夢を見る意味
本日、裕樹はお仕事休み。
監査を拒む初等部寮も、長引けば寮生の学業妨害になると瓦解寸前となり、監査は現在スムーズとまではいかないが、進んでいる。
その為、裕樹が出張る様な事はなさそうなので――
「もう俺達の出番はなさそうだな。龍星のダンナに鷹久」
「後は、改革の実案がまとまるまで……と言う事か」
「じゃあ後は生徒会の皆様にお願いして、ですね」
「子供が明日を夢を見れない世界に、学園都市の存在意義はない――宇宙もそう言って、岩崎に協力してるみたいだから、そっちは大丈夫だろ」
本日屋台通りでのんびり休暇中。
裕樹、龍星、鷹久は屋台通りで買った物を肴にのんびり談笑中。
その中でアサヒが裕樹の膝の上で胸に顔を埋め、服を見て分かる程強く握り締めて、すーすーと寝息を立てている。
「アサヒちゃんって、寝てるかボーっとしてるかのどっちかだな」
「ここに初めて来たときは、大変だったそうですね。なんか、恐慌状態だったとか」
「――それについては、俺が考えなさ過ぎたと思ってる。寝てる時でさえ、以前裕香が毛布掛けようとしたら、いきなり飛び起きて大泣きしながら逃げるまでとは思わなかったし」
「いや、その時点で人前に出すな――と言うべきかもしれんが、逆に考えれば満足に寝る事さえさせなかったのか」
「そう言えば、アサヒちゃんを虐待してたっていう寮監って、あの後どうなったんですか?」
「ん? さあ。なんか連絡あったと思うけど、覚えてない」
結局裕樹の1件以来、アサヒ以外でも余罪が明らかとなり、元寮監も元執行部員も公衆トイレ掃除委員として日々に加え、かなりのペナルティが下された。
勿論、それ以外にも初等部寮監が大多数の入れ替えが起こり、清掃委員会は大賑わいに。
――最も裕樹にとって、岩崎が部下に下した判断なのだからと、興味も示さず“腹減ったなー”と思いながら説明を聞き流していた。
「……時々思うが、信じられん程に冷静だな。俺だったら怒られる事覚悟で、その寮監と執行部員、肉体言語で反省させたい所だが」
「――“堕ちた悪魔”に裁きも断罪もねーだろ。それにそいつらの血を搾り取った所で、アサヒの痛みを洗い流せるわけでもないし」
「……前半は蔑称でそんな風に考えられるのはすごいと思いますけど、後半さらりとリアルで怖い事言わないでください。本気で怖いですから」
女性に対して空気が読めなかったり、セクハラ発言がさらりと出たり、性関係の知識が乏しすぎるから忘れられがちだが、激情すれば最強で一番厄介なのが裕樹。
案外“堕ちた悪魔”と言う蔑称を受け入れてるのも、激情を戒める為もあるかも……
などと2人は少し考えるも、裕樹の姿勢を見習って考えない事にした。
確かにそいつらをどうこうした所で、アサヒが良い方向に行く訳でもない――そう考えて、2人は屋台物を一口食べてアサヒに目を向ける。
「…………ふぁあっ」
「ん? おうっ、おはよアサヒ」
「…………おはよ」
あくびをして、目を覚ましたアサヒは、龍星と鷹久を見て――そっぽ向いた。
「はははっ……怖がらなくなっただけマシ、でしょうか?」
「そっ、そう……だな」
アサヒが泣き叫ぶ時と恐慌状態以外で、表情を変えた所を2人は見た事ない。
本来は感情が顔に出ないタイプなのだろうが、表に出るのが恐怖と嘆きだと言うのが、心苦しかった。
「さてアサヒ、お昼寝も済んだことだし、どうする?」
「…………お腹すいた。えっと……つぐみ(?)さんとみなも(?)さんのお菓子食べたい」
「ん、わかった。後、名前位覚えてやってくれ」
「…………ん……ゆー姉ちゃんは?」
「2人の手伝い。じゃ龍星のダンナに鷹久、ちょっと行ってくる」
と、今度はアサヒをおんぶで連れて行った。
その姿を見送って、一言。
「子供が安心して明日を夢見れないなら、学園都市の存在意義はない――か。ああいうのが見本なのかもしれませんね」
「違いない――俺も子供に夢を見せられるような存在にならないと」




