朝霧裕香の学校生活
「準備出来た?」
「うん」
朝の身支度、朝食、ゴミ処理の準備に戸締り。
それらを兄妹で行って、出発準備完了。
ゴミ捨て場にゴミを捨てると、兄が愛車のバイクの在る駐輪場へ向かい、裕香は徒歩でバス停へ。
「じゃあ頑張って来いよ」
「うん。ユウ兄ちゃんも、宇佐美姉ちゃんしっかり送り届けてあげてね?」
裕樹は宇佐美の出迎えがある為、バイクを走らせ迎えに行く。
それから裕香は指定のバス停(路面電車は基本的に中等部からとなり、初等部の内はスクールバス通学)へと向かう。
通常は初等部寮と学校の往復となるのだが、裕香の様に身内と暮らしている場合も考慮し、幾つかのバス停を経由しての運行となる。
「おはよー、みっちゃんになっちゃん」
「あっ、おはようゆーちゃん」
なので、バス停に行けば裕香の友達とも会う。
初等部に入って4年続けた一緒の登下校仲間と会話に花を咲かせつつ、楽しい通学。
学校につけば、バスから降りて自分の教室へ。
「おはよう」
「あっ、おはようゆーちゃん」
裕香は学校の友達からは、兄がユウと言う愛称を持ってる様に、ゆーちゃんと呼ばれていて、実はちょっとお気に入り。
しっかり者で人懐っこい裕香は、兄が有名人である事も加え、クラスの中では人気者。
「何が人気者よ。朝霧裕樹目当てのミーハー引き連れてるだけじゃない」
しかし、皆が皆そうと言う訳ではなく――
今裕香を罵倒した、クラス委員長を務める女子にとって、自分よりも人気がある上に、血統書付きの裕香は眼の上のたんこぶの様な物だった。
取り巻きがそうよそうよと言わんばかりに、裕香に敵意の視線を向けるのを裕香は顔をしかめ、物怖じせず一歩前に出る。
「――ユウ兄ちゃんの名前使って悪口言うの、やめてって言った筈だけど?」
「そのユウ兄ちゃんの名前がなきゃ、ただのぶりっ子じゃない。テストだって体育だって、私に勝てる物なんか何もないくせして」
「私に文句言う前に鏡見たら? そんな底意地悪くなる位なら、そんなので勝ちたいと思わないもん」
「何よ!」
キーンコーンカーンコーン!
「チャイムなったよ? クラス委員長はせきにんじゅーだいなんだから、偉そうに踏ん反り返るよりしっかりとお仕事しないと」
「暇なだけのあんたと一緒にしないで。わかってるわよそんな事!」
舌打ちして席に戻る委員長に、べーっと裕香が舌を出す。
朝霧裕香の学校生活は、こんな感じでいつも始まる。
それから朝のHR、授業に自由時間。
そして、昼は初等部は給食なので、裕香は中の良い女子とグループを組んでの食事。
「ねえねえ、ゆーちゃん。お兄さんって、恋人とかいるの?」
「え? ――ううん、いないよ? ユウ兄ちゃんってデリカシーない上に、女の人の扱い方がすっごくヘタだから、良く女の人に怒られてるみたいで」
「へえっ、そうなんだ――確か今は、宇佐美ちゃんに雇われてるんだよね?」
「なっちゃんも宇佐美ちゃんのファンだよね? ユウ兄ちゃんに頼んでみよっか?」
「――やっぱり兄頼みなだけじゃない」
「でも宇佐美ちゃんって忙しいみたいだから、都合つくかわからなくて」
「えっと……ざっ、残念だなあ?」
裕香が陰口をガン無視して話を進めるのに対し、他の話をしてる女子たちは苦笑する。
「あっ、そうだ。新しい髪の編み方教えてもらったから、やってみない?」
「新しい? ねえゆーちゃん、どんなのどんなの?」
「アタシにやってみてくれないかな?」
と、そんなこんなで楽しく(?)給食時間を終えて、午後の授業。
「それでは、昨日のテストを返します」
裕香は得意不得意科目はないが、点数は平均。
出来不出来は特に気にしてはいない。
「あら、相変わらずの点数ね?」
「ねえみっちゃんはどうだった?」
絡んでくる委員長をまたもガン無視し、裕香は友達に声を掛ける。
「無視すんな!」
「――弱い物いじめなんてして楽しい? ただカッコ悪いだけなのに」
「何よ、じぎゃくはつげん?」
「委員長にとって私は、ユウ兄ちゃんに頼らなきゃ何もできない弱い者でしょ? そうやって弱い者いじめしたがるから、人気で私に勝てないんじゃない」
「言ってくれるじゃない、七光女!」
「なによ、性悪!
「やめなさい!」
テストを返していた先生が間に入り、険悪な雰囲気のまま授業は終了
それから帰りのHRを終えて、下校。
「もうっ、いっつもいっつも感じ悪い! こんなだったら、私が委員長やればよかった」
いつもの事ではあるが、委員長と対立した日の裕香はご機嫌斜め。
取っ組み合いのケンカこそ、以前裕樹を保安部追い出された役立たずと罵られた時の1度しかしてはいないが、2回目も時間の問題だとクラスの中では言われている。
「――こんな日はつぐみ姉ちゃんのお菓子と、みなも姉ちゃんのスキンシップで気晴らしするのが1番。早速屋台通りに行こっと」
そう言って今日のお菓子は何かな、と楽しみを不機嫌と中和して、裕香は一路屋台通りへと歩を進める。




