学園都市の体育祭 タッグバージョン(2)
生徒会SP戦闘訓練用フィールド
DIEシステムにより局地的に、地形、環境、天候や時間さえも一時的に創り出せる
「戦闘準備をしてここで待機--どういう事でしょうか?」
「--この場所で、あいつらが居るって事は、実戦テストでもするつもりなんだろ」
クリスに呼び出され、指示通り戦闘準備を済ませ指定された時間に到着
袴道着に胸当て、手には薙刀、腰に矢筒とそれに引っ掛けるように和弓を携えた怜奈。
片や、Tシャツにズボン、通常の物より幅も太さも倍はあるベルトに、左右系6本の太刀を掛け、左手には打刀を。
両腕には、手首から肘に届かない程度にテーピングを巻いた裕樹。
いつもなら、背に大刀も構えるところだが、本日はそれは省いている。
「あいつ等? ……御影凪さんと、鳴神王牙さん、ですね?」
「--鈍いお嬢さんだな」
対面しているのは、同じく戦闘態勢を整えている御影凪と鳴神王牙。
Tシャツに迷彩ズボン、編み上げブーツに手甲を付け、更に両拳にはバンデージをしっかりと巻いた王牙と、その後ろに佇むブラスト。
拳法着に愛用のロングコートを羽織り、両手にオープンフィンガーグラブを付けた凪。
その背にはしっかりと孫悟空がしがみ付いており、背の“斉天大聖”の文字に掛かる長さのマフラーを首に巻いていて--
--所変わって
「あのマフラー、もしかして……」
「はい。ボクも孫悟空が、シン・エンブレムを付けてる所久しぶりに見ました」
「更にはブラストまでが……圧巻、だな」
ちなみに見学用の席も設けられており、凪目当ての女子役員と出場するだろう生徒会SPメンバー。
そして、凪と王牙のタッグとなる龍星と辰美も、特例として観客席に座っていた。
「--大丈夫かな?」
その2人の間で、場違いな雰囲気に少々居心地悪そうに、裕香がちょっこりと座っている。
安全のために、肩に春雷を、膝に煌炎を、足元にヤマトを控えさせて。
「うーん……正直、厳しいとしか言えないかな」
「そうだな。多分昨日の電話がこういう事だったと思うが、間違いなくタッグとしての練習はしてないだろう」
「片や、護送警備隊と身辺警護隊の違いはあれど、同じ所属で肩を並べる機会が多い百戦錬磨--更に言えば」
「ああっ--あんまり知られてはいないが、裕樹は」
--所変わって
「--えっと、今、なんと?」
「……だから、俺はチームプレイの経験全くと言って良いほどないんだ」
最強と呼ばれる4人の中で、裕樹は1人で多勢、大型召喚獣相手の戦果が最も優れている。
しかしその戦果の裏話は、保安部崩れを差した“堕ちた悪魔”と言う蔑称、水鏡グループに目を付けられる事を恐れられ、1人でそれらと相対する術を身に着ける他なく、それが出来るだけの才覚も持っていた
故に裕樹は、チームプレイの経験が全くと言って良いほどない。
「“箱入りお嬢様”と“独断専行だけが能の堕ちた悪魔”の、欠陥だらけの急造タッグ--結果なんて見るまでもない」
「そんな……それでは、晒し者ではないですか」
--今この場で、タッグとしての機能を完成させる、位の発想出せよ。
と内心で裕樹は歯噛みしつつ--如何に印象よく敗北するか、に重点を置いて凪と王牙を見据え始めた。
「それでも、やると決めた以上やらなきゃならない--位の気概は見せて貰えるか?」
「……はい」
「まずは、俺が王牙とやる--あんたは凪を弓でも召喚獣でもいいから、足止めしてくれ」
「わかりました」
『そろそろ始めるぞ。構えろ!』
総副会長のアナウンスが流れ、凪と王牙、裕樹と怜奈が構えをとる。
『時間は無制限、ルールはタッグマッチに準ずる物とする! 始めろ!!』
備え付けのゴングが鳴り響き、まずは裕樹がロケットスタート。
それに少し遅れるように凪と王牙も駆け出した、そこから更に送れるように、怜奈が弓に矢をつがえ凪に照準を合わせる。
「--わかっているな?」
「--無論だ」
怜奈の矢が放たれたと同時に、王牙がその矢の軌道に向けて--。
凪が孫悟空を金剛武神如意に変化させ、裕樹に向けて駆け出した。
「なっ!?」
王牙がその矢を手甲ではじき、そのまま駆け出すかと思いきや、突如体を翻して裕樹に向けて駆け出す。
それと同時に凪が突如立ち止まり、凪に備えていた裕樹が王牙に切り替え、ラリアットを受け流す体制に--
ドスッ!
「ぐっ……!?」
「甘い」
凪の手の金剛武神如意が伸び、裕樹のわき腹にめり込んだ。
その隙をついて、王牙が裕樹の腕を掴み、担ぎ上げ肩車の体制に。
「朝霧さん!?」
怜奈が援護しようと薙刀を構え、駆け出した。
凪は見向きもせず、金剛武神如意を地面に突き立てる。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
王牙が咆哮し、身体を全力で回転させ、怜奈の射程に入るよりも早く裕樹を投げ飛ばした
裕樹が負けじと体を翻し、体勢を立て直し--
「--!?」
その直後、背後に凪が金剛武神如意の伸縮を利用し、自身の背後に回っている事に気付いた。
とっさに回し蹴りで応戦しようとするも、それより早く凪に両手両足を捕らえられ、空中でロメロスペシャルを極める
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
極めると同時のタイミングで王牙が突進し、その勢いのまま裕樹と凪の身体の間に腕を差し込み、エルボードロップの体制で裕樹を地面にたたきつけた。
「あっ……がっ……!!?」
凪が両手両足を極め、王牙のパワーとスピードと重量が合わさった攻撃は、華麗であり豪快。
その場のほぼ全員が、言葉を失っていた。
「……効いたぜ!」
強引に両手両足を振りほどき、王牙の背に蹴りをぶち込んで、裕樹は距離を取って怜奈と合流。
「大丈夫ですか!?」
「--ちゃんと見たか?」
「え……?」
「あいつらの呼吸、ちゃんと見たのか!?」
「……いえ、朝霧さんを助ける事で精いっぱいで」
「--なら次はしっかりと見とけ。欠陥だらけの急造タッグが失敗で落ち込むな」
「……はい」
「--朝霧の奴、身を挺してワシ等からタッグの呼吸を学ぼうと言う所か」
「……あの急造タッグには、この戦いで成長するしか未来はない。朝霧は理解しているようだが」
「戦いで情を交えはしないが、ワシたちとお嬢様を比較するのもどうかと思うがな」
「だが、そのお嬢様がそれをしっかり受け止めん限り、奴の犠牲も無駄になる--そして、それをいつまでも許す程、我等も甘くはない」
「ああっ……拳を交えるなら、敵として倒す」




