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そうだ、祝杯をあげよう

“今日は皆で宴会をやろう”

 裕樹からそういう連絡が届いた面々は、ある少々寂れた感のある宴会場に赴いていた。

「宴会って、一体どういうつもりだろ?」

「さっ、さあ……?」

「先輩方も、何も聞いてないんですか?」

「うん……」

 招待された場所が宴会場と言う事で、皆着飾っていた。

 その為、つぐみとみなも、宇佐美にひばりもドレスを着ている。

「裕樹から重大発表があるそうだが、一体なんだろうな?」

『さあ……よくわからないよ』

 凪と王牙、そして宇宙の代理を頼まれた芹香をエスコートする龍星のカップルも、揃って疑問符を浮かべている

「けど、なんで態々ドレスなんて……」

「宴会場なんだから、ラフな格好で行く方が目立つよ」

 同じく綾香をエスコートする鷹久は、少し違うが。

「何か知ってる?」

「裕香ちゃんの誕生日――でもないよな。ユウの奴、一体どういうつもりだろ」

 正輝の代理で来た光が光一に尋ねても、首を横に振った。

 裕香は知っていたが、今回のサプライズな為知らぬ存ぜぬを貫いている。

 そうこうしている間に料理が運ばれ、それが終わると照明が消される。

「えー、みな様。本日はお集まりいただきありがとうございます」

 そこで裕樹が突如ライトアップされ、来訪の挨拶をアナウンスした。

「まずは、この宴会の趣旨と経緯について、ご説明させていただきます」

 と、裕樹は、そこからゆっくりと事情を説明し始めた。



 裕樹がこの宴会場の近くを通りかかった時――

「またお前かこのクソガキ!!」

「ん?」

 裏路地の法から、怒鳴り声が響き渡った。

 何事かと思い、覗いてみると――

「二度と来るなっつってんだろうが、この疫病神!! お前のせいで――」

「おい、何やってんだ!!」

「なんだ……あれ、朝霧、裕樹!?」

 コック帽と調理服を着た男が、初等部位の少女の胸倉を掴み上げている。

 見てみれば、まだ裕香よりも小さいにも拘らず、髪はボサボサでボロボロのTシャツにスカート、腕や足、顔は青痣だらけで、更にはろくに食事もしてないのか痩せ細っている。

 足元と少女の口元を見れば、少女がゴミ漁りをして怒鳴られている――という所だと辺りを着けて、裕樹は。

「――学園都市で、初等部の子供がゴミ漁り? ……おい、子供相手に」

「かっ、勘違いしないでください。この傷は、違いますよ……そりゃあ、この子が悪い訳じゃないってわかってるんですけど」

「? ――どういうことだ?」

「実は――」

 聞いたところ、この少女は近くの初等部寮に住む初等部一年生

其処は孤児院出身者の差別意識を養う様な所で、寮生処か寮監からも言い掛かり同然の理由で殴る蹴るをされ、孤児院出身者であるこの少女を最低の基準として扱う。

 不憫に思ったここのコックの一人が、保安部に通報したらしいが--その次の日、生徒会執行部員がいきなりそのコックのクビを宣告し、この宴会場は謂われなき容疑を掛けられ執行部に目を付けられる羽目となり、経営が危なくなった。

 その話を黙って聞いていた裕樹が――

「――悪いが、支配人を呼んで、こう言ってきてくれないか? その謂われなき容疑を解いてやる。報酬は、この宴会場を一日貸し切りだって」

「はっ、はい――」

「それと、依頼が終わった後で良いから、この子に謝ってくれ」

「いえ――ごっ、ごめんなお嬢ちゃん。俺達だって、こんな事したくないけど……」

 それから、宴会場の支配人から話を聞いて、正式な以来として成立。

裕樹は子供を連れて外へ出ると、執行部長の岩崎賢二に連絡。

 初等部寮の運営管理は執行部長の管轄の為、その少女の顔写真を贈った上で事情を説明し――

「って訳で、この初等部寮と執行部員の素行調査許可をもらいたい」

『――わかりました。申し訳ありません、僕の監督不行き届きで』

 許可をもらい、いざ調査――するまでもなかった。

「おい!」

 突如怒声を上げ、少女を蹴ろうとする足を、裕樹が足で抑えた

「なっ! 何しやがる!!?」

「そりゃこっちのセリフだ。こんな大っぴらにガキを蹴飛ばすのを止めて、何が悪い」

「悪いに決まってんだろ。いいか――」

 どうやら蹴飛ばそうとしたのは、少女が暮らす寮の寮監だった。

 そこから堂々と、孤児院出身者を差別する発言を演説の様に行って、更にはあの宴会場に謂われなき容疑を掛けただろう執行部員の役職と名前を叫び、そいつが黙ってないと小物臭いセリフを披露。

 少女は怯え、裕樹の後ろに隠れていたが、裕樹は目を明後日の方に向けあくびをしたところで、相手の寮監が顔を真っ赤にした。

「聞いてんのかテメエ!!」

「ハイハイ聞いてるよ――まず、無駄な手間を省いてくれてサンキュ、と言っとく」

「はぁっ!!?」

 裕樹はこんなつまんねー仕事初めてだな~、と思いつつまだ話し中だったD-Phoneを差し出す。

『やれやれ――聞こえてますか? 生徒総会の一員、執行部長の岩崎賢二です』

「――は?」

『――先ほどの発言、しっかりと聞かせていただきました。たった今をもって、君の寮監資格の没収通知を送らせていただきます』

「はっ、はあっ!? ちょっ、ちょっと待て。どこの馬の骨だか何だか知らないが、何を嘘ぶっこいて……」

 その言葉に呼応するように、“元”寮監のD-Phoneに通知が入り、画面を見て蒼白になった。

 電話の相手が正真正銘の岩崎賢二--裕樹はまだ電話を切ってなかったので、スピーカーホンにしていた。

『それと、君の親友とやらは、これから僕直々に調査に向かいます。まあ君の話を聞く限りでは、左遷は間違いないでしょうね――それでは君は今すぐ荷物を纏めて、後任が来るだろう一週間以内に寮から出て行ってください』

「ちょっ――まっ、待ってください! 納得が出来ません!!」

『……申し訳ありませんが、公私の両面で君の話は聞くわけにも聞きたくもありません。生活指導をしたいのであれば、差別思想ではなく将来を思い描けるようになってください』

「ああ待ってくれ岩崎、さっき言ってた子だけど、こんなのが寮監してた様な寮に戻すのは危険だから……」

『ふむっ……わかりました。手続きは僕の方でやっておきます』



「――と言う訳で」

 裕樹はそこで、ライトアップされた場から少し離れて、着飾った痩せ細っている少女を皆の前に立たせた。

 裕香においでおいでをするように手を振り、裕香が駆け寄る。

「ちょっとの間だけど、俺達に家族が増えました」

「ちょっとの間だけど、私お姉ちゃんになりまーす」

「――はっ、はじめ、まして……笠木アサヒ、です」

「その事を祝し、本日はお祝いを盛大にしようと言う事で、皆さまをお呼びしました。それでは――」


『カンパーーイ!!』



 --余談

 その後、執行部長権限で全初等部寮の寮監及び初等部生の風紀調査が行われ--

「出身は権利でも罪でもありません。最低を見下すのではなく、最高を目指せる生活指導--それを心掛けて、寮監の皆さんは職務に励んでください」

 と、初等部寮改革を進め始めた。

「--くっそおっ、なんで俺がこんな事を」

「テメエの所為だろうが!! よりにもよって岩崎執行部長に余計な事をほざきやがって!!」

「んだと!? あれだけの金払ってやっただろうが!!」

「ちょっと、そこの清掃委員の2人、さぼってないで仕事してください」

 そして生徒会執行部清掃委員会、公衆トイレ掃除委員に2人程補充される事となった。


「とりあえず、家族の温かさを教えてやる事から、かな」

「うん。姉バカって言われてもいいから、うんと可愛がってあげるつもりだよ」

「--夜は3人で寝ようか」

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