アサヒの電子召喚獣
「はい、新規のD-Phone」
アサヒの持っていたD-Phoneは、結論から言えば粗悪品。
ソフトは、インストールが最優先項目である電子召喚獣が入っておらず、学生証の機能すらバグだらけで、ハードも記憶容量や充電どころか稼働もろくに出来ないと、所持その物が学園都市の規則違反に該当する物。
なので裕樹が生徒会に掛け合い、新規のD-Phone登録を依頼――一先ず個人情報だけを入力された物を支給。
成績関連はほぼ不登校扱いだった為、時期を見計らってから学力テストを行い、入力予定。
「――上には上がいるのは教訓になりますが、下には下が居ると言うのは嫌悪と呆れ以外の何物でもありませんね」
この事実を知った執行部長殿は、早急に初等部全員のD-Phoneの所持状態の確認、粗悪品や不良品は直ちにメンテあるいは新品支給を急がせた。
なお、個人情報であるD-Phone関連の管理、メンテ依頼も初等部寮監の役割の1つであり、こちらでも初等部寮は彼方此方大忙し。
「この話に限らず、個人情報管理を蔑ろにするのは大変危険です。管理や取り扱いにはくれぐれも注意してください」
「――ユウ兄ちゃん、誰に言ってるの?」
「いや、こっちの話――さて」
――と言う訳で、生徒会から届いたアサヒの新しいD-Phone。
岩崎執行部長から、管理不行き届きの賠償と言う事でハードは最新モデル。
電子召喚獣プログラムも登録済みで、最高レベルのセキュリティアプリもインストール――初等部の為に賠償金は無理が出てしまう為、執行部長責任で約束できる範囲で身の安全、心身の健康管理、D-Phoneの保証が付けられた。
――余談だが、本当は直接渡すべきなのだが、アサヒの対人恐怖症と現状の主導で時間が取れず、裕樹を呼び出し頭を下げてアサヒに渡す様、執行部長は頼んだ。
「…………」
裕樹に差し出されたD-Phoneを、アサヒが無表情でじっと見つめ――受け取った。
「執行部長が悪い訳じゃないのに」
「それでも組織図から見れば、責任はあるんだとさ――裕香、人に限らず生命を“気軽に”否定したり傷つけちゃダメだぞ。アサヒみたいな事を起こしたくないだろ?」
「はーい」
――“堕ちた悪魔”が言う事じゃないけど、裕香がそういう事するようになったら、本気で泣きそうだし。
と、内心やや情けない事を考えていたのは割愛。
「…………あの」
「? どうしたアサヒ?」
「…………どうやって使うの?」
「……えーっとな」
考えてみれば、最初から粗悪品しか持ってなかったアサヒが、使い方が分かる訳ないか。
と思い、D-Phoneの電源を入れて、起動させる。
「――――わあっ」
起動画面が立ち上がり、アサヒは魔法にでも立ち会ったかのような好奇心を露にした。
『ピィっ!』
「…………!?」
折角だからと、裕香が自身の電子召喚獣ルクスを見せようと、起動させた。
「大丈夫だよ、この子はルクス。私の電子召喚獣」
「ちょうどいい、アサヒの電子召喚獣も出してみるか。アサヒ、ここをーー」
――そして。
『…………』
電子召喚獣の初期形態、レッサータイプが姿を現した。
その姿を見て、裕樹は――
「え? これってまさか……」
裕樹が自身のD-Phoneで、光一に電話。
『――どうしたユウ?』
「ちょっと聞きたいんだけど、レッサータイプで……」
「…………?」
「--?」
その様子を、裕香とアサヒがきょとんとしながら見上げる。
「――わかった。すまんな、ありがと」
と言って、裕樹が通話を切った。
「どうしたのユウ兄ちゃん?」
「アサヒのレッサータイプ、特別だった」
「え!?」
まずは一見――レッサータイプ特有の、ボールのような身体。
額にはXIXと書かれていて、衛星の様に火の玉が1つ浮かんでいる。
「レッサータイプは初期の段階じゃ、共通のボールみたいな身体と特徴みたいに羽やら角やらがついてるもんだろ」
「うん。私のルクスも同じだよね」
「でもその中には、凪や四神の家系みたいに、個人のデータが作用して特別な形態をもったレッサータイプもあるんだって――で、えーっと……アサヒのはローマ数字の19で、あの火の玉は多分太陽を象ってる筈だから、タロットカードのザ・サンを象ってる」
殆どが光一からの受け売りで、裕樹も昔みた凪の黄姫が他とは違う形態をしていたのをよく覚えている。
で、タロットの知識は検索かけて、見つけた。
「で、えーっと……意味は正位置が成功、誕生、祝福で、逆位置が失敗、落胆、流産、か」
「――こう言っちゃいけないけど、なんかすごく納得できる気が」
「…………」
――そんな話をしてる兄妹を他所に、アサヒは。
「…………」
『…………』
「…………?」
『…………』
自身の電子召喚獣と、距離を取りつつにらめっこ。
レッサータイプはまだ機械的な反応しか出来ない為、アサヒも普通とは違う反応に戸惑いつつ手を伸ばす。
「…………ザ・サン?」
『…………』
「ねえ、女の子の電子召喚獣で“ザ”って言うのもなんだし、サンで良いんじゃない?」
「それで良いんじゃないか?」
「…………サン。私の、電子、召喚獣」
その手の上に、ちょこんと乗っかるサンに、表情こそ動いていない。
ただ裕樹と裕香には、何となく笑って見えていた。




