学園都市の体育祭 タッグバージョン(1)
「……こりゃ一体どういうこった?」
タキシード姿の裕樹が呼び出された先は、とある高級レストラン。
--の、限られた上流階級だけが使用できる、特別なVIPルーム。
「……ご無沙汰しております」
『……』
そこには呼びだしたクリスは当然の様に椅子に陣取っていて--
水鏡怜奈と陽炎詠の、対立する世界最大級の財閥令嬢が2人、対面するように座っている。
自身も入るのは初めてのVIPルームに、どうして通されたのかが今理解できた。
「も・ち・ろ・ん、学園都市がパニック間違いナッスィンな、シークレットなお話をする為だよん--だから態々、ここに呼び出したの」
「--この状況だけでも、十分パニック間違いなしだろ」
自身に後ろめたさを感じてるだろう怜奈と、気乗りしてなさそうな詠に目を向けながら、裕樹は平然とそう返す。
そこから、呼びだした理由を聞こうと--
「まずはお食事と行きましょう。ここはレストランなんだから」
「そうですね」
『……』(コク)
したところで、頼んでいたらしいコースの前菜が運ばれ、まずは食事を。
静かな時間が続き、メインの料理に手を付けようという所で--
「裕樹、今度の体育祭は怜奈とタッグを組んで出場しなさい」
「なっ!!?」
突然クリスがそう告げ、裕樹としては珍しく動揺した。
詠と怜奈は、既に伝えられている為か、先ほどからの雰囲気が少々増した程度。
「そりゃ一体--」
「怜奈はプログラム・シンをほぼ100%成功させられるから、条件は満たしてるでしょ?」
「そういう事聞いてんじゃない」
「陽炎財閥でも、裕香ちゃんの身柄を狙う一派が出始めたの」
生徒総会と陽炎財閥が、裕樹の主な依頼主候補である。
しかし裕樹は、詠自身からしか依頼を受けず、財閥自体はあまり信用はしていない
財閥にも裕樹を快く思わない、あるいは力としか見ない一派が存在しており、だから裕樹は正式な所属に踏み切っていない。
「そりゃ知ってるけど、それと水鏡のお嬢さんと組んで出る事に、一体どんな--」
「ズバリ、トップである陽炎詠と水鏡怜奈自身に、信頼関係を持たせた事をアピールするためだよん」
『--水鏡グループも陽炎財閥も商売敵と言う関係上、先走る一派を抑える事で手一杯。だから、陽炎財閥の要の戦力を一時貸し出して、トップの意向は和解であることを知らしめる』
「そう簡単にいくか?」
『信用できないならできないで良い。どうせコンビネーションとしての成績なんて期待してない』
「“詠お嬢さんからのご命令で、仕方なく”で良いからねい。最強戦力を一時的にとはいえ、差し出せる信用関係をアピールするのがポイントだよん」
簡単な説明に、裏事情をよくよく理解している裕樹は、確かにこのままで良いとは思えない--が。
だからと言って、その手段を実行した所で--
「……上手くいく以前に、学園都市全体に混乱齎すぞこれ。他の最強や生徒総会は絶対に反対するし、下手すれば理事会だって黙ってない」
「そこはあちし達にまっかせなさーい♪」
『--財閥には妾がきちんと説明しておく』
裕樹がどう言って良いかわからないと言う表情で、先ほどから黙っている怜奈の方に目を向け--
裕樹に不安そうな目を向けているのを見て、はあっとため息
「……スポーツや習い事でしか経験がない、箱入りお嬢様にはきついぞ」
「--覚悟は出来ております」
「--俺が守ってくれるなんて期待はするなよ」
「わかってます」
裕樹は怜奈の眼をじっと見据え--手を差し出した。
怜奈はその手をじっと見て……そっと、両手を添えた。
「片手で良い。握手、したことないの?」
「……そう言う物なのですか?」
--時は過ぎ、所変わって
「というけーいで、タッグ結成ーとなりましたー。めでたしめでたしー♪」
「じゃない!!」
生徒総会会議室にて。
事情を説明し終えたクリスに真っ先に向けられたのは、総会長の怒鳴り声。
胃に穴があきそうな(というかあいてる)表情で、頭痛がする頭を押さえながら椅子に背を預けるように座り込む。
陽炎詠、水鏡怜奈両名の署名入りの申請書があるとはいえ--
「正直、賛同はしかねるよ」
「ええ。この場合、トップがどう思っているかではなく、組織がどう捉えるかが重要ですから」
総会長が落ち着くのを見計らってから、総会計、執行部長はそろって反対の意を示した。
「俺も--反対だ。武闘派体育祭は、学園都市最大規模のイベントの1つなんだ。理事会、来賓も招かれるこのイベント、失敗する訳にはいかない」
「それは、総書記としての意見?」
「ああ」
個人としては、違う意見--と言うのをくみ取り、仕方ないと言う表情になった。
--その時。
「当人たちはどうしている?」
それまで黙っていた総副会長が、いきなりそう質問してきた。
「--他の最強の説得に行ってる」
「ならば今すぐ呼び出し、参加条件としてテストを課そう。それをクリアすれば、出場を許可する」
「大神! 何を勝手な……」
「今すぐタッグとしての信頼、機能が本当に成り立っているか--今回のタッグ制の趣旨に反するかどうか、我等5人全員を納得させられる事を証明してもらう」
「たった1人でもそっぽ向いたらダメって事? ……わかった。そう伝える」
クリスがその場から立ち去り、総副会長が徐にD-Phoneを取り出す。
周囲がほぼ独断で決めた事に、異を唱えようとして--
「--私だ。今すぐ訓練用のフィールドを整備した上で御影凪、鳴神王牙に戦闘準備をさせろ。理由はそちらに向かったうえで伝える」
テストの内容を悟り、異を唱える意志が途絶えた。
「大神、せめて相談位してから決めて貰いたいんだが--」
「物事は自身の無力さを実感させた方が話が早い。何より、既に公になってしまった以上、成果を出さねば否定も出来ん」
「それはそうだが……まあいい、審査は厳しくいくぞ」
「……」
宇宙は内心で複雑な思いを抱えつつ、白夜の手腕には素直に感心と感謝をしていた。
……ただ、それを表に出すことはなかったが。




