ! 何やってるんですか!!」
「――あっちゃー」
「あれっ、朝霧さん? ――事情聴取の為に、詰所に来ていただけますか?」
「――わかった」
保安部員に手伝って貰いながら未だに暴れる2人を抑えつつ、裕樹はふとひばりに目を向ける。
――ショックを受けた様に俯いて、今にも泣きそうな雰囲気を漂わせながら、呆然と佇んでいるひばりに。
「……厄介な事になったな」




