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一時の休戦と、穏やかな一時

すごろくが行き詰ってるので

軽く、裕樹と怜奈のカップリング話を。

学園都市の湾岸区域は、ちょっとした釣り場が設けられている。

 ここは学園都市のカリキュラムには関係なく、完全な趣味の空間となっていて、釣り具の専門店に飲食物を取り扱うコンビニがある程度。

 最も、その少し離れた場所には海釣り用船舶のレンタルがあり、本格的な部分も取り入れられている。

「……釣れねえな」

 その一角で時折足を運び、1人でのんびりと釣りに興じている、朝霧裕樹の姿があった。

 D-Phoneで宇佐美の新曲を聞きながら、ぼんやりと釣竿からのびる糸に繋がった浮きを眺めている。

 時分は早朝であり、人もまだまばらで、コンビニはともかく釣り具店はまだ開いても居ない時間の釣りは、保安部を水鏡家とのいざこざでクビになってからの日課だった。

 最近は宇佐美の早朝トレーニングに付き合う事が多く、ここにはあまりこれない事が多かったが、裕樹はここでのんびりとした時間を過ごすのが好きだった。

「そう言う物なのでしょう? こういう事は」

「――言ってみただけだっての」

 ただ、今日は少し事情が違った。

 裕樹の隣で、明らかに場違いな雰囲気を纏う少女――水鏡怜奈が、折りたたみ椅子に腰かけていた。

「で、なんでこんなところに水鏡の御令嬢が来るんだよ? しかも蓮華も連れずに」

「蓮華ちゃんには、ワタクシの不在を騙す為にちょっと頑張って貰ってます」

「……汚れ1つない純粋な笑みで、さらっととんでもない事ほざくなよ」

「それにこうでもしなければ、貴方はワタクシを信用しないでしょう?」

 実際はその通りで、裕樹が怜奈を遠ざけているのは怜奈本人ではなく、水鏡家の取り巻きを毛嫌いしているからで、怜奈本人に罪があると思ってはいない。

 ただ、素直にそれらを口にするのは気恥ずかしいからか、裕樹は持ってきていたクーラーボックスから、緑茶のペットボトルを取りだして――。

「……飲む?」

「ありがとうございます」

 蓋を緩めて、怜奈に手渡す。

「……そういや、あんたとこういう時間過ごしたの、初めてだな」

「そうですね――あれからと言う物、周囲がそうなる事を決して許しませんでしたから」

「だな……ここまで来たら、一体何が悪いのかがわからんなった」

 実際、怜奈の裕樹に対しての罪悪感は、怜奈の水鏡グループ総帥令嬢と言う立場が完全に悪い方向に働き続けていた所為で、募る一方だった。

 まず怜奈の周囲は特権意識、モンスターペアレント思考の強い者が多く、怜奈が気にかけている朝霧裕樹を徹底的に邪魔者とみなし、突き放すばかり。

更には水鏡グループという枠組みに置いても、様々な分類で対立、敵対する派閥がない訳ではなく、それらにとって水鏡怜奈(正確にはその取り巻き)と嫌い合い、学園都市でも最強に位置する実力者である朝霧裕樹は、好条件の優良物件と認識されたのも災いした。

 それが原因で、裕樹を忌み嫌ってる怜奈の取り巻きは、彼を水鏡家への中傷のバロメータ扱いし、彼が功績を上げれば上げるほど水鏡家ゆかりの者達から忌み嫌われ、それが怜奈に罪悪感を募らせる悪循環を齎していた。

「余計なもんが余計な意味ばっか持ち過ぎ続けて、もう本人の意思置いてけぼりだもんな」

「――そう考えると、不思議ですね」

「何が?」

「貴方と、こうしていられる事が」

「ああ、そうだな」

 そっと、柔らかな笑みを浮かべてそう言った怜奈に、裕樹は普通にそう返した。

「今日も、良い天気になりそうだ」

「そうですね」



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