学園都市のすごろく大会(3)
「……やっと出られた」
クリスがカラオケを熱唱し、蓮華が手なれた感じで紅茶を淹れ、つぐみが料理系のクイズに正解し、綾香がダンスゲームのノルマスコアを達成すると、穴からようやく出られた裕樹達。
「……申し訳ありません、ワタクシの運が悪いばかりに」
「いえ、水鏡先輩が悪い訳では」
「……よいしょっと」
2人の会話を無視するように、裕樹がひょいっとサイコロを持ちあげ、放り投げる。
「あっ、ちょっと!」
「……俺が先行くから、2人はちょっと離れててくれ」
と宇佐美の抗議を無視するようにそれだけ言って、1人先にすたすたと歩いて行く。
「ちょっ、ちょっと待ってよ! もうっ、すねる事無いじゃない!」
「……同じチームに入った事、やはり間違いだったでしょうか?」
慌てて宇佐美が追いかけて、怜奈も少々罪悪感を感じつつそれに続く。
『課題:電子召喚獣の撃破』
そのウィンドウが表示されると同時に、裕樹はYESを選択。
それと同時に、裕樹達の前にグリズリー型の電子召喚獣が現れ、腕を大きく広げながら咆哮する。
「……電子召喚獣の撃破って、そんなのもやるの?」
「ですが、課題ならば達成しなくては」
宇佐美が戸惑っている隣で、怜奈は自身の電子ツールである長刀を具現し、構えを――
『ゴアアアアっ!!』
取る間もなく、グリズリー電子召喚獣が腕を振り上げ、裕樹めがけて振り下ろす。
その腕を……
「……軽い」
難なく片手で受け止め、もう一方の腕の拳をぐっと握り締め、ボディブロー。
その勢いのままにグリズリー型を抉り上げ、そのまま拳ごと地面に叩きつけた。
「はい、終了」
電子召喚獣が具現を維持できなくなり、分解されるのを見届ける裕樹を……
「……剣も使わずに熊を一捻りって」
「――流石は朝霧さんです」
宇佐美は呆気にとられ、怜奈は感心した様子で、裕樹の背を見守っていた。
「流石はユウやんだねい。相も変わらず、朝霧裕樹用心棒武勇伝に恥じぬ強さだよん」
「そんな本があるんですか?」
「言ってみただけだよん。まあユウやんなら、いろんな意味で本が創れそうだよん」
「違いない」
光一が茶化す様に同意して、ひょいっとサイコロを放り投げる。
『課題:射撃 指定ポイントからフリスビーを撃ち落とせ』
「おっ、来た来た」
光一が嬉々としながらYESキーを押して、指定ポイントに具現した銃を手にしながら向かう。
到着すると、カウントダウンウィンドウが表示され、光一は軽くて遊びの様に銃を手で回して――。
カウントダウン開始と同時に、視界にフリスビーを捉えると、即座に撃ち落とす。
「はい、パーフェクどわっ!!?」
「流石はこーいっちゃん、ごほうびあげちゃうねい♪」
「……ウエストロードさんも、すっかり変わられて」
「? 蓮華さん、クリスさんとお知り合いなのですか?」
「その辺りは私的な事になりますので」
「深い詮索はしない方がよさそうだな――よっと」
感慨深そうな蓮華の呟きに、みなもが疑問符を浮かべる間に、龍星がサイコロを持ちあげて放り投げる。
『課題:重量挙げ』
「やっと俺の出番か」
ボキボキと拳を鳴らしながら、YES表示を押すとバーベルが具現。
肩を回しながらバーベルに歩み寄り、しゃがんでそれを掴む。
「ふんっ!」
力を込めていると言わんばかりに筋肉が自己主張し、バーベルはゆっくりと持ちあがり、龍星の頭上へと高々と上げられた。
「この程度、俺には全然軽い(ようやく年上の面目は保てたか)」
みなも、蓮華に先を越され、少々肩身が狭かった龍星の顔は、少々はればれとしていた。
「……そろそろ私も出番が欲しい」
「でも、光ちゃんの出番って……」
「あっ、そうでしたね。欲しがっちゃいけないですね」
「その時には、頼りにさせてね」
少々複雑な物を抱きつつ、つぐみがサイコロを持ちあげ、放り投げた。
『猫の群れと遭遇 一回休み』
「にゃーっ!」
「みゅー♪」
「にゃーっ!」
「「「可愛い~♪」」」
そのウィンドウ表示が出ると同時に、様々な種のネコ型電子召喚獣が群れで姿を現し、しかもそれが全部子猫である事もあって、3人は顔をほころばせ猫の群れに駆け寄った。
「……あんなのもあるの?」
「まあ、ただ一回休みってのもつまんねーだろ?」
「後で朝霧さんが怒りそうだな」
その様子に苦笑する大輔が、ひょいっとサイコロを放り投げる。
『バネ仕掛け床 3つ戻る』
バンっ!
「うわあああっ!」
「ちょっ、おおおおいっ!!」
「ひゃっほー♪」
ウィンドウが出たその瞬間、床が跳ね上がって3人を3つ前のマスに弾き飛ばし、クッションに変わった床に3人は叩きつけられた。




