朝霧裕香の華麗にして波乱万丈な休日(4)
「ねえ、ユウ兄ちゃん、ひばり姉ちゃん」
「――ゆっ、裕香ちゃん!?」
「ああっ、どうした?」
「あっち、何かやってるみたいだよ。見に行かない?」
「えと……うん、そうだね」
ひばりの言葉は裕香に遮られ、2人は裕香に手を引かれてついて行く。
裕樹はひばりに目を向け――
「――ひばり」
直感的に、ひばりが断る以外の選択肢など考えもしていない事を、感じとった。
「――って、何だあっ!?」
そして視線を戻せば、その先には人だかり。
場所は普段、大道芸や流しの演奏等が行われているイベント用の広場で、その一角に人だかりができていた。
「裕香ちゃん、あそこは何やってるの?」
「人形劇だって」
「人形劇? ――それで何で、あんな人だかりが?」
「それがすごいんだよ。だって――」
ひばりと裕樹が顔を見合わせて、揃って首を傾げた。
そして――
「――ほっ、ホントに、すごいですね」
「あっ、ああ……どうやって動いてるんだあれ?」
人形劇と言うから、てっきり傀儡人形かパペットかの、ありきたりな物を想像していた2人は、呆気にとられていた。
まず舞台は紙芝居を思わせる囲いの様な物ではなく、チェス盤や将棋盤を思わせる板のの上に、簡単な囲いをつけたかのようなミニチュア舞台。
その上で木彫りの人形が、あり得ない様な精巧な動きを取って、その後ろで恐らく声優志望の学生だろう数名が、人形たちが演じている恋愛劇の声を演じている。
「もしかして、DIEの新しい運用技術か何かかな?」
「なんだか人形劇じゃなくて、小人の劇団を見てるみたいですよ」
「――こりゃすげえな」
舞台が終わると、こういう場でのお約束はおひねりがある。
ただし、D-Phoneの支払いという、大道芸としてはかなり機械的な物として。
「面白かったね」
「うん――流石は学園都市、だったね」
「言えてる――っと、服」
「あっ、そうだった」
おひねりを払うと、裕樹とひばりの間で裕香が2人の手をつなぐ。
そして今度こそ、初等部対象のブティックへと赴き――
「えーっと……どんなのが良いかな?」
「ひばり姉ちゃんにお任せ~♪」
「うん。裕香ちゃんに似合うの、選んであげるからね」
ひばりが裕香に、服を選んであげる。
その後ろで、裕樹がぼんやりとひばりと裕香のやりとりを眺めて――
「――なんかこうしてると、姉妹って言うより親子に見えるな」
そうぼそりと呟いて、周囲を見回す。
勿論このブティックも学生経営及び、服のデザインも作成も学生の手による物。
店員は皆女性で、所々で裕香位の女の子が姉あるいは引率者に付き添われ、服を選んでいて――大抵、年上の判断に委ねている。
「……やっぱ裕香の事を考えると、ひばりと付き合うのが一番か。考えてみれば、ひばりとの恋人生活って言うのも楽しくなりそうだし――」
「「…………」」
「さて、どうやってひばりと――ん?」
ふと裕樹が視線を感じて目を向けると、ひばりが顔を赤くしながら、裕香が目を輝かせながら裕樹を見つめていた
「――? どうかした?」
「――ユウ兄ちゃん、ちゃんと考えてくれてるんだ」
「――さっきから何を言いだしてるんですか、ユウさん」
「え? ――あれ? あの、もしかして俺……声に出してた?」
「うん、思いっきり」
「――やってもーた」
「いつもの事でしょ」
「では、お支払いの方をお願いします」
「はい」
何着かひばりの見つくろった服を持って、会計に。
裕樹は少々肩身狭い思いをしながら会計を済ませ、裕香は上機嫌で戦利品を抱きかかえ――
「――親子、かあ」
ひばりはふと、先ほど裕樹の言葉――姉妹って言うより親子に見えるな、と言う部分を思い出していた。
「……! ――お母さん」
ふと、裕香に幼かったころの自分が重なって見えてしまい、振り払う様に首を振る。
「お母さん? ――そういや、ひばりの母さんって……」
その様子は、ばっちりと裕樹に気付かれている事にも、気付かないまま。
エンディングは--まだ見えない!
けれど、完成させて見せる!!
もう火が灯るどころか、完全に燃え上がってます。




