過去との対面(1)
所は、朝霧兄妹の住居。
生徒総会の紹介だけあって、学園都市でも最高級のマンションであるその一室。
「――そう言えば、ユウさん達の部屋に入った事って、そんなにないですね」
「裕香預かって貰う以外で、そう接点がある訳でもないから、無理もないさ」
そこで裕樹とひばりの2人で、向き合う様に座っていた。
大抵が裕香をひばりの寮で預かって貰う為、ひばり自身はこの部屋に馴染みがないが、今日は事情が違った。
ひばりは女子寮に住んでいて、基本的に女子寮は男子禁制。
なので、2人で話が出来る場は朝霧兄妹の家しかない。
「裕香ちゃんは、今日はお友達とお買いものでしたね?」
「ああっ――多分だけど、裕香には聞かせられない話だと思うし、都合が良い」
「……なんで、そう思うんですか?」
「以前裕香の手を振り払った時と、昨日のひばりの母親の事が書かれた雑誌を見た時――雰囲気が似てたから」
そこで裕樹は言葉を切って、用意しておいたコーヒーを一口。
「……ひばりこそ、なんで今話す気になったんだ?」
「――実はあたし、小さい頃からよくいじめられてて。だから男の人と接するの、抵抗感があるんです……正直な話、ユウさんの事も裕香ちゃんを通してとはいえ、信じられなかったんです」
「って事は、俺の事少しは信じてくれた……のかな?」
ひばりは無言で頷いた。
「――以前あたしに、“可能性はあるって、思っても良い? って言ってくれた事、覚えてます?」
「覚えてるよ――結局有耶無耶になっちまったけど」
「可能性は……あっちゃいけないんです」
裕樹は表情を変えず、ひばりの眼を見つめる。
――が、しばらく沈黙の時を貫き、そっと目を伏せる。
「――その様子じゃ、原因は俺達って訳じゃなさそうだけど、それで良い?」
「はい――これは、あたしの罪なんです」
「穏やかな話にはならない――とは思ってたけど、まさか罪とはな。その罪、まさか……」
ひばりを見て、裕樹はその先を言えなかった。
ひばりはぽろぽろと涙を流して、俯いている。
「――ひばり?」
「――あたしの所為で、お母さんが……お母さんを殺したあたしに、そんな可能性なんて、あっちゃいけないんです」
裕樹は今、ひばりが何を言ったのかがわからなかった。
しかし、俯いて泣いているひばりを見て、それが嘘だと思える程裕樹は神経が太くない。
「――ひばりの言葉が信じられない時が来るなんて、思ってもみなかったってのが、今の俺の正直な気持ちだ」
「――嘘じゃ、ありません」
「話、聞いても良いかな? 母親の事が書かれた雑誌を見た時の事は、良くわかった……が、裕香に対する反応には辻褄が合わないから」
「……わかりました」
「ただ、その前に――約束して欲しい事がある」
「――なんでしょう?」
「――その罪がどんなものかは分からないけど、それを理由に、裕香を遠ざけようとしたり、離れようなんて考えるのはやめてくれないかな?」
「……でも」
「どんな事情があっても、裕香は絶対ひばりから離れるのを嫌がるから――だから、頼む」
「……わかり、ました」
裕樹が心底ほっとしたのを見て――ひばりは裕樹から眼をそらし、その心の奥底で同様にほっとしていた。
「――あたしには、幼馴染がいるんです」
「幼馴染?」
「はい――この学園都市に来る前も来た後も、ずっと一緒の男の子と女の子が1人ずつ……今は2人とも、家庭の事情で学園都市から離れて、故郷に帰っちゃったんです」
「……へえっ、そうなのか」
「――きっかけは、その男の子にある相談を持ちかけられた時なんです」




