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六道の剣VS明王の拳(2)

 ガッ!!


「――いってえ」

 裕樹の回し蹴りと正輝の拳がぶつかり、裕樹が押し負け距離を取る。

 蹴りを繰り出した足も、痛めたのか体重をかけると違和感を感じた。

「……裕樹の蹴りを、拳で押し勝つのか。バーサクモードでも真正面から捻じ伏せられたから、正輝の拳の重さはわかってるつもりだったが」

「普通、蹴りを拳で打ち勝つって言うの、難しいはずなのに――しかも、ユウさんの蹴りに拳で打ち勝つなんて、実際見ても信じられませんね」

「正輝の拳は、防御も受け流しも自殺行為、見切って避けるもかなりの難度だからな」

北郷正輝と言う人物は、他の三人と違って正輝は才能に恵まれた訳ではなく、努力型で最強に上り詰め、保安部長官の地位に就いた。

 身のこなしや敏捷性では裕樹に、テクニックやセンスで凪には敵わず、かといってパワーやフィジカルは、それを上回りつつスピードも兼ね備えている王牙の前では、霞んでしまう。

 故に、正輝は拳1つに全てを籠め、一撃必倒の矛であり絶対防御の盾として鍛え上げる――それしか、肩を並べる未来を切り開く道はなかった。

 だから、昇進しても常に誰よりも矢面に立ち、舐め、自らの背を見本として保安部員に知らしめる――ある意味、裕樹とは対極のやり方を続けて来た。

 ただ拳だけに絶対の自信を持ち、相手を一撃で捻じ伏せ、あらゆる攻撃を拳のみで真正面から打ち砕くという、良く言えば横綱相撲、悪く言えばバカ正直(だと自分で認めてる)で、正輝は自身だけの最強を確立させた。

 同格相手では一撃必殺とまではいかないが、それでも与えるダメージが大きいことに変わりはなく――

「――やっぱいいなあ! 戦いはこうでなくっちゃ面白くない!!」

 一撃で意識が飛びそうになりつつ、蹴りを繰り出した足が逆にダメージを受け、自慢のスピードが活かせない状態。

 にも拘らず、裕樹は普段からの余裕ある態度を崩しもせず、昂りを現すように声をあげる。

 人間道、修羅道と呼んだ刀を鞘に戻し――

「天道・斬城」

 刀の刃が巨大化し、斬城と呼ぶに相応しい刃が具善

 それを見た正輝が――

「プログラム・シン、起動!!」

 アイゼンの首の水晶玉が、正輝のシン・スフィアと共鳴。

 獅子の頭部を持った人型、4本の腕に仏教系の装飾を纏った明王をイメージさせる姿。

 シン・アイゼンが姿を現した。

「――リミットブレイク! ”徹拳星砕”」

 正輝の顔の隈取と左腕の青染が、流れる様に右拳に集中。

 ギリッと握り締める拳は、形容しがたい威圧感を発している。

「…………」

「…………」

 そのままの体勢で互いににらみ合い、周囲の時諸共に重厚な緊迫の雰囲気に包まれる。

 その時誰かが、ごくりとつばを飲み込んだところで――。

「――!」

「――!」

 2人はそれを合図にしたかのように、裕樹の剣と正輝の拳が同時に激突。

 衝突と同時に裕樹の剣、正輝の右手の青染が盛大にガラスを割ったように砕けた。

 間髪入れず、裕樹は折れたままの剣を正輝の胴に突き立てようとし、その剣を握り締めている右手の拳箇所に正輝の左拳が命中し、裕樹の右手の指4本と右肩から鈍い音が。

 右肩と指の激痛に怯む事もなく、裕樹が正輝の右肩に噛みつき、喰い千切る様に背を思い切り仰け反って、正輝の腹に膝蹴りを叩き込んで地面についた左手を支点に、思い切り勢いをつけて正輝を背中からたたきつけ、腹に膝蹴りを叩き込んだ。

 その次の瞬間には、正輝の右拳も裕樹の腹に叩き込まれており、裕樹は吹っ飛んで背中からゴロゴロと転がり、その勢いにあらがう様に体制を整えた。

「はぁっ……はぁっ……ぐっ、げほっ……」

「ぶっ……げぶっ……おえっ、まっず……」

 よろよろと、裕樹に噛み付かれ血が出ている箇所を抑え、立ち上がる正輝。

 口に入った正輝の血を、逆流した胃液元共に吐き出しながら、右肩と指4本がダメになった事を確認する裕樹。

「はいストップ!! そこまでです!!」

 そこで、大輔がストップをかけた。

 無論、この2人の間に割って入る人間はその場にはおらず、どちらかが大輔が止められる範囲で弱った所でおしまい。

 2人はそこで膝をついて、背中から倒れ込んだ。

「応急処置急いで! 医療班はすぐ医務室の準備!! 担架を早く持ってきて!!」

 見ていた周囲があわただしくなり、大輔の指示の下で保安部員やフリーランス問わず、裕樹と正輝は応急処置を施され、医務室へ搬入。



 ――1時間後。

「――一番大きいケガで、裕樹は右肩脱臼と右4本骨折。正輝は右肩の喰いつかれた痕か」

「最後の攻防、まさに鬼気迫ると言うか、度肝を抜かれたと言うか……」

「じゃないですよもう、保安部だって暇じゃないんですよ。長官の許可がなきゃ行き詰る職務だってあるっていうのに――最強に一番近いって言われてながら、ここまでの大ケガがなければ仲裁にも入れない自分が情けない」

 余談ですが、中原大輔は四神を除けば保安部、生徒会SP合わせて、最強と呼ばれる4人に1番近い実力者と言われています

 無論それ相応に地位についてて、これからの事に頭を悩ませていた(ちなみに大輔は高等部2年生で、鷹久や芹香、龍星とは学年としては同じくらいです)

「でも一体、どういう流れでこんな事に?」

「この騒動で朝霧さんも数名捕まえたから、長官に直接引き渡しに来たんです。その時裕香ちゃんと、最近引き取ったっていう子と一緒に買いものしてたそうで」

「アサヒちゃんも来てるのか!? ――それは不味いぞ」

「裕香ちゃんもですけど、アサヒちゃんだって今のユウさん見たら、絶対大泣きしますよ?」

 なんて大輔、龍星、鷹久が少々慌てながら会話してるのを他所に――


「――言われてみれば、どうしよ」

 裕樹はそれを聞いて、情けない声をあげていた。

「まったく……お前のその、躊躇いのない余裕と自身に満ちたその態度、裕香ちゃん以外に崩せる者がいないと言うのも、同格としては情けないと言うか」

「――崩すも何も、余裕と図太さじゃなく、冷めてるか壊れてるかのどっちかじゃねーの?」

「……お前はいつもそうだな。自身の力に絶対の自信を持っている割に、善悪において、いや、人間としての自信を持とうとしない。」

「“悪魔”に善悪も人間性があるかよ――あったとしても、“ニンゲンサマ”っつーケダモノに喰われちまって、どんなもんかもお前らと会う少し前と、2年前にはすっかり忘れちまった」

 ニンゲンサマ、か。

 そう呟いて、正輝ははぁっとため息をついた。

「概念的に――なら、何となくだがわかる気がする」

「アサヒと出会った時に理解した事だから、デカい事は言えないし言いたくないけど――この事件で見た者は、“人間”と勘違いして人間性を失ったケダモノと、人間になれない基盤に縛り付けられたゴミクズと、それを疑う事も出来なかった人間。それだけだった」

「資料は見た。しかしそれを疑う事は、第三者にしか出来ない事。そして――その人間になれない基盤を壊し、ゴミクズを人間にしたのは、他でもないお前だろう……確かに、教わり信じた事、人間性その物を全否定された時、お前が何を思い何に失望したのかはわからん。だがこの件については、お前は間に合い我は間に合わなかった。お前は間違いなく、笠木アサヒを人間にする事を成した。それだけは言える」

 そう告げた正輝に、裕樹は苦笑し――そのまま笑い始めた。

「--皆から散々言われ続けた事の筈なのに、今ようやくわかったような気がする……“堕ちた悪魔”よりも、裕香やアサヒの為に“人間”になりたい。今はそう思う」


 ガチャッ!


「ユウ兄ちゃん!」

「……ユウ、お兄、ちゃん」

「あっ、裕香、アサヒ!」

「もうっ、何やってるの!! 北郷さんとの勝負が楽しいのはわかるけど、こんな大ケガするまで続けるのはやめてって、何度も……ずびっ……何度も言ってるのにぃっ!! 」

「――うっ、ぐすっ、えぐっ……」

「わっ、悪かった! 悪かった!! すっかり頭に血が上って、その……アサヒ、裕香、頼むから泣かんでくれ」


「――朝霧、天賦を持とうが、悪魔のような冷徹さを本性と定義してようが、お前は間違いなく人間だ。その子達がいる限り、お前は本当の意味で悪魔には絶対になれん」


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