傲慢 VS 憤怒(1)
カリカリカリ……
屋台通りの休憩所。
其処でアサヒが、復学支援プログラムの問題集を解いていた。
「あれ? 珍しいね、アサヒちゃん。外でお勉強なんて」
「…………昨日……寝すぎ、た」
――普通に寝すぎだと思うけど。
と、声を掛けたつぐみは、普段寝てるかボーっとしてるか、黙々と手伝うか裕樹に甘えてるかのアサヒしか見た事がなく、まあ仕方ないかな、とアサヒが解いてる問題集を覗き込む。
「え? アサヒちゃん、もう割り算できるの?」
「? …………(コクッ) ……前の……もう、終わり」
アサヒは7歳だから、既に小学1年の学習は既に終わってる事になる。
ただ、復学支援プログラムに意味ないんじゃ……と言う考えは、未だに屋台通りの賑やかな空気を怖がってるのを見た瞬間、跡形もなく消え去った。
「…………」
その問いに答えると、アサヒは黙々と問題集を解き始めた。
本当に周囲に全く興味を示さず、感情の色もないまま。
「――うーん」
つぐみはその場から離れて、屋台へ戻っていった。
――しばらくして。
「ん? どしたよ、アサヒちゃん」
アサヒは光一の屋台にやってきた。
「…………こ……こあ」
「ああはいはい、アイスココアで良い?」
「…………(こくっ)」
喉が渇いたらしいアサヒは、光一にアイスココアを作って貰いに来た。
炭酸が苦手なので、前に裕香が美味しいと飲んでいたココアを好んで呑んでいる。
そのついでに……。
「…………ん」
「え? もう解いたの?」
「…………(コクッ)」
「じゃあ答え合わせして、月に送っとく。じゃあはい」
「…………(ペコッ)」
光一に問題集を差し出して、ココアを受け取ったアサヒは休憩所に歩を進めた
多分残りの問題集か、以前みなもが送ったスケッチブックで絵を描くか、サンとにらめっこするかだと思い、差し入れでも持っていくかと、本日の光一屋台のメニュー、ココア風味のクレープを作り始めた。
――その後。
「ん?」
買い出しで外に出ていた龍星が、ふとアサヒを見つけた。
自身の電子召喚獣、サンとにらめっこしたり、レッサータイプ特有のボールの様な身体をきゅっと抱きしめたり、頭にのせてボーっとしたりして過ごしていた。
「……邪魔しちゃ悪いか」
裕樹が居る時以外で、アサヒの前に出て泣かれでもしたら……
と、どう考えても絵的に黒歴史ナンバー1になりそうなため、1人で会うのは控えている。
――ただ
「あれ? りゅー兄ちゃんどうしたの?」
「ああっ、裕香ちゃん――に、お友達の子たちか」
裕香がいる場合は別で、たまに裕香を介してヤマトと一緒に遊んでもらえる様にしてる。
現在、裕樹を除けば普通にアサヒと接することが出来るのは、裕香だけ。
「今日もおしゃれのお勉強です」
「アサヒちゃん女の子なんだから、綺麗になるべきなんです」
その親友2人は、何の楽しみも知らず育ったアサヒに、オシャレを楽しんでもらおうと、色々と準備したりで、以前より頻繁に来るようになった。
「じゃ、みなも姉ちゃんたちに挨拶してこよっと」
そう言って、初等部3人娘は駆けていった。
それと入れ違いになる様に……。
「あれ? 龍星のダンナじゃん。何してんの?」
「光一か、買い出しに行ってきた帰りだ。それは?」
「差し入れ」
と言って、ココア風味のクリームにいちごとバナナの入ったクレープを、アサヒの方へ。
貰ったアサヒは、口の周りをクリームでべたべたにしつつ、クレープに齧り付いた。
「これでもちっとは、打ち解けてんのかね」
「そうだといいんだが……」
「悪い、遅くなった」
その言葉に、ぴくっとアサヒが反応した。
真っ先に裕樹に駆け寄って、抱っこをせがむ様に両手を広げる。
「待て待て、まず口周り拭いてからな」
と言って、裕樹がアサヒの口元を拭ってやるのを見て2人は一言。
「……懐かれ具合が半端じゃないな」
「当然だろ。1番の恩人なんだから」
裕樹の肩付近を、ふよふよと浮遊している人造神パワー・オブ・ファイアは、そんな二人を見て、やれやれと言う風に目を細めた。
「おまたせー。あっ、ユウ兄ちゃん」
「こんにちは朝霧先輩」
「今日もアサヒちゃんに、会いに来ましたよ
「おっ、来てたんだ。ありがとな、いつもいつも」
「え? なっ、なんで!?」
「ん?」
そこで屋台通りが騒めき、静まり返った
屋台通りの普段では、信じられない事態にその場の全員が目を向けた。
「ここに居たのか、朝霧」
「――ダンナ、光一、裕香たち連れて下がってろ」
「何を警戒してる?」
「お前の威圧感は子供に毒だっつんだよ。総副会長殿」
そこに現れたのは、生徒会最高権力、総会の1人である総副会長、大神白夜。
総会で最も自他共に厳しい冷血漢で、一条宇宙と双璧を成すカリスマとして知られる。
そして……
「何SPを連れもせず、1人こんなとこ来てんだよ」
「――物事は自身の眼で確かめねば、気が済まん性分なのでな」
「“眼”、ねえ……」
その場にいるほぼ全員が、白夜が普通に立っているだけなのに醸し出される威圧感に、圧倒されていた。
そんな中で、龍星が2人の間に立ち……
「まあ立ち話もなんだから、そこに座って――」
「邪魔だ。“跪け”」
白夜が邪魔だと言う様に、龍星の肩に触れ……
その次の瞬間、龍星はその場に跪く形になった
「なっ、なんだ!? 今、何を……」
「やめとけ。ダンナじゃ、大神の“命令”に逆らえない――それに、今やられた事のからくりは簡単だ。ダンナの重心を、跪く形で崩したんだよ」
白夜が、最強達に並ぶ強さと言うのは知られていたが、その戦闘スタイルは実はあまり知られてはいない。
ただ、相対する前に大半が膝をつく、と言う話だけ。
「頭脳と身体は勿論だが、大神の眼と視神経は異常発達していて、目から筋肉までの神経伝達速度は科学的見解の限界レベル。そして、相手の筋肉の動き、重心、次の動きまでを完全に見切る……先生からは“傲慢の眼”とか呼ばれてたな」
「いや、最近デスクワークばかりで、目も体も鈍ってしまったようだ……やはり定期的に運動せねばな」
「――それで、何しに来たんだよ?」
「そうだな、少々脱線してしまったが……人造神を手に入れた貴様を試しに来た」
「何?」
白夜がそう言うと、コンジキも姿を現した
『ホホ……妾も楽しみです。神を喰らうその時が』
「――わかった。ただ、ここで暴れるのは」
「わかっている」
「…………来る?」
「え? どうしたの、アサヒちゃん」
「…………あの、人……ユウ、お兄……ちゃんと……同じ?」




