学園都市の体育祭 タッグバージョン(8)
花柳月
学園都市医学部主席で、既に医療国家資格をいくつも取得した才女である。
また、医学に関しては非常に貪欲であり、新薬開発や医療食の研究等で、学園都市内外で多大な貢献をしている人物。
「……やはり、ドクターのマッサージが一番効くな」
「ありがと。私としても学園都市最高の肉体のマッサージは、色々と勉強させて貰えてるわ--どっしりした質量と密度なのに、それがちゃんと使えるよう仕上がっている筋肉……まさに先天性と後天的が調和した、最高の肉体ね」
「そう言って貰えるのは素直に嬉しいな--では、しっかり頼もうか」
「何なら、皆が寝静まった夜に……」
「だから、子供の前でそういう表現はやめろ」
ただ、性に関してかなり奔放であり、興味を持った相手に際どい発言や思わせ振りな行動をとって、からかう一面がある
--男女問わず。
「子供? ……あっ、いっけない。お兄ちゃん看てもらおうと思ってたの、すっかり忘れてた」
「いや、忘れるな」
『それじゃ裕香ちゃん、一緒に……』
「芹ちゃん、野暮はダ・メ・よ」
そう言って芹香に向けてウインクし、王牙のマッサージの手を止めて、裕香の元へ。
軽く裕香の手を引いて、裕樹がいる部屋の前で--。
「……今腰痛めてるから、腕枕で我慢してね。絶対に体に、のしかかっちゃダメよ。何かあったら、お姉さんのD-Phoneに連絡してね」
と耳打ちしてから裕香を中に促して、鍵がかかったのを確認して--。
「さて、続き続き」
『さっき、何話たんですか?』
「何かあったら、連絡してって。一応、飲み物と食べ物の入った冷蔵庫もテレビや本もあるから、しばらく2人だけにしてあげましょ」
そして、裕香の甘えん坊を知ってる数少ない人物の1人であり、こういった気配りも出来る程度には大人である。
「……忘れてたって言ってた割に、そう言う気配りは普通にできるんだな」
『……確かに、素直に大人の女性だって憧れられる面はあるけど』
「人間って言うのはね、良い物と悪い物と意味がない物を混ぜ合わせて、それに愚かさっていうスパイスを加えて出来る物なの。多少変人な位じゃないと、世の中上手にはわたっていける物なのよ」
「--変人っていう自覚はあるのか」
「あるに決まってるじゃない」
あっけらかんと言い放った言葉に、全員が何も言えなくなった。
飄々とした態度で王牙のマッサージに戻っていき--そこで、表情が真面目になった。
「所で芹ちゃん、ユウとお嬢様のタッグ結成認定の話、もう公表したの?」
『え? ええ、もう公表はされてる筈ですけど--」
「じゃあ今頃、学園都市は大騒動ね--なにせ、下剋上は常識中の常識、新星の登場や古豪の衰退は日常茶飯事な、武闘派体育祭に投じられた一石--と言うよりは、隕石なんだから」
『いえ、隕石じゃ波紋処の話じゃありませんから。まあ--波紋じゃ済まないでしょうね、これ」
--所変わって。
「--まったく、我を除け者にこんな事が行われていたとは」
学園都市保安部庁舎、長官室にて。
「でも、意外でしたね。水鏡怜奈と陽炎詠の個人的な友好表明としてのタッグ結成、それを生徒総会が許可しただなんて」
「本来水鏡と陽炎は、勢力的に均衡が保てていた。だが、朝霧裕樹と言うジョーカーを陽炎詠が手にしたことで、それが崩れていた」
「それが近年の水鏡では暴走、陽炎では増長を齎していた--と言う話なら、俺も知っています。その事で、朝霧さんが水鏡に齎した損害はかなりの額、だから裕香ちゃんに目をつける輩も少なくはなかった事も」
「だからこそ、だろう。どちらの組織的にも、現状が続けばろくな事にならんなら--という所だろう」
保安部長官、北郷正輝と保安部機動第一部隊長、中原大輔。
この2名は生徒会からの知らせを前に、苦い顔をしていた。
「--ある物なんですね。たった1人が、組織の対立という均衡を大きく崩す、なんて」
「--だからこそ、肩を並べる事も必死なのだ」
「え?」
「いや、何でもない--それより大輔、お前のプログラム・シンの成功率は?」
「はい……漸く、3回に1回は」
「--今は上出来、とほめるべきか。ではそろそろ訓練だ、保安部の代表としての働き、期待している」
「はい」
--所変わって
「へえっ、やっぱり水鏡んとこのお嬢さん、ユウさんと組むことになんのか」
「生徒総会の認定が下りた事も含めて、意外と言えば意外だね--でも実力的には、最高の組み合わせが出来ちゃったわけだけど」
「箱入りお嬢様なのに、最強と同格ってのもすごいな--でも、やりあってみるのも楽しみじゃね?」
学園都市興行委員会
そこに所属する夏目綾香と、事実上お抱え用心棒扱いとなっている吉田鷹久は、ニュースサイトを見て会話に花を咲かせていた。
「まあそうだけど--まずそこまで残る事を考えなきゃ」
「何弱気に--とも言えねんだよな、ここじゃ」
学園都市武闘派体育祭。
そこは学園都市保安部、生徒会SP、各企業、財閥のお抱えSP、フリーの武闘派が参加資格を持つ、内容的に最も危険なイベントであり--
学園都市でも最も大きなイベントの1つであり、最も過酷で厳しいと名高いイベントでもある。
今回の形式としては、最強と称される4人のタッグに許された本選出場シード権。
その本選の出場枠、12組を決めるための予選が数回に分けて行われるシステムとなるが--。
「その予選だって、バカにならないんだよ。保安部の機動部隊長、生徒会SPの2部隊の猛者、各企業の有名SP、そして--」
「タカやユウさんみたいなフリーでも、名の知れた強豪--そして、それらの中に居るだろう、不世出の新星、だろ? 耳タコだぜ」
「わかってるんなら、油断せず一回一回を確実に--」
「タカ、この体育祭は“下剋上なんて常識中の常識”なんだろ? だったらびくびくすんなよ」
「--と、ああだこうだ言った処で、実際そうだね。負けを意識せず、勝ちを狙っていこうーー綾香となら、どこまでだって駆け上がっていける」
--所変わって
「……お嬢様。よりにもよって、私にも無断でなんて事を」
水鏡グループ所有の居住ビルでは……
世話役兼護衛の蓮華が、ニュースを見て真っ青になりながら頭を抱えていた。
周囲--特に裕樹を嫌っている怜奈の(女性だけ、それも名家出身の)SP、蓮華の部下たちが激怒する中で。
「蓮華様! なぜお嬢様が、よりにもよってあの蛮人と!!?」
「お嬢様が、あんな汚らわしい悪魔を選んだだなんて、絶対脅迫に決まっています!! すぐにでも……」
「--その前に聞きたいのだが、最近お前たちの間で“計画”と言う単語が出ているのは、どういう事だ?」
「--!? そっ、それは……」
「--話は後だ。この事は総帥に伝え、その後に行動する」




