人の領域を超えた物の憂鬱(1)
裕香が生まれた時……その時、自身の中で何かが芽生えた事を確信した。
アサヒと出会った時……その時、手を差し伸べずにはいられなかった。
誰よりも強い天性を持ち、それが誰よりも早く開花した……ただそれだけの自分だが、裕香に貰った確かな善性と、アサヒに今までとは違う未来を約束した事は、何よりも大切な物。
力なき善性を嘲笑い、罵倒し踏み躙る事が存在意義であると、そう言わんばかりの光景など腐る程見て来た――それを見た時、とてつもない嫌悪感と吐き気はしたが、その理由も意味もただどうでもよかった。
力なき善性が嘲笑うべき物なら、強くあれる様に――そして、罵倒し踏み躙るべき道等を、絶対に歩ませない様に。
善良な存在にはなれなくても、そんな存在として裕香とアサヒがこの先を確かに、そして強く歩いていける様に……それが、人の造りし神が1番最初に主となった、自らの使命。
「――なんてカッコつけても、何すればいいかなんてさっぱりわからんのが、現状だけど」
場所は、屋台通り。
そこで即席テーブルを作り、本日出店の中華料理屋台で大量購入した中華料理を並べ、皆で囲っていた。
「でも、そう言う考えを持つこと自体は、すごいと思いますよ」
「そうれしゅ。世の中悪い事してなくても罰を受ける事だってありましゅから」
「うんうん、あたしたちは絶対応援しますよ」
つぐみが焼売を、みなもが春巻、ひばりが青椒肉絲を食べつつ、参道の意を示す。
「ずずずずずずっ……ぷはっ。そうだぜユウさん、あたし達も同意見だ、なあタカ」
「綾香、行儀が悪いよ。そうなんだけど、でも善良を育むって一言で言っても、実際には漠然とあちちっ」
勢いよくラーメンを啜り、賛同の意を求めた綾香の言葉に、麻婆豆腐を食べてる鷹久は口の中は熱くなっても、冷静に事を説明。
「けど裕樹、何をそんなに悩んでるんだ?」
「むぐむぐごくん……人造神の主として、改めて自分の在り方を確認してみようって思っただけだ。どうやってもパワー・オブ・ファイアに影響を与えちまう以上、もう凪たちとまともなぶつかり合いは出来なくなっちまったし」
「強すぎる力を持つのも、良し悪しって事か。もう学園都市は、人造神の主・朝霧裕樹の時代だ……とかいう感覚が定着し始めてるのに」
「だからって、安易に答えを求めるつもりもないけど、俺1人で全部……ってのも、間違いなく歪んじまいそうだし、今は色々と見て回ってから考え纏めるつもり」
「ユウって、女性が絡まなきゃホント思慮深くて知的よね」
「俺って、そんなに女に対して考えなしに見えるの?」
『見える(ます)』
「全員即決!?」
龍星が餃子を纏め食いし、宇佐美が青梗菜を食べてる中、カニチャーハンを口に運んでる裕樹が咀嚼し飲み込んで、事情の説明。
「…………」
その膝の上で、アサヒは黙々とゆっくり、肉まんを咀嚼してる。
余談だが、普段表情を変えないアサヒが、裕樹に抱き抱えられて安心しきったように目を瞑って身を委ねる姿は、女性陣と言わず男性陣も癒しとして扱われてる。
「その影響って……その髪とか?」
「俺の内外問わずだよ。俺の時代――とか言われてもどうしろってんだか」
大神との一線を経て、パワー・オブ・ファイアの形状の変化が起こった後。
今は裕香に手入れをして貰い、ほぼポニーテールの形をとってる、腰まで伸びている髪を掴んで、差し出すように前に出す。
多分切ってもまたすぐ伸びるだろうと言う事と、裕香とアサヒが気に入ってる為、そのままにしてある髪。
アサヒはユウの伸びた髪を掴んで頬擦りし、裕香も毎日楽しみながら手入れをしてる。
「ユウ兄ちゃんの髪って硬いから、手入れ大変なんだよね」
「まあそりゃ、宇佐美やみなもみたいな、流れる様な綺麗な髪とはいかないけどさ。まあ見てる分にはつぐみにしろひばりにしろ、綺麗だとは思うけど」
「「「「…………」」」」
「? どうした、顔赤いぞ? ――ああ宇佐美、青梗菜貰っていい?」
「うっ、うん。いいよ」
「……ユウさんって、良くも悪くもサラッとこういう事言えるの凄いですね」
「セクハラ癖と言うより、女性に対していい意味でも悪い意味でも、裏表がなさすぎるだけなんだろうな」
「なんか宝クジみたいだな――なあタカ、龍星のダンナ、もしあたしや芹香が……」
「ないない」
「あいつを知ってて本気にするわけないだろう」
「――それもそうだな」




