学園都市の体育祭 タッグバージョン(10)
最近、文章力がどうも落ちた気がします。
何か指摘があったら、お願いします
「外で食べるのは初めて?」
「はっ、はい……屋台通りの事は知ってましたが、行儀が悪いからと」
「弁護なんかいらねーだろ。立場の違いはハッキリさせたいって意向、隠そうともしてなかっただろうに」
「うん。言いたくないけど、ヤな感じだった」
常に店主と客で賑わっている筈の屋台通りは、そのどちらもが静まり返っていた。
その中心にいるのは、裕樹が妹の裕香と一緒に怜奈を案内している光景。
「あの、朝霧先輩」
「ん?」
「……ニュースで、先輩が水鏡グループのお嬢様と組んだことは知ってますけど、一体どういう流れで? しかもお互い名前呼びだなんて」
「あれから何が何やら、訳のわからないゴシップばかり聞かされ続けた所にこれですから、もう驚けません」
「――だろうな。いつものみなもだったら今のセリフ、絶対噛んだだろうし。それ位の事になってるって自覚位はあるし」
「……せめて自覚の方を前者にしてくだちゃい」
と言うのも、一般には裕樹と怜奈がタッグ結成と、それを生徒総会が認めたと言う事しか広まっておらず、ゴシップが横行し煽られている雪ダルマ状態。
それに加え、あまり触れられない(あるいは触れられない)為誰も知らないが、怜奈と何かがあって裕樹が保安部を追放され、“堕ちた悪魔”という蔑称を着けられた事は、その経緯以外はゴシップとしては上出来で、有名な話。
つぐみとみなもも、裕樹がその蔑称を肯定してる割に、怜奈とは“水鏡のお嬢さん”と壁を作った対応しかしていなかった為に、この急な変わり様は動揺を隠せない。
「実は――」
「タッグ結成は詠お嬢さんからの依頼で、陽炎財閥と水鏡グループの上層部間で交わされた、ある協定の一環――としか聞いてない。名前呼びは、タッグパートナーとして信用の表明として、俺から出した結成条件みたいなもん」
勿論これは、裕樹の中で虚実が織り交ぜて作った口実。
屋台通りに来たのは、他のタッグにあって自身たちにはない、個人間での理解を深める為。
――そして
「……なんだよ、駆け落ち表明ってデマだったのか」
「駆け落ち? 俺は、お嬢様の誘拐だとかなんとか――」
「水鏡が裕香ちゃんを攫って、言う事聞かせてるとかって聞いたけど?」
「だったら、裕香ちゃんが平然とここに居るのもおかしいだろ。そんな相手に裕香ちゃん近づけて平然としてるなんて、あのユウさんがやるか?」
「まあ世間知らずっぽいお嬢様と、デリカシーが皆無でセクハラ概念がない朝霧さんだもんな。こんな組み合わせじゃ、何かない方がおかしいか」
恋愛や友人関係と同じ様に、遺恨や因縁と言った物も本来は当人だけの物。
そう考えてる裕樹にとって、それを本人達そっちのけで余計な物を付随され、妹を巻き込んでまで勝手に暴走させられる現状にも、嫌気がさしていた。
「――つぐみ、みなも、お前らどんなゴシップ聞いた? 言いにくかったら良いけど」
「はい。ひどい物では、朝霧先輩が電子ドラッグを使って、怜奈さんをいいように操る事に成功し……ごにょごにょ……」
「わちゃしは……あのしょのいぇっちょれしゅえね~」
「――言いにくかったら言わなくていいって」
――聞かなくても、大体の見当はつく
と付け加えて、裕樹ははあっとため息をついた。
「――ホント、ヤな感じ」
「……」
裕香は、裕樹が何かと悪役にされる事が多い事が嫌だったが、裕樹自身気にも留めていないので、心中穏やかではないが相手にしない事にしている
そして、こう言った事に関わりを持った事がない――もとい、遠ざけられていた怜奈は、ショックを隠せずにいた。
「すまん、ここに連れて来たのは失敗――!」
「? どうしたんですか?」
「――失敗だった。つぐみ、勘定」
――所変わって。
「――お嬢様」
屋台通りから離れた、ある高い建物の屋上にて。
怜奈の様子を、沈痛な表情で見つめていた蓮華と――
「――どうかな? 貴方達の楽園の象徴が、外に出て言った気分は」
「……なぜここに連れて来た?」
「何故って、僕は見て見ぬフリが嫌いなんだよ。だから、お目当てのお嬢様の居場所を教えてあげただけさ――いけない手段使って呼び出したことは、謝るけどさ」
その蓮華をここに(騙して)連れて来た、東城太助の姿があった。
「何故私だけに教えた?」
「朝霧君が絡んでるから、手段を選んでくれるの君だけだからだよ。余計な騒動は起こしたくないし、そうなったら――わかるでしょ?」
「……言い方を変えよう。何故、いけない手段とやらで呼び出した? 貴様ならば、こんな回りくどい真似をする必要などない筈」
「――本音を言えば、前々から訪ねたい事があったから、いい機会だと思ったんだよ」
「――何を聞きたい?」
正直、手配犯の掌の上と言うのが気に入らなかったが、言っている事自体は間違ってはいない為、蓮華は不満を飲み込んだ。
「んー、じゃあ質問として……まずは、怒らないで聞いて欲しいんだけど」
「わかったから早く言え」
「何故、水鏡怜奈を善人に育てた?」
蓮華は最初、何を言っているのかがわからなかった。
――冴えない風貌からは読み取りにくかったが、少なくとも太助は冗談を言っているようには見えない。
「――どういう意味だ?」
「あれ、わかり難かった? ――なぜ、他人を踏みにじって喜ぶように育てなかったのか、って言えばわかるかな?」
蓮華は激昂し、太助の薄汚れた白衣ごと胸倉を掴み、近くの壁に叩きつけた。
それで誰が出てくる事もなければ、抵抗する様子も見せず、太助は表情を変える事もなく成すがままにされている。
「……お嬢様が善に育ったことが、間違いだと言うのか!?」
「まあ君には……いや、君だからこそ理解できないのも、無理ないかもね。君も君達水鏡グループも、そして彼女を知る誰もが特定の、それも自分にとって都合のいい面しか見てない」
そこで太助が蓮華の腕を掴み、軽く振りほどいた。
身体能力においては、腕力で男性の劣る事はあれど、それでも太助の様な学者肌のインドア派に負けるような鍛え方はしていない為、多少面食らい――
「!? 貴様、その腕は……!?」
「――水鏡怜奈と言う存在が、所詮は人間である事を見て見ぬフリを通り越し、本当に見えなくなってる。だから、彼女を尊ぶ事は出来ても、その変化を喜ぶことが出来ない」
「……ああ、そうだな。私も部下たちも、この事を知り真っ先に思った事は水鏡グループの体裁のみだ。私はお嬢様を、人と見る事が出来なかった無能だと認めよう――だが貴様のこの腕は何だ!? 今の貴様は、本当に人間と呼べるのか!?」
「呼べないさ――最もこの腕以上に、僕は悪と言う概念に特化して、膨大な知識を手に入れてしまったからだけど」
僕は多分、この世で最も善と言う概念から遠い存在なんだろうね。
と、やや自虐気味に吐き捨てる様な呟きを漏らし、自身の腕を元に戻した。
「だから、僕は精々人に何かを促し、手助けする事しか出来ないよ。人の世を創るも変えるも、人の所業なんだから」
「――私を人と見るのか?」
「何をもって人を人とするかは、僕の場合は言葉が通じる内は、だからね」
そういって、太助は踵を返しその場を立ち去ろうとする。
蓮華がD-Phoneを手にしたその時――
――ギロッ!
「っ!!?」
太助から向けられた視線に、背に悪寒が走る――処の話ではない恐怖を感じ
「心配するな。お前の事に触れるつもりはない」
「……驚かせたのならゴメン」
「……悪と言う概念の膨大な知識、どうやら嘘じゃないらしい」
「あっ、そうだ。面白い事を教えてあげるよ――君、シン・スフィアはもってるかい?」
「持っている」
「だったら、近々開催される体育祭一週間前くらいかな? 来島アキが面白い技術を開発したから、その実用試験も体育祭に組み込むらしい」




