朝霧裕樹と榊龍星の合同作業
はい、ちょっと裕樹君ブチ切れの一瞬、出してみました。
――それはとある日の事。
裕樹と龍星が、一緒に生徒会から受けた合同の仕事を終え、屋台通りに向かっていた。
「--気分悪い仕事だったな」
「文句言うなよダンナ。男だ女だ言ったって、誰もがダンナと芹香みたいな、えーっと……」
「やめろ。ろくな表現が出てくる気がせん」
依頼は、ある生徒会役員と雑誌社(学生運営)の調査。
学園都市で紙として発行する本、雑誌、同人誌等の作成、印刷、販売に関する管理を行っている役員が、ご禁制――所謂“年齢制限オーバー”な物の裏取引の証拠をつかめ。
その依頼を受けて、裕樹は雑誌社を、龍星は役員を調査し、ある程度の証拠が揃ったところで、その間を取り持っている女子生徒を発見
手には紙資料を、絶縁ファイルに入れて持ち歩き、その少女が会社と役員の情報の連絡員なのだと辺りを付け追跡し、役員の部屋に突入
――する所までは、普通だった。
「――お前よく平気だな」
「何が?」
――いざ突入してみれば。
使者の女子生徒と役員の18禁な光景があり――後は裕樹が平然と女子に上着を放り投げた後、あっさりと降伏した役員と会社に、ある程度の温情措置を取る様に話を着けて、報酬をもらい今に至る。
「別にどうってことないだろ。ダンナにゃ、芹香以外の女の裸なんて面白いもんじゃないだろうに」
「頼むからそう言うセリフが、女子からの反感を買うんだってわかれ! それと俺は紳士だ、妙な劣情は断じて起こさん――しかし、どうして態々温情措置を申告した?」
「説得ですむに越した事はないだろ。相手が降伏するってんなら、別に力振るう必要ないし、裁きまでは依頼されてないんだから」
「それはそうだが――」
龍星は裕樹と割と付き合いが長いが、裕樹は相手がどんな罪状を犯そうと、まず降伏勧告から始め、それを受け入れれば温情措置を申請するやり方は、一体どういうことかよくわからない。
最も、それで終わり――ではない事態の方が多いのだが。
「それよりダンナ、これから屋台通りだろ? この通り財布も潤った事だし、つぐみたちに差し入れ持ってかないか?」
「おっ、良いな。内容はあれだが――屋台通りでパーッとやって忘れよう」
「じゃ、まずはヤシの実を……」
「裕樹。砕かずに割る方法、教え--」
「きゃあっ!!」
そんな話をしていると、初等部位の女子の悲鳴があがった。
それと同時に、中等部位の男が明らかに不似合いなカバンを手に、走ってくる。
「ひったくりか!?」
と、男を取り押さえようと、龍星は構え――
「――ちょっとごめんよ」
――る前に、裕樹が既にその男のカバンを持った手を持ち、投げていた。
当然の様に、ケガはさせていない。
「おい兄ちゃんよ。今、女の子の悲鳴があったけど、なんでその方向から走ってきた? それとこれ、明らかにお前が持つようなデザインのカバンじゃないよな?」
構えを取ったのがバカみたいじゃないか、と思いつつも龍星は悲鳴があった場所へ駆け寄った。
そこには殴られた痕があり、今にも泣き叫びそうな初等部の女の子が尻餅をついている。
「大丈夫か? すぐ手当を――」
「カバン――友達へのお見舞い品が、あの人に」
涙目で、裕樹が投げた男が持っているカバンを指さす少女。
龍星がブチ切れそうな空気を感じたのか、裕樹が――
「落ち着けダンナ。とりあえず、このカバン返してあの子に謝りな。そしたら保安部通報と治療費位は俺が――」
しゃがんで温情措置を取ろうとし、龍星がそれに抗議しようと――
「――るっせんだよ!!」
した所で、男が懐からメリケンサックを取り出し、それを付けた拳を裕樹の顔面に叩きつけた。
「“堕ちた悪魔”の分際で人間様に何てことしやがんだ!! アクマはさっさと地獄に堕ちちまえ!!」」
その言葉に、龍星が更に頭に血が上る感覚を覚えた――その次の瞬間。
グキッ!!
「……じゃあ」
眼帯を着けていない方の裕樹の眼が見えた龍星は、ゾっと悪寒が走り脳裏に自身がギロチン台に掛けられている光景がよぎり、裕樹から本能的に数歩後ろに下がった事を、気付けなかった。
顔面に叩きつけられた拳の手首の関節を外し、先ほど投げた手を男の口を悲鳴を上げる前に掴み上げ、近くの壁に叩きつけた。
「――人の法律で裁いてもらえる幸せを教えてやろうか? “ニンゲンサマ”」
掴み上げたその男は、裕樹の掌越しに声にならない悲鳴を上げ、白目をむいて失禁し気絶した。
「……しまった」
手を離し男がその場に倒れ込むと、裕樹はハンカチを取り出して乱暴に顔をぬぐった。
全員が言葉を失う中で、裕樹が盗られたカバンを拾う。
「……仏の顔も三度までっていうけど、二度以上がどうもうまく出来ねえな」
「――つくづく、俺の考えが及ばないなお前は」
「――裕香にこんな所、見せられないってのに」
「見る前に気絶するぞ絶対――母さん以外であんな光景が頭に浮かんだの初めてだ」
気まずそうに裕樹が少女に、盗られたカバンを差し出し――
「あっ――あり、がと……」
先ほどの裕樹を怖がりつつ、差し出されたカバンを受け取った。
そして保安部員が来たことを確認して、2人はその保安部員に話をするため歩み寄った。
「――人間様、ねえ。“堕ちた悪魔”の俺は、一体どこからどこに堕ちたのやら」
「ん?」
「――いや、何でもない」




