始まりの記憶
ずっと、良い子として生きて来たつもりだった。
お母さんの死以降、遺言通りに良い子であろうとして――けれどあたしは、気付くどころか考えもしなかった。
お母さんが一体何を思って、あたしにあの言葉を遺したのか。
お母さんにとって、あたしは一体何だったのか?
良い子とは、一体何なのか?
――それを考えた時、あたし1人が出した答えは、あたしが思った以上に脆くて矛盾だらけで、都合が良いばかりで教科書の通りですらなくて。
だからあたしは、あたしにとっての良い子の答えを探します。
今度はお母さんが、あたしに何を願ってその言葉を遺したのかを考えながら――もう、お母さんもあたしを大切だと言ってくれる人も、無視をしない様に。
まずは――
「今日からお世話になります。ひばり姉ちゃん」
あたしを姉として慕ってくれる少女を、信じる事から――。
この子の笑顔を守れる様になる事から、もう一度やり直します。
“始まりの記憶”
「よろしくね裕香ちゃん」
裕樹との会話を済ませ、3人で朝霧兄妹の家での昼食。
それが終わってすぐに、裕香が荷物を纏めひばりの世話になる事が決まって、今はひばりの寮の部屋。
1人暮らしの間取りではある物の、子供1人預かるのに不自由はなく、増して裕香は何度も預かってきて、ここでの生活リズムは把握してる。
「今日からしばらく、ここが裕香ちゃんの家だよ」
「はーい。でもどうしたのいきなり?」
「特に何もないよ。ただ、裕香ちゃんと一緒の時間が欲しくなったの」
「――?」
裕香が疑問符を浮かべる中で、ひばりは冷蔵庫に歩を進める。
裕香を預かるのは、事前連絡の時もあれば急になる事もある為、ひばりは食材を多めに買っておく。
昼食時は機能上、外食派が大半を占める学園都市において、ひばりは数少ない弁当持参派なので、多めの買い出しは特に苦でもない。
「さて――裕香ちゃん、一緒にテレビ見る?」
「うん」
裕香を促し、ひばりは一緒にソファーに座り、テレビの電源をつける。
こういうゆったりした時間になると――
「……ぴと」
早速裕香は甘えん坊ぶりを発揮し、ひっついてくる。
身長が近くなったせいか、体を密着させると裕香が自慢のチャームポイントにしてる、柔らかなほっぺが自分のに当たる。
いつもなら、裕香に甘えるがままにさせる所だが――
「――?」
ひばりは自信も裕香の身体に、抱きつく様な形で手を回す。
「――? ひばり姉ちゃん?」
「今はね、裕香ちゃんにたくさん甘えて欲しい気分だよ」
「そうなの? ――えへへ~♪」
甘えて欲しいと言われてご機嫌になった裕香が、ひばりに抱きついて頬ずりし始めた。
ひばりは苦笑しながら、裕香の背と頭を撫でて、させるがままになっている。
「――あったかいなあ」
今までとは違う気持ちの持ちようとなった所為か、裕香に懐かれる事やひっつかれる事に、ひばりは今までとは違う心地よさを感じていた。
「……不思議だなあ」
「? 何が?」
「――裕香ちゃんが甘えるのが大好きなの、よくわかるよ」
ひばりは裕香をぎゅーっと抱きしめる。
昔、ひばり分補充と言って、母が良くやったように。
「――お母さんも、あたしを抱きしめてくれてる時、こんな気分だったのかな?」
「? 何か言った?」
「しばらく、こうしてていいかな? 裕香ちゃん分が不足して、大変な事になってるから」
「うん。私もひばり姉ちゃん分が全然足りないから、お願い」
「--裕香ちゃん分、補充」
はい、ひばりの新たな一歩
この作品でのその一歩は、裕香との関係の見直しから始まります。
裕樹とひばりのカップリングは、まだ完全に裕香頼りなので
まだまだフラグ成立には程遠いですが、頑張っていきます。
裕樹とひばりだけのネタ、現在模索中です。
--その前に、そろそろ他のキャラの事も書かないと。




