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朝霧裕香の華麗にして波乱万丈な休日(5)


「――? どうしたの、ひばり姉ちゃん」

「……なんでも、ないよ?」

「そう? じゃあどこかで喫茶店で、何か飲もうよ」

 そう言って、自然に裕香はいつものように、ひばりと手をつなごうとし――

「――!」

 咄嗟にひばりは、裕香の手を振り払った。

「えっ――!? ひっ、ひばり……?」

「――ひばり、姉ちゃん?」

 突然の事で、裕樹も流石にひばりの行動には驚き、眼を見開く。

振り払われた裕香も、つなごうとした手を所在なさげに震わせ、呆然とした表情でひばりを見つめる。

「――!? ……ごっ、ごめんね。荷物もあるし、ユウさん1人に持たせるのも、ね。ほら、あたしちっちゃいから、両手使わないと」

 そう言ってひばりは、裕香から逃げるように荷物を手に、距離を取ってしまう。

「おっ、おい。待てよひばり」

「…………ひばり、姉ちゃん。どうして……?」


 その後、裕香の言った通りに休憩として、近くの喫茶店に足を運ぶ。

 道中は静かで、裕樹もひばりの豹変と裕香の呆然自失状態に挟まれ、居心地が悪かった。

「裕香、今日は何頼んでも良いから」

「……」

「――裕香?」

「え? ――えと、何?」

普段の裕香を知る人には信じられない程、裕香は大人しいを通り越し、朦朧とさえしてるかのように静かだった。

「……」

 ひばりはそんな裕香から、辛そうに眼をそらしたまま、ぐっと寮の拳を握りしめたまま椅子に座る。

「……どうしたもんか?」

 そんな両名に挟まれ、その両名を見て誤解した周囲からの侮蔑の視線で、裕樹は針のむしろ状態。

 何とかしたいと思いつつも、元々女性の扱い方が超がつくほどヘタクソな上に、デリカシーが致命的にない彼には、解決不可能な状況だった。

「あら? ユウじゃない。それに、ひばりに裕香ちゃんまで」

 そんな彼に、救いの手が。

「月! ――えと、事情位」

「どうしたのよ? ひばりに裕香ちゃんらしくもない。ケンカでもした?」

「は聞いて――あれ?」

「心配しなくても、フラグギャンブラー朝霧が何かやらかしたんなら、落ち込むより怒るでしょ? ひばりに裕香ちゃんなら」

「――フラグギャンブラーってのはどういう事か気になるけど、この際は置いとくとして……今度光一とのデートの手配するから、助けて」

「報酬なしで良いわよ。友人と可愛いひばりんがこんなになってて、ほっとける程ないじゃない――で、どういう事?」

「俺はただの友人かい――まあいいや。それがだな」

 裕樹は一応、今日1日の事を自分視点でではあるが、月に説明し――

「へえっ、ユウってひばりにアタックするの?」

「ひばりと、そういう事になるのも良いかな―、とは思ったけど……」

「そっかあ……フラグギャンブラー朝霧裕樹も、とうとう自分からフラグを狙うのかあ。思えば私も、時々ユウのカッコよさとか当たり発言の時は……」

「だから、そのフラグギャンブラーってのはやめろ」

 裕樹とはそれなりに付き合いの長く、興味(主にゴシップ方面で)を示してる月も、妹同然に可愛がってるひばりとそう言う間柄になるのは、反対はしなかった。

「――とまあ、こんなわけ」

「へえっ……ねえ、ちょっとひばりと2人で話をさせて貰って良い?」

「え?」

「すぐ戻ってくるから、それまで裕香ちゃん宥めてて――さ、行きましょひばり」

「――はい」

 そう言って、月はひばりを伴ってその場を後にし――。

 周囲も誤解だとわかると興味を失い、裕樹も針のむしろから解放されほっと一息。

「――ねえ、ユウ兄ちゃん」

「どうした、裕香?」

「私……ひばり姉ちゃんに、嫌われちゃったかな?」

「大丈夫、絶対何かの間違いだってあれは――」

「だと、良いなあ……」

「――あーっ、保安部クビになった時以来だよ。こんなに自分が情けなく感じたのは」


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