学園都市の体育祭 タッグバージョン(6)
『ゴギャアアアアアアッ!!』
『ブモォオオオオオオッ!!』
轟く様な竜の咆哮と、猛る様な牛人の咆哮。
闇夜の様な漆黒色の鱗に背に翼を生やし、腕には刃のような突起と溶岩が滾っている宝玉が付いた、シン・カグツチ。
より逞しくなった肉体を炎模様のボディスーツで包み、腰には熱血王と書かれたチャンピオンベルトを付け、腕には牛の角を巻き付けた、シン・ブラスト。
ドラゴンVS牛人レスラーという、内容こそ異質ではあるが、最大級の対峙。
「--さて、次の課題と行くか」
「課題、ですか?」
「忘れたのかよ、俺は--」
--所変わって。
「ふむっ--そろそろ良いんじゃないですか? あの2人、信頼関係が生まれつつあります」
生徒総会席で、総会計が一番に口を開きそう告げた。
「そうですね。この試験は、あの2人がタッグとしてちゃんと機能するかどうか--そう言う意味では」
「確かにそうかもしれないが、けど何か引っかかるような……」
「その引っ掛かりは正解だ。そして、決断を急ぐものではないぞ」
執行部長がそれに賛同の意を示し、そして総会長がまだもう少しと言う雰囲気の中で--
「それはどういう意味だ、大神?」
「他はともかく、お前ならば真っ先に理解できている事だろう、一条?」
表情を動かさず否定の意を示した総副会長に、食って掛かる総書記。
しかし返された言葉に、歯を食いしばり両の拳を握り締め、苦悶の表情を浮かべた。
「……他の最強との唯一の相違点、だったらわかっている」
「--一条、大神、2人だけで話してないでどういう事か説明しろ」
「保安部、生徒会SP--最強たちはこれらの組織に所属し、率いる立場として培った“味方”と言う定義を、朝霧は培ってはいない」
「--あっ」
「奴は陽炎財閥に拾われるまでの間、“堕ちた悪魔”と蔑まれながら1人で万人、そして強大な獣と対峙して培われた最強だ。そんな人間が、誰かと肩を並べる事を知っていると思うのか?」
「それならタッグである時点で、朝霧は欠陥を抱えていたって事か!? --何てことだ!」
「--比類なき力の素地を、1人で培わざるを得なかったが故に生じた欠点、か。悲しい時には身一つ、とはよく言ったものだ」
--所変わって。
「--こういう場になって、初めて気づいた。俺はダンナや光一たちを、仲間や友達だと思ってはいても、信じてなんかいなかったんだって」
「……」
「今更だが皮肉な話だな。水鏡グループとの確執で“堕ちた悪魔”になった俺が、仲間として初めて肩を並べる相手が水鏡怜奈だなんて」
「--え?」
水鏡グループとの確執
裕樹は呆れたような表情になり、はあっとため息をついた。
「なに呆気に取られてんだよ? 何も出来ない事は、何もしない事とイコールじゃねえ--だから俺達は今、タッグとしてここに居るんだろ」
「……そう、でしたね」
「……話は終わったか?」
腕を組み、王牙が責める様子も攻める様子も見せず、そう問いかけた。
--内心、裕樹の悪癖が飛び出てタッグ崩壊、の可能性も“ちょっとだけ(笑)”考えていたのは、すぐさま頭から消した上で。
「--なんか今、不快なものを感じた様な……それよりも、隙をついてくると思ったが?」
「仲良しごっこですらなかった先ほどならまだしも、本当の意味での本気になった今、そんなバカな真似誰がするか」
「お前ならそうか--さて、俺もタッグ戦法ってのをやってみるかな」
と言っても裕樹は、怜奈の前に立って1対1の態勢から移行しようともしない処か、手の打刀を消して格闘戦の準備。
王牙の方も裕樹と怜奈、この2人が自身を攻めるとしたらと、先程から今まで幾つか想定したうえで対応策を考えていた。
タッグとしてはともかく、個々人では油断が出来る相手ではない以上、付け焼刃と侮っては先ほどの様な失態を犯しかねない為に。
「んじゃ、行くぞ!」
「来い!!」
裕樹が得意のロケットスタートで駆け出し、王牙は動かず迎え撃つ態勢。
近距離戦の間合いに入ったと同時に、裕樹が勢いを利用しての跳び蹴りを繰り出し、迎え撃つ体制の王牙が拳で相殺。
間髪入れずの王牙の膝蹴りを、裕樹が身体を翻して蹴りで迎え撃つ--と言う訳ではなく、足場にして飛び上がり王牙の肩に手を添え、其処を支点に宙返り。
パチンっ!
その最中に裕樹が指を鳴らし、宙返り勢いを利用して王牙の背に踵落とし。
王牙が咄嗟に振り向いてガードしようとし--踵落としの足をひっこめ空振りさせ、ただの宙返り。
「なっ!?」
それに合わせるように、王牙の足と胴に怜奈の腕が添えられ、王牙の身体の動きを利用し倒す態勢を取る。
裕樹が何事もなく着地したと同時に、王牙の巨体が背中から倒れた。
「--陽動とは、考えたな」
「流石に、お前らの様な阿吽の呼吸とまではいかないが--」
裕樹が怜奈に向けて手を上げ、ハイタッチを試みようとし--
「--?」
怜奈がその手を見て、疑問符を頭に浮かべていた。
「こうやって手を挙げて」
「こう、ですか?」
パンっ!
「チームプレイってのもいいもんだ」
「はい」
『モオオオオオオオオッ!!』
片や、シン・カグツチとシン・ブラストは--
シン・ブラストのパンチがシン・カグツチの胴体にめり込み、シン・カグツチが肩に噛み付き飛翔。
噛みつかれたシン・ブラストがシン・カグツチの首を絞め、シン・カグツチが噛みついたまま炎を吐いて、ボディブロー。
そのままシン・ブラストをぶん回し、地面にたたきつけた。
「あっちも、こちらが優勢みたいだな」
「--ならば、そろそろ私も入ろうか」
蚊帳の外--と言うより、離れた場所で座禅を組んでいた凪が、ゆっくりと立ち上がった。
「準備は出来たのか?」
「ああっ--これで決めるぞ」
「わかった」
「怜奈、プログラム・シン使えるだろ?」
「はっ、はい」
「今すぐ出せ--そして、絶体成功させろ」
「大丈夫です。失敗はしたことはありません」
「--すげーなおい」




