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始まりの記憶(2)

「お帰りなさい。ひばり姉ちゃん」

 ひばりにとって、有能な両親であるが故に忙しく、家で誰かが出迎えてくれる経験は初等部以来滅多にない。

 学園都市では寮住まいで、独立する中等部以降は里帰りにおいても母が死んで以来、実家でさえ父が出迎えてくれる事どころか、自身が出迎える位。

「今日のご飯は、ミートソーススパゲッティだよ」

 裕樹に頼んで裕香を預かって以来、家で裕香がごはんを作って待っていてくれる事は、既に日常だった。

「――ありがとう、裕香ちゃん」

「えへへ~♪」

 こういう時、ひばりは母が自分によくやってくれてた様に、裕香の頭を撫でてあげる。

 裕香が心地よさそうに顔をほころばせ、本当に嬉しそうな顔をしてくれる事が、ひばりには心地よかった。

「早く食べよ、冷めちゃうよ」

「うん」

 ひばりは裕香がいる生活に心地よさと、今までにない充実感を感じていた。



「どうしたのいきなり?」

「……どうしたのはあたしのセリフです。そのビンタ痕、また宇佐美ちゃんを怒らせたんですか?」

「いや、その……」

「湿布をはりますから、しゃがんでください。真面目な話をしに来たんですから、そんな顔で居られたら困ります」

 その次の日の昼。

 ひばりは裕樹を訪ね、ちょっとしたハプニングを交えた後に、2人で自然公園のベンチでランチタイム。

「そう……裕香との生活、思った以上に充実してるようだね」

「――今までにない……いえ、今までずっと忘れてた感覚を思い出した気分です」

「だろうな。ひばり、今までにない位生き生きとしてる」

「そう、ですか?」

「ああっ。今までよりもずっと、自然に良い子で居られてるよ」

 そう言われて、ひばりは安心と嬉しさの籠った笑みを浮かべる。

「――あたし、ユウさんに謝らなきゃいけない事があります」

「?」

「あの時、あたしの罪を相談する時……ユウさんの事、信じたのは本当です。だけどあたしはユウさんに、あたしから裕香ちゃんを遠ざけて欲しかったのも、あるんです」

「……」

「勿論、ユウさんにだって知られるのは、怖かったです……だけど、あんなにあたしをお姉ちゃんに欲しがってる裕香ちゃんに諦めて貰う為には、仕方がないことだって」

「けど……」

「はい――今思えばあたし、裕香ちゃんから逃げたかっただけでした。今はもう、きちんと裕香ちゃんと向き合って、ユウさんにも言った、あたしなりの良い子の答えを探してる最中です。だから……」

 そう言って、ひばりは頭を下げた。

「ごめんなさい」

「――謝らなくていい。ひばりだって、怖かったろ?」

「……怖かったです」

「だったら良いよ。謝る様な事じゃない」

 裕樹はひばりをなだめ、ひばりはゆっくりと頭を上げ……

 裕樹の眼をじっと見据え始めた。

「あの、ユウ……裕樹さん」

「どうした? 改まって」

「“可能性はあるって思っても良い?”……って言ってくれた事、覚えてます?」

「――ああっ、覚えてるよ」

「あたし、裕樹さんともちゃんと向き合いたい――今はまだ、これが精一杯です」

「わかった。じゃあ後は俺の……いや、俺達の努力次第って事か」

「達?」

「俺と裕香とで。兄妹そろってってのが、俺達共通の理想だから」

「――本当にそうなれたら、素敵ですね」

「え?」

「いえ、なんでもありません」


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