朝霧裕樹の見合い騒動(8)
「見失ったあ!!? この役立たず共が!!」
「まあまあ落ち着いて--怒鳴っても一銭にもなりませんよ」
「落ち着いていられるか!! くっそ、あのくそおやじめ。長女のあたしを差し置いて三月なんかを!!」
「--だから落ち着いて、顔にひびが入ってます」
「!? はっ、早く言いなさいよ!!」
自室内だと言うのに、怒鳴り声でひびの入った顔を慌てて化粧を施す、乱暴な口調の女性。
変わって落ち着いた雰囲気ではあるが、手にはギャンブル情報の表示されたD-Phone、目の前には競馬新聞を広げている女性。
裕樹が見合いする三月の姉、長女の一と次女の二葉--2人して、見合いの妨害工作の相談を交わしつつ--
「--ああもうっ、また負けちゃった。次のこのレースは……」
「相も変わらずカモられてるのかよ」
「ガバガバの厚化粧に言われたくない」
「んだと!!?」
修羅場開幕--もとい、閑話休題
「……って、こんな事してる場合じゃない。一刻も早く三月を引きずり降ろさないと」
「--でも相手が朝霧裕樹なのが……巨大召喚獣の撃破、100人切り、ロボット警備の突破をたった1人で成し遂げるバケモノを」
「よりにもよって--なんでいつもいつも、あんな妾腹の三月ばっかり!!」
実は二宮家三姉妹は、長女次女が前妻の、三女が腹違いの姉妹である。
しかも前妻とはお世辞にも関係良好と言えなかったのに対し、後妻とは今の三月が育つ程度には円満な物に。
--長女次女共に、それが気に入らなかった為、学園都市では三月を妾腹と嫌悪し、様々な嫌がらせを行うようになっていった。
「--それでだけど、面白い物を手に入れたのよ」
「面白い物?」
「ええ。これをうまく使えば、何とかなるんじゃないかって--どうぞ」
会話に続けるようにD-Phoneを取り出し、事前にかけておいた相手に声を掛ける。
ドアが開かれ、そこから--
「ようこーー」
「ユキナはどこだい?」
挨拶しようとする言葉を無視し、来訪者--東城太助は、自身の目的を告げた。
「……挨拶位はさせて貰いたいのですが」
「挨拶が必要な間柄なんて望んでないだろ? --こちらの調査で把握ができなかった以上、僕の秘密も知ってるようだね」
「ええ--これを」
差し出されたのは1枚の写真。
そこには目隠し、猿轡をされ、椅子に縛られているユキナの姿がうつされている。
背景は白い布で隠されていて、周囲の状況は確認が出来ない上に、太助に触らせようともしなかった。
「電子機器の監禁場所では、すぐバレる上に経費の無駄ですからね」
「随分周到だね--まあいいや。けど、態々朝霧君の見合いをぶち壊す事だけの為に」
「重要な事なの。姉としてね」
「--バカが抜けてるよ。妹の幸福を喜べないなら、バカ姉と呼ばれるべき」
ガンっ!!
「……!!」
「あんた自分の立場わかってるの!!?」
「負け犬の遠吠え位聞き逃せよ。仮にも一名家の長になろうっていうのが」
「--良いわね、あんた気に入ったわ。これが終わったらしっかりその口調教してあげる」
グラスを顔面に思い切り投げつけられ、額が腫れ上がった太助は飄々とした態度を崩そうともしない。
それを見て怒声を挙げていた長女の一は、楽しみを見つけたと言わんばかりににんまりと笑顔を浮かべ始める。
「--見た目はあばずれのおばさんなのに、態度と趣味だけは女王様なんだね」
「おば……!!?」
「それ位にして貰えますか? 東城博士。早速ですがこちらの要求として、戦力となる技術提供をお願いします」
「何がお願いだよ--じゃあ、これでどうかな?」
そう言って太助は、データを転送した。
そこには……
「これは?」
「電子ツールと電子召喚獣の改造データ」
「それを組み込めば大幅なパワーアップは保障するよ」
「パワーアップは--ですか? 何かリスクがありそうな言い方ですね」
「(気付いたか)--ただし時間制限付きだ。30分使えば、元のデータが壊れる」
「はあっ? 何よそれ、欠陥品じゃない」
「君の股と肌程じゃないよ。化粧使い過ぎと●●●しすぎで、医者の僕の眼にはボロボロなのに」
ビシッ!!
「くっ……!?」
「……良いわあんた。今までで一番調教しがいのある、良いブタねえ」
「だから、ちょっと黙ってて姉さん。完全に利用されてるから」
「なっ!!?」
「--ギャンブル弱いくせに、駆け引き相手としてはやりにくいな」
太助の頬に傷を刻んだ鞭を手に怒り猛っている一を無視し、二葉の方が駆け引き慣れしている事に太助は内心歯噛みする。
勿論太助は、本気で見方をしてやるつもりは一切なく、ユキナを取り戻す算段を付ける事と、そこに至るまでに必要最低限の提供にとどめられるか。
それを目的に据え、2人と相対している。
「それで、椎名九十九と鮫島剛も出してもらいたいんですが」
「あの2人はそちらから要望が出る少し前から別行動に出してて、2日経たないと連絡も出来ないよ」
--余談だが、これは完全なウソである。
「では、こちらで研究室を用意したので、そちらで要望にそっての物を作っていただきます」
「……ユキナの安全の保障は? そのオバサンが守るとはとても思えないんだけど」
「だからオバサンと呼ぶな!!」
「ご心配なく、居場所は私しか知りません。そちらが“私に”従順であるなら、身の安全は保障しますよ」
「--わかりました(よくも抜け抜けと。姉に負けず劣らず、他人をいたぶるのが好きなサディストのくせに)」
太助が案内されるままに、用意した研究室へ到着。
中に入ると鍵がかかり、室内をしっかりと死角がない配置で監視カメラが設置されている
「……風呂にトイレまでは流石にやり過ぎじゃないかな?」
『内部からの干渉は遮断してあるとはいえ、どんな手段で何をやらかすかがわからない以上、やりすぎと言う事はありません』
「はいはい--じゃあ早速風呂にでも」
『今はいらないでください!!』
通信が切れると--ジーっと音を慣らし、太助を監視するカメラ。
「--(予想外の事態と環境は気に入らないが、精々利用させて貰うとするかな。朝霧君、結果としてだけど前祝いをあげるよ。榊さんは--まあ大怪我しないよう気を付けて、ということで)」
--所変わって。
「--悪い(?)知らせだ」
『--なんで疑問形なの?』
「一、二葉の2人が、東城を捕らえたらしい」
「なっ!?」
『うっ、嘘っ!?』
最初こそ、龍星も芹香も驚きを隠せなかったが--
「……何か企んでんのか?」
『何かの目的の為に、ワザと捕まったのかな?』
--ほんの一瞬だけで、あまり危機感は感じていなかった。




