朝霧裕香の華麗にして波乱万丈な休日(6)
「……あの、月さん?」
「なあに、ひばり?」
「話をするって連れだした筈……ですよね?」
「そうよ」
ひばりが連れて来られた場所は、先ほどとは違うブティック。
それも普段着の類ではなく、女性用のスーツを取り扱う、月の様な女性が御用達にしそうな敷居の高い店。
「――それで、なんでこんな所に?」
「だって元々繁華街には、来週の論文発表会で着て行くスーツ、買いに来たんだもん。その途中で、なんか妙な雰囲気のひばり達見つけたから」
「いえ、答えになってません」
「まずは気分転換よ。そんな沈んだ表情でまともに話なんて、出来る訳ないでしょ?」
普段こそ、セクハラじみたスキンシップが先立つ月だが、こういう気遣いの出来る愛情深い面もある。
高等部3年と、1つしか違わないにも拘らず自分よりも大人らしい月は、ひばりにとっては(真面目な時限定で)憧れの女性。
勿論普段の月と居る時間も、ひばりは決して嫌いと言う訳ではなく――
「ねえひばり、これ似合う?」
「流石、月さんがきると格好いいですね」
「そう? じゃあこっちとこっち、どっちがいいかな?」
「そうですね……こっちかな?」
「そう? じゃあこっちにしよ♪」
既に他界した母、美空と性格的に似通ってる部分がある所為か、時折母との時間を思いだしてしまう。
「良いんですか? それ、大事な論文発表会で着て行く物なのに」
「ひばりが気に入ってくれたから。理由なんて、それで十分よ」
会計を済ませ、2人で店を出て適当な場所で立ち止まり――
「さて――表情もほぐれた事だし、説明して貰えない?」
「……裕香ちゃんには、ちゃんと謝ります」
「カウンセリングの勉強はしてるから、力にはなれると思うけど?」
「――お気づかいは嬉しいですけど、大丈夫です」
「ひばり、会話を成り立たせて。言いたくないなら言いたくないで良いから」
「だから、悪いのは……」
「――裕香ちゃんに謝りたいんならまず、“都合のいい子”で居るのはやめて」
月のぴしゃりと言い放った言葉に、ひばりはガンと頭をハンマーで殴られたかのような衝撃が走る。
「――なん、で……」
「心配しなくていい。悪いのは全部自分……ほぼ教科書通りの良い子だから」
「――教科書?」
「ひばり、良い子に必要なのは教科書じゃないの。そして、その必要な物なんて、もうひばりは持ってる」
「持ってるって……なんだって言うんですか?」
「――残念だけど、私に言えるのはここまで。後はユウと裕香ちゃんと一緒に過ごして、自分で考えてみなさい」
「え……!?」
「ここで言ったら、私にとって都合のいい子になっちゃうでしょ? --大丈夫よ、朝霧兄妹もきっと私と同じ気持ちだから。さ、そろそろ戻りましょ? ユウには色々と話さないといけない事あるし」




