傲慢 VS 憤怒(1)
「――東城、いつまで隠遁する気だ?」
「力が有り余ってるなら、後でトレーニングでもしてきたら良いよ」
「けど、張り合いねえのは確かだぜセンセー。こう何度も健康診断をしなくても」
「時が来れば存分に働いてもらうよ。君達には最強……いや、元最強か。それ以外を寄せ付けない働きが必要なんだから」
某所、東城一派のアジトの1つ。
そこで太助が九十九と剛の、スポーツ医学的な見解を織り込んだ健康診断を行っていた。
度を越えた暴力と行き過ぎた思想で、何人もの逮捕と言う名目の重傷者をだし、精神鑑定と保安部追放の引導を渡された椎名九十九。
妖刀・王鮫を手にしたばかりに、斬った相手の断末魔の快楽に魅入られ、生徒会SP(ちなみに護送警備隊所属で、元は王牙の右腕)の資格をはく奪され投獄された鮫島剛。
どちらも所属組織の頂点に最も近い実力を持っていながら、人格的な問題で表に出られなくなったのを、太助が連れ出し2人は忠誠を誓っている。
最も、太助本人は2人の上に立っていると認めていない
「まあとにかく、今僕達は力を蓄えるべきだよ。朝霧君が人造神を手に入れた事で、学園都市に関わる大人を含めて、大きな変化が起こるのは確かなんだから」
「めんどくせーこって」
「法や秩序も、元を辿れば一集団の指導者、あるいは王と呼ばれる者によって、最も広く押し広げられた個人主義なんだよ。だから履き違えたり差別の要因になったりもするし、絶対盤石なんてあり得ないんだ」
「――それは自分に対する当てつけか?」
「いや、君の場合は失態を無責任かつ大袈裟に攻め立てられ、人格その物を全否定され染められきった、怪物って名目の成れの果て――それを強く受け止めすぎただけさ」
少なくとも僕は、九十九や剛を怪物だなんて、思いやしないよ。
と言って、データをまとめ始めた。
「そもそも人が住んでるのは、文明って言う人の創った物だけのセカイなんだよ。だから文明には人の作った物、人の望んだ物以外は存在しない」
「それは、学園都市で朝霧裕樹ただ1人が、5体いた人造神の1体を手に入れた様にか?」
「そうだね……本来は朝霧君こそが、学園都市が理想とする成長と可能性の体現者なんだよ。ただ理想は所詮は理想、無責任な概念と利益を秤に掛けられて見て見ぬフリをされてる」
「確かにあいつ、他人の成長とか成功を喜ぶし、侮蔑や嘲笑を嫌ってたな。最強って称号も、ただ他の最強と並び立つための付属品みたいに思ってる節あるし、確か孤児院出身って事で虐待されてたガキ1人助けて、総会に改革促したりとか」
「本来成長っていうのは悪習は排し、より良い未来を望み前を進む事を差すんだ。ただ、文明の発展と幸福は比例しないから……」
「そりゃ皮肉だもんだな。朝霧の存在っていう理想を不利益とみなし、“堕ちた悪魔”の名前が逆に学園都市を否定してるなんて」
「だからかな――彼の妹を含めて、身近な人間は朝霧君が常に悲鳴をあげ続けている事は見えてないし、最強達や一条君も結果として見て見ぬフリをしてる」
「悲鳴、ねえ……可能性の体現者であるからのこその、無力さや否定へのってやつか?」
「あるいは、今を失う事や妹たちが傷つく結果を恐れて、か……」
彼もまた人間……天上に立ってる訳でも、絶対を成せるわけでもないから、人造神もとんでもない所業をしてくれたね。
と、データを纏め終えて、九十九と剛に健康診断終了を告げ、研究に戻っていった。
――所変わって
「メガフロート1つまるごと、闘技場にしたのか」
「仕方あるまい。人造神が貴様とどう共鳴し、力を発揮するかその条件がわからん以上、必要な配慮だ」
学園都市湾岸……からさらに遠く離れ、スタジアムが小さく見えるかどうか、と言う沖合。
その上で、裕樹と白夜は対峙していた
「これで何度目……って言うのもアホらしい位、お前とは昔からどうも相容れなかったな」
「――同感だ」
大神白夜と朝霧裕樹は、出会ってすぐの初等部時代からお互いが大嫌いだった。
白夜は初等部時代から既に“力こそが全て、弱さは罪”の思想を持ち、それを徹底する事でカリスマとして支持者を何人も得ていた。
しかし裕樹にとって、諦観や妥協への嫌悪感が真っ盛りだった為、弱さを罪と称する白夜の思想を受け入れられず、ケンカと呼ぶには高次元な決闘を何度も繰り返して来た。
その際の勝敗は……
「結局は、俺達に白黒はついてない――それに今でもお前の思想は、理解こそ出来ても受け入れる事なんか出来やしない」
「構わん――互いに相容れない存在だと言うのは、今までが証明してきた事」
「そうだな……確かにあの時の俺は、弱さを嫌った。だけどそれは諦観や妥協までで、弱い奴を斬り捨てるまでは、賛同できなかった」
「成長と可能性を勝手に利益と結びつけられ、腐っていった愚者共の醜さから学んだ事……故に、力ある者を育む為には、弱気を斬り捨てる事は必然」
「それはあくまで、見て見ぬフリあるいは無責任を、賢い生き方って称してるバカ共だけだ」
「その賢い生き方が、貴様のもう1人の妹の様な存在を創り続けているのも現実だ。生徒会でも、表面上で哀れみこそしても邪魔に思っている者は多い」
そこで、裕樹の眼がきっと鋭くなったのを、白夜は見逃さなかった。
まるで視線の衝突が、炎と氷が衝突するかのようなイメージを放ちつつ……
「気付かなかったなら仕方ないだろうさ! でも気付いたことが悪だっつーなら、喜んで悪になってやるよ!!」
「……あくまで弱さを庇うか! 人の世を人が変えずして、何が成長、何が可能性か!」
「不安に呑まれる事と外道だって事は違うだろ!! やって良い事と悪い事を笑って破るならまだしも、責任を果たす上で守れない事まで否定出来るか!!」
裕樹が刀を構え、白夜もロウソクを捻じり合わせたような槍を構え、その左手にシン・スフィアを握りしめる
「試しと言ったが、やはり貴様とは相容れん――今ここで貴様を這い蹲らせ、人造神は選択を誤ったと言う事を証明せずにはおれん!」
「そうだな。やっぱ俺達は対峙した時点で、愚かで野蛮な理不尽しかありえない!」
『ゴギャアアアアアッ!!』
『やかましいトカゲめが、妾の耳を穢すでないわ!』
普段では決してあり得ない、裕樹と白夜の感情露な言い合い。
そして、その感情に呼応するように、カグツチとコンジキも互いに敵意を露にする。
「パワー・オブ・ファイア……お前が力を貸す貸さないはお前に任せる。場所も相手も存分に暴れられる!!」
「丁度いい、そうこなくては始まらん!」
――所変わって
「…………」
「アサヒちゃん、心配なのはわかるけど……」
「…………(ふるふる)」
「?」
「…………喜、んで……る?」
「? ……誰が、喜んでるの?」
「…………?」




