久遠光一の裏稼業
屋台通りには、見回り以外には仕事の依頼目的で保安部が訪れる事がある。
その役割は主に、保安部長官直々の命を受けた高峰光が受け持ち、最初こそ変装で初等部の格好をしていたが、光自らの苦情で今は私服を主とし、光一の屋台で買い物をする振りをして、依頼内容を送信している。
「――毎度」
「じゃあ、よろしく」
夏になってから、光一の屋台メニューはかき氷がメインの為、光は氷イチゴをパクッと食べ、キーンと来たらしい雰囲気を漂わせながら、その場を後にした。
「さて……朝倉、ちょっとここ頼むわ」
「はい」
光一には保安部からは、主に調査を依頼される。
光一は身体能力はない物の、頭の回転が速く咄嗟の機転が利き、武器の扱いに関しては保安部でも指折りの実力者であり、何より電子召喚獣シラヒメがいる事もあり、重要度の高い内密な調査はほぼ全部光一が受け持っている。
「おっ、仕事の依頼か?」
「ああっ。と言う訳だから」
「よし、任せろ」
休憩スペースに入ると、龍星が光一の屋台へと歩を進め、光一はD-Phoneに送られた依頼内容を、ざっと読んでいき……。
「――極秘事項に該当するからやめろって、以前言った筈だけど?」
ふと、背後からこっそり近づいてくる気配を感じて、光一は振り返らずそう告げ――
「あっ、やっぱりバレましゅた?」
「だからやめようって言ったのに」
「でも、ちょっと気になっちゃって……」
光一の予想した声、みなも、つぐみ、宇佐美が罰の悪そうに謝罪する。
更にその後ろでは、裕樹もコーラフロートを手に、苦笑していた。
「まあ確かに、こんな所で読む俺も悪いとは思うけど……」
「いえ、私達も好奇心とはいえ、覗き見何て趣味悪いと思いましゅけど」
「でも、保安部が新体制への改革を推し進めるようになって以来、増えたね? 極秘事項の調査依頼」
北郷正輝は保安部長官就任以降、保安部の改革を推し進めている。
法律を差別と暴力の基準と履き違えないよう、主眼を罰する事ではなく許す事に置き、人道的な秩序を守る組織として、保安部を機能させるべく。
「新体制への移行ってのは、どうやったって金と時間がかかるから、その分膿も出来やすくなるんだよ。それに保安部の新体制は総書記、総副会長が共同で賛同してる事もあるから、尚更にね」
「――なんかやだな、そう言うの。兄さんが金のなる木みたいに扱われてる感じ」
生徒会総書記、一条宇宙は宇佐美の実の兄である。
更に宇佐美は、結構お兄ちゃん子な部分がある為、こういう話にあまり良い顔はしない。
「でも、めじゅらしいね? 確か総副きゃい長って、一条総書記と思想の違いで派ばちゅ規模の対立を繰り広げちぇるって話なのに」
「うん。一条さんが人情派なのに対して、総副会長は冷酷な現実主義だから、生徒会の議会は2人の対立で成り立ってるって言っても過言じゃないって、何度もニュースで言ってたよね?」
「それだけ、保安部の新体制移行を両名共に重要視してるって事だ」
そこで、コーラフロートを手に、裕樹が話に入ってきた。
「ふーん、そうなんだ。でも協力するのは良い事だし、気にする事無いかな?」
「そうれしゅね。あの優しい総書記と怖い総副会長が2人きょりょうくなんて、想じょう出来ましぇんけど」
そこで宇佐美が疑問符を浮かべた。
以前保安部の新体制移行は、かつて保安部で度を超えた処罰とは言えない暴力で保安部を追われ、今は東城勢力に与している狂人、椎名九十九の所業によるものだと光一から聞いていた。
それだけの所業をしているにも拘らず、宇佐美は椎名九十九と言う名を聞いた事はないし、ニュースサイトを調べても話題に上ってさえもなければ、つぐみにみなもと言った先輩達も知らない始末。
「……Sランク手配犯、特に椎名九十九の所業は公に出来ないから、情報規制がかけられてんだよ。そういう背景があるから、宇宙も大神も共同で推し進めてんだ。2人とも主義思想がある分、今の立場に対する責任感は強いから」
「……ああっ、それで」
「――それに、知らない方が良い……宇佐美が普段浴びてる様な温い嫉妬とは、根本的に違うから」
その疑問符を見透かしたように、裕樹が宇佐美に耳打ち。
そして、宇佐美もまだ聞いた事がない、有無を言わせないと言わんばかりの雰囲気が後押しして、宇佐美も云々と頷いた。
「――さて、今日だけど夕食は豪勢なディナーにご招待しようか?」
「え? いいの?」
「ああっ、顔見知りが店長務めてるフランス料理店から、お誘いがあってね」
「フランス料理かあ……うん、行く。じゃあ早速ドレスに着替えなきゃ」
「そうだ、つぐみにみなももどごへっ!!?」
「「……裕樹先輩 (しゃん)、不合格です」」
「さーて、俺はお仕事に行って来るか。龍星のダンナには、片付けと朝倉の送り届けも頼んどかないと」




