朝霧裕樹の見合い騒動(9)
屋台通りを巻き込んでの襲撃等々を経て、本日はお見合い当日。
理事会直々の手配で、学園都市の豪華客船の一室にて執り行われる。
「どっかおかしくないかな?」
「大丈夫だ」
本日裕樹は見合いと言う事もあり、パーティーで着るような高級スーツを。
裕樹の格好をチェックしている龍星もスーツを纏っているが、こちらは警護の雰囲気を醸し出している。
そんな中で--
「失礼--朝霧、準備は出来たか?」
「……今更だがすごい話だな。こんな豪華な会場を手配したうえに、最強を2人も配備するだなんて」
「理事会通達である以上、生徒会は全力でこの見合いを成功させる責任がある。ワシと凪を配備するのは当然の処置だ」
「だな--立ち合いは総会メンバー3人、そして四神の家系まで引っ張るなんて、破格もいいとこだ」
「それじゃ、後は頼むぞ王牙。裕樹も、しっかりしろよ」
王牙が入室し、付き添いをバトンタッチしたうえで龍星はその部屋を出ていき--
カチャッ……!
「ん?」
ふと、ある客室に入っていく男--ボロボロの白衣を纏い、所々ケガをしている、見覚えのある顔を見かけた。
その顔を見て、龍星が見て分かる程ぎょっと眼を見開いて、その部屋のドアを乱暴に開いた。
「おい!」
「……見つかったか」
「とう……!!?」
名前を叫ぼうとして、咄嗟に口をふさいだ。
龍星はあわてて周囲を見回し、戸を閉める。
「……なんで二宮一と二葉に捕まってる筈の、お前がここに?」
「--そんなの逃げ出してきたからですよ」
ふと見てみれば、如何にも泣き疲れたという様相の、ベッドで寝息を立てている少女の姿を見つけた。
「--その子が捕まったからか?」
「まあそんな所です--それより、榊さんがそんな格好で居る場所と言う事は……」
「ああっ、ここが裕樹の見合いの場だ--知らずに来たのか?」
「ええ。逃げ出したのついさっきで、取り返したユキナを休ませる場所としてここに潜り込んだんです--所で、見合いは何時からですか?」
「それなら、もうすぐ始まるんじゃないか?」
「--なら急がなきゃならないか。ちょっと失礼」
そう言って太助は、備え付けのトイレと風呂が共同になってる洗面所に駆け込み、ドアを閉めて--
「ふぅっ、さっぱりした」
「いきなりシャワー浴びだして何かと……誰だ!!?」
「え? 誰って、東城太助ですけど--どこかおかしいですか?」
「おかしいと言うより、変わり過ぎじゃないか!?」
先ほどまでの、ぼさぼさ髪に汚れと無精ひげが目出つ顔、そして普段から全身より醸し出しているさえない印象。
それらが消し飛ばされ、清潔感ある整った髪に落ち着いた雰囲気のある表情、そして品性と怪しい色気の様な雰囲気を醸し出す姿となっている。
「そんな、変な事でもないでしょ? ただシャワー浴びて身体洗って、はさみとカミソリで髪と髭を整えた位で--」
「--それでそこまで変わるのか!?」
「そこまで変わりましたか?」
「……紳士という名で敗北したと思える位にはな」
余談だが筋肉紳士としてではなく、紳士という名称において。
「その辺りは後でレクチャーしてあげましょう。それより--」
「それより?」
「--服、調達してもらえませんか? ボロボロの白衣じゃ、目立って仕方ないでしょ?」
「……わかった--その前に聞きたいんだが、お前二宮家のお家騒動には」
「それ自体に興味ありませんよ--ただ、二宮一と二宮二葉の繋がりは無視できませんから」
「……お前はお前で目的が出来た、か? よし、一先ず休戦でどうだ?」
「良いですよ」
そこで部屋から出ていき、龍星は一路ーー。
「あっ、りゅー兄ちゃん。準備は終わったの?」
「ああっ、今王牙にバトンタッチし終わった所だ」
裕香をはじめとして、裕樹が頼んで招待した面々が滞在してる大部屋に来訪。
「--思ったより、大事になったね」
「まさか、こんな大きな会場に、こんな厳重な警備が敷かれるなんて
「それでも、やっぱり妨害してくるのかな?」
つぐみ、みなも、ひばりがそれぞれ不安そうな表情で
「--ユウのお見合いだっていうから来てみれば、こんなとんでもない事になってるなんて」
「本当、ですね」
宇佐美とアスカも、あまり落ち着いているとは言えない。
『……』
その中で、周囲にSPを配備させ、ティータイムを楽しんでいる陽炎財閥令嬢、陽炎詠。
--周囲を見回し、敵意露にピリピリしているが。
「さて--」
「あれ? もう良いの?」
「ああっ。会場は総会メンバーのもとで、警護は凪と王牙、四神たちがやる事になってる」
「--当事者の裕樹しゃんを除けば、最強レベルが2人も」
「だから、俺の出る幕はない--まあ裕香ちゃんの警護を任される事も、総会から信用されてる証だ」
『--あなた、陽炎財閥に来ない? 総書記秘書は気に入らないけど、働き次第でそれなりの優遇は』
「遠慮しておく。組織付きは性に合わなくて--と、そうだ。えーっと、ここ確かタキシードのレンタル、販売やってたな?」
『?』
--所変わって。
『--はい、着付け終了』
所変わって、三月側の控室。
芹香に着付けを手伝ってもらいながら、三月はこの見合いの為に父から送られた着物を纏っている。
生徒会である程度の立場を持てば、公の場での発表に社交と言った技能も必要となる為、礼儀作法に着付けと言った共用も基礎として叩き込まれている。
特に総書記秘書となれば、相応の振る舞いも求められる為、三月の着物の着付けは綺麗の一言。
「……なんだか、緊張して、きました」
『大丈夫、落ち着いて』
「はい」
コンコンっ!
『どうぞ』
「お迎えに上がりました。こちらへどうぞ」
『キーッ!!』
「はい」
『それで、席の方は?』
「立ち合いは、一条宇宙総書記と大神白夜総副会長、そして井上総会長が行います。警備は私と鳴神、四神の家系の者達が安全を約束しましょう」




