表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
345/402

学園都市の体育祭 タッグバージョン(1)

「……こりゃ一体どういうこった?」

 タキシード姿の裕樹が呼び出された先は、とある高級レストラン。

 --の、限られた上流階級だけが使用できる、特別なVIPルーム。

「……ご無沙汰しております」

『……』

 そこには呼びだしたクリスは当然の様に椅子に陣取っていて--

 水鏡怜奈と陽炎詠の、対立する世界最大級の財閥令嬢が2人、対面するように座っている。

 自身も入るのは初めてのVIPルームに、どうして通されたのかが今理解できた。

「も・ち・ろ・ん、学園都市がパニック間違いナッスィンな、シークレットなお話をする為だよん--だから態々、ここに呼び出したの」

「--この状況だけでも、十分パニック間違いなしだろ」

 自身に後ろめたさを感じてるだろう怜奈と、気乗りしてなさそうな詠に目を向けながら、裕樹は平然とそう返す。

 そこから、呼びだした理由を聞こうと--

「まずはお食事と行きましょう。ここはレストランなんだから」

「そうですね」

『……』(コク)

 したところで、頼んでいたらしいコースの前菜が運ばれ、まずは食事を。

 静かな時間が続き、メインの料理に手を付けようという所で--

「裕樹、今度の体育祭は怜奈とタッグを組んで出場しなさい」

「なっ!!?」

 突然クリスがそう告げ、裕樹としては珍しく動揺した。

 詠と怜奈は、既に伝えられている為か、先ほどからの雰囲気が少々増した程度。

「そりゃ一体--」

「怜奈はプログラム・シンをほぼ100%成功させられるから、条件は満たしてるでしょ?」

「そういう事聞いてんじゃない」

「陽炎財閥でも、裕香ちゃんの身柄を狙う一派が出始めたの」

 生徒総会と陽炎財閥が、裕樹の主な依頼主候補である。

 しかし裕樹は、詠自身からしか依頼を受けず、財閥自体はあまり信用はしていない

 財閥にも裕樹を快く思わない、あるいは力としか見ない一派が存在しており、だから裕樹は正式な所属に踏み切っていない。

「そりゃ知ってるけど、それと水鏡のお嬢さんと組んで出る事に、一体どんな--」

「ズバリ、トップである陽炎詠と水鏡怜奈自身に、信頼関係を持たせた事をアピールするためだよん」

『--水鏡グループも陽炎財閥も商売敵と言う関係上、先走る一派を抑える事で手一杯。だから、陽炎財閥の要の戦力を一時貸し出して、トップの意向は和解であることを知らしめる』

「そう簡単にいくか?」

『信用できないならできないで良い。どうせコンビネーションとしての成績なんて期待してない』

「“詠お嬢さんからのご命令で、仕方なく”で良いからねい。最強戦力を一時的にとはいえ、差し出せる信用関係をアピールするのがポイントだよん」

 簡単な説明に、裏事情をよくよく理解している裕樹は、確かにこのままで良いとは思えない--が。

 だからと言って、その手段を実行した所で--

「……上手くいく以前に、学園都市全体に混乱齎すぞこれ。他の最強や生徒総会は絶対に反対するし、下手すれば理事会だって黙ってない」

「そこはあちし達にまっかせなさーい♪」

『--財閥には妾がきちんと説明しておく』

 裕樹がどう言って良いかわからないと言う表情で、先ほどから黙っている怜奈の方に目を向け--

 裕樹に不安そうな目を向けているのを見て、はあっとため息

「……スポーツや習い事でしか経験がない、箱入りお嬢様にはきついぞ」

「--覚悟は出来ております」

「--俺が守ってくれるなんて期待はするなよ」

「わかってます」

 裕樹は怜奈の眼をじっと見据え--手を差し出した。

 怜奈はその手をじっと見て……そっと、両手を添えた。

「片手で良い。握手、したことないの?」

「……そう言う物なのですか?」



 --時は過ぎ、所変わって

「というけーいで、タッグ結成ーとなりましたー。めでたしめでたしー♪」

「じゃない!!」

 生徒総会会議室にて。

 事情を説明し終えたクリスに真っ先に向けられたのは、総会長の怒鳴り声。

 胃に穴があきそうな(というかあいてる)表情で、頭痛がする頭を押さえながら椅子に背を預けるように座り込む。

 陽炎詠、水鏡怜奈両名の署名入りの申請書があるとはいえ--

「正直、賛同はしかねるよ」

「ええ。この場合、トップがどう思っているかではなく、組織がどう捉えるかが重要ですから」

 総会長が落ち着くのを見計らってから、総会計、執行部長はそろって反対の意を示した。

「俺も--反対だ。武闘派体育祭は、学園都市最大規模のイベントの1つなんだ。理事会、来賓も招かれるこのイベント、失敗する訳にはいかない」 

「それは、総書記としての意見?」

「ああ」

 個人としては、違う意見--と言うのをくみ取り、仕方ないと言う表情になった。

 --その時。

「当人たちはどうしている?」

 それまで黙っていた総副会長が、いきなりそう質問してきた。

「--他の最強の説得に行ってる」

「ならば今すぐ呼び出し、参加条件としてテストを課そう。それをクリアすれば、出場を許可する」

「大神! 何を勝手な……」

「今すぐタッグとしての信頼、機能が本当に成り立っているか--今回のタッグ制の趣旨に反するかどうか、我等5人全員を納得させられる事を証明してもらう」

「たった1人でもそっぽ向いたらダメって事? ……わかった。そう伝える」

 クリスがその場から立ち去り、総副会長が徐にD-Phoneを取り出す。

 周囲がほぼ独断で決めた事に、異を唱えようとして--

「--私だ。今すぐ訓練用のフィールドを整備した上で御影凪、鳴神王牙に戦闘準備をさせろ。理由はそちらに向かったうえで伝える」

 テストの内容を悟り、異を唱える意志が途絶えた。

「大神、せめて相談位してから決めて貰いたいんだが--」

「物事は自身の無力さを実感させた方が話が早い。何より、既に公になってしまった以上、成果を出さねば否定も出来ん」

「それはそうだが……まあいい、審査は厳しくいくぞ」

「……」

 宇宙は内心で複雑な思いを抱えつつ、白夜の手腕には素直に感心と感謝をしていた。

 ……ただ、それを表に出すことはなかったが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ