とある2人の静かな食卓
今回はGAUさんの来島アキです。
「入るぞ」
保安部に宛がわれたビルの、サーバールーム。
そこに来訪して来たのは、ポットと弁当の入った御重を手にした保安部長官、北郷正輝は室内に入り周囲を見回すと、この部屋の主ともいえる少女の姿を見つけ、歩み寄る。
「……またここで寝泊まりしたな?」
「ああっ、北郷さんですか……大丈夫です、仕事なら先ほど」
「まずは場所を変えよう。それについての報告は、食事をしながらだ――言っておくが、長官命令だ。反論は許さん」
「……わかりました」
保安部電子セキュリティー課、来島アキ。
常人をはるかに上回る思考速度とコンピュータ染みた頭脳を持つ半面、感情の発露が皆無で興味のない事には無頓着。
その頭脳と思考速度を活かし、学園都市の電子網の整備と、その合間に趣味のネットゲームに興じる少女は、授業以外ではサーバールームから出ようともしないので、正輝は時間があれば彼女を訪ね、外に連れ出している。
「タロス、ここは任せました。何かあれば呼びだして下さい」
『ゴォオ』
青銅の身体を持つ、ゴーレム型電子召喚獣、タロス。
通常種、古代種、幻獣種と、動物を模った姿が一般的な電子召喚獣の中で、人型と言う特異な特徴を持つ電子召喚獣は、サーバーのディスプレイに吸い込まれるように消えて行き、その場から姿を消した。
「……太助に関する情報は入ったか?」
「いいえ……彼も私も、互いの手口は知り尽くしてますから、そう簡単に情報は手に入りませんし、手に入ったとしても捕縛どころか対処できるかすら、わかりません」
アキも独自に、保安部で鹵獲した違法召喚獣の解析を試みている。
しかしわかった事は、何らかのプログラムを組み込む事によって、電子召喚獣を騙している事と、そのプログラムも決まった手法以外で開こうとすれば、消去される仕組みになっている事のみ。
「しかし、もたつく訳にもいかん」
「――でしょうね。機動部隊で対処できる物も、所詮は素体を騙した量産品。もしこれが“四凶”達に施されでもしたら」
これは学生では、アキと正輝しか知らない事だが、太助は電子召喚獣の成長の分岐の法則を、人為的な方法で確認する試みを行っていた。
その試みに使った4体分の素体は、窮奇、鼟餮、渾沌、檮杌――四凶を模った幻獣種となり、太助はそれらを自分の電子召喚獣として扱い、そう接していた。
「窮奇のクレナイ、鼟餮のシラヒゲ、渾沌のソウガ、檮杌のクロカミ……性能こそ、正式な物ではない分それ程ではなかったが、あいつ等は揃って太助に懐いていたからな」
「この技術の全容がわからない以上断定はできませんが、この4体は使用して来る可能性は、非常に高いでしょうね。それも強力な物として」
「――これは、我もただでは済みそうにないな」
「ですので、調査は急ぐ必要があるのですが……」
「その前にだ」
場所は、無人の食堂のテーブル。
アキの目の前には、正輝の淹れたお茶と、用意して貰った御重が広げられている。
「まずは食事だ」
「食事でしたら……」
「2人で食べたいんだ――もう保安部には、アキ以外に友人と呼べる者はいない」
「――わかりました。でしたら友人として、一緒に食べましょう」