過去との対面(2)
「相談?」
「はい――実はあたし達、ちょっとした三角関係だったんです」
「三角関係? ――って事は、ひばりはその男の子の事が」
「はい――初恋でした。だけど相談されたのは、もう1人の子の事。男の子が好きなのは、あたしじゃなかったんです」
「そうなんだ――ってもしかして」
「ええ。女の子の方も、男の子の事が好きだって相談されたんです」
――聞いちゃいけなかった事かも知れない。
裕樹は直感で、そう感じていた。
「――だからあたし、その事が受け入れられなくて……嘘を、ついちゃったんです」
「嘘?」
「――お互いに、好きな人がいるって事を伝えて……“誰かは知らないけど”って」
裕樹は用心棒稼業を営む最中で、悪質な詐欺やペテンと相対する機会等幾らでもあった為、嘘と言うには拍子抜けの印象が否めなかった。
――が、ひばりの話がまだ途中だった為、口には出さずに次に集中する。
「ただ、後になってそれを後悔したんです。お母さんに、“嘘を吐いたら罰が当たる”って言われたばかりで、何より大切な友達に嘘をついちゃったから――だから、その事をお母さんに相談しようとして……」
「――まさか」
「あたしの眼の前で、お母さんが血を吐いて倒れて、そのまま――」
それからひばりは、完全に表情をなくしたまま話を続ける。
“元気で良い子に。2人を守ってあげるのよ? それから……”
と言い残し、臨終の時を迎えた事。
そしてそれ以来、2人の幸せと母の最期の言葉を守る為だけに生きる事を、幼心に誓った事。
「……こんな嘘をつく様な悪い子なあたしに、幸福になる資格なんてないんです」
「――大抵の闇に不幸は見て来たけど……こんな残酷すぎる偶然、初めてだ」
「だからあたしには、裕香ちゃんのお姉ちゃんになってあげる事も、ユウさんとそういう関係になる事も、あっちゃいけない……だから」
「――ひばりの母さんって、どんな人だったの?」
ひばりの言葉を遮る様に、裕樹は見ていられないという表情で質問をする。
「――? なんで、そんな事を?」
「俺は兄として、裕香が大事だって気持ちは誰にも負けない自信はある――けどその反面、俺はひばりみたいに、裕香が懐いてる女性には叶わない部分があるのも、理解してる」
「そんな事ありません。あたしはユウさんと違って、裕香ちゃんのお母さんでもなければ、お姉ちゃんでも……」
「愛情面で男は女には勝てないって、実体験で思い知った事だよ。勿論、モンスターペアレンツや育児放棄の類には、負けない自信はあるけどね」
“だから”
そう言って裕樹はにっと笑う。
「――ひばりの母さんがどんな人だったかはわからないけど、俺が思った通りの人なら、もっと別の物を伝えたかったのかもしれないって、そう思えてならなくてさ」
「……」
「まあ男の、それも俺みたいなののカン見たいな物なんて、信用しろって方が……」
「いえ……ユウさんを信じるって決めて、納得して欲しくてここに来たんです」




