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学園都市のすごろく大会(2)

学園都市の技術なら、D-Phoneに登録された各種必要なデータを転送するだけで、簡単にVR接続の準備は整う。

「さて、と」

 学園都市が誇る最先端技術である、DIEシステムとVRには、それぞれ開発及びその使用方法を管理する開発担当理事と言う役職がある。

 その開発管理担当理事の定めた既定として、1日の接続時間は3時間が最長とされており、それ以上の接続は機能的に出来ない仕組みとなっている。

「――では、行きますか」

 VR接続機器であるカプセルの中で、ヘルメット型の感覚変換機器の電源を入れてから被り――。

「――“跳躍ジャンプ”」

 接続開始のキーワードをヘルメットが受けとったその瞬間、速さも重さも感じないままに、飛んでいく様な感覚を感じ、視界が一瞬の暗転。

 そしてその次の瞬間には、VRスタート時に降り立つ、のっぺりとした床に壁、天井という殺風景な部屋。

「よーし、皆“跳躍ジャンプ”は終わったな? それじゃ早速」

 学園都市において、DIEシステムによって実体を持つデジタルデータが身近であることから、VR世界は既に別世界と言う認識であり、VR接続は別世界へと飛び立つと言う意味合いが浸透しており、接続には“跳躍ジャンプ”という表現が使われる。

 参加者であり、進行役でもあり主催者である綾香が参加者全員の姿を確認し、それが終わると手元にゲームマスター権限ウインドウを表示し、操作。

 周囲の光景がぐにゃりと歪むと、壁と天井が拡張されて床にマスと線が浮かび上がり、サッカーグラウンドのすごろく場へと変化し、一抱え位の大きさのサイコロがチームごとの前に姿を現す。

「? なんか、マスが小さくないか?」

「マスについたら、命令の内容が表示されて受けるかのウインドウが表示されるから、受けるを入力すれば、命令実行用のフィールドに転送される仕組みだ」

「で、マスの数は……接続時間の制限と命令実行を考慮すると、これ位が限界ってところか。命令実行には制限時間は当然あるだろうし、優勝はゴールに到着するか、2時間45分になった時点で1番ゴールに近いかで判定になる……か?」

「光一が居ると説明する手間省けて助かるな。んじゃ、始めるぞ♪」

 綾香がウインドウを操作し、ゲームがスタートされたのかBGMが流れ始め、朝霧チームのサイコロがピコーンと効果音を鳴らした。

「成程、順番はサイコロが教えてくれるのか」

「こういうのは、VRならではだね」

「でしたら……」

 怜奈が何かを言いあぐねている様な雰囲気を見せると、裕樹が少し間をおいてああっと頷き――

「――水鏡がふってくれない? なんか運がよさそうだし」

「よろしいのですか? ――ありがとうございます。では」

「…………」

「? 何だよ宇佐美?」

「別に」


「――むむっ、何やら面白そうな雰囲気になってるよん♪」

「意外と水鏡のお嬢様とユウさんって、相性いいのか? ――なんか面白くなってきたな」

 その様子をクリスと綾香がそれを見て、先ほどとは違う意味でワクワクと言う感じで見守る中、サイコロが振られる。

「6だって。出だしは良いみたいだね」

「待て宇佐美、まだ油断は出来ん」

「そうですね。まだ命令がどのようなものかがわかりません」

 そう話しながら3人は6マス分進み、6マス目に到着してウィンドウが――。


『落とし穴 1回休み』


「へ? うわっ!」

「ひゃっ!」

「きゃっ!」

 表示されたと同時に足場が消え去り、3人は突如できた穴に落ちて行く。

「成程、ああ言うのもあるのか」

「そっ。命令実行、クイズ式、ああ言ったトラップってな」

「バラエティ系のイベントとしては、成功狙えそうだな。まあユウ達は出だしが……」


「いっててて……ん? 何だこの柔らかいの」

「ちょっ、ユウ! どこ触って!?」

「え!? あっ、ごっごめ……!」

「きゃあっ! あっ、朝霧さん、そんな所触らないでください!」

「いいっ!? ちょっ、俺今どういう状況!!?」


「……なんか、とんでもない事になってるっぽいけど?」

「――そこはまあ、バラエティ系イベントのお約束って事で。さ、次々!」

 綾香が強引に話を区切り、光一達のサイコロが効果音を鳴らす。

「さあ頑張って6を出すよん♪」

「言うと思った……朝倉がふってくれ」

「はっ、はい……では」

 クリスが妙な張り切りをしてる間に、光一に促された歩美がおずおずとサイコロを持ちあげ、軽く転がす。

「5か……わからないならわからないで、なんか不安になるなこれ」

「でっ、でも、そんなひどい事はそうそうある訳がありませんよ」

「甘いよんあゆみん、そう思った時に面白い事が起こる物だねい」


『クイズ:徳川幕府八代目将軍は?』


「……俺パス」

 問題が表示されたと同時に、歴史オンチの光一は顔を背けた。

「しょーがないねい。答えは徳川吉宗、だよん♪」

「? 意外だな、てっきりネタに走るかと思ったけど」

「おねーさんは耐え忍ぶ事を知ってる女だよん♪ だから眼の前のネタより、未知なる面白さを求めるんだねい」

「あっ、あははっ……」


「流石は姐さん――さ、次々」

 次に効果音がなったのは、蓮華達のサイコロ。

「誰が振ります?」

「わっ、私は……遠慮しましゅ」

「なら、俺が振ろう」

 龍星がサイコロをひょいと持ち上げ、軽く放り投げる。

「3か」

「妙な事にならないといいのですが」

「……あははっ」

 乾いた笑いを浮かべるみなもを伴い、3のマスへ。


『課題:リンゴの皮むき、1分以内』


「あっ、これでしたら私がやります」

 そう言ってみなもがウィンドウのYESキーを押すと、眼の前にリンゴの乗った皿と果物ナイフが置かれた、テーブルが姿を現す、

 みなもがリンゴとナイフを手に取ると新たにウインドウが表示され、カウントダウンスタートし……。


「終わりました」

 涼宮みなも、課題達成。

「おーっ、流石はみなもだ」

 綾香が感心した声を挙げる中、次に効果音がなったのは……

「あたし達の番だね」

「そうだね……誰が振る?」

「じゃあ私で」

 ひばり達のサイコロだった

 光がサイコロを持ちあげて、軽く放り投げ――出た数字は。

「3だ。じゃああたしがやるよ」

「うん、今回はひばりちゃんに任せるね」

「じゃあ、お願いします」

 軽快な足取りでマスに進んで、ひばりも難なくクリア

「ねえ綾香、そう言えばクイズの場合は……」

「ジャンルだけ同じで、別の問題が出るようになってるってさ」

「まあ、クイズは答えがわかっちゃ意味がないからな」

 そして、綾香達のサイコロが効果音を鳴らし、綾香が警戒にサイコロを放り投げ、サイコロは2の目で止まる。


『課題:腕相撲』


「よし、やろう」

 大輔が前に出て、ウインドウのYESキーを押すと、腕相撲の為の台とガタイの良い人型が姿を現す。

 腕を組んで肘を台に置き、大輔は息を思い切り吐き出すと、すぅーっと息を吸い込む。

「ふんっ!」

 開始と同時に、大輔はギリっと腕に力を込め、ダンっと音がならして相手の腕を倒した。

「流石は大輔だな」

「うん、僕じゃここまではいかないよ」

「それほどでもないよ」



「……確か一回休みだったから、俺しばらくこのままかよ」

 一方、落とし穴に落ちだ裕樹達はと言うと……

「…………」

「…………」

 2人して顔を真っ赤にしながら胸も前で両手を交差させ、裕樹に向けて怒りあるいは涙目の視線をぶつけていて、針のムシロ状態だった。



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