朝霧裕樹の見合い騒動(4)
自然公園に響くバイクの排気音。
その中で--
「--やらないのか?」
「裕香達の安全が確保できるまではダメだ--それに極力、裕香の前でこういう事したくない」
「わかった」
裕樹が裕香と三月を、龍星が芹香をそれぞれ担ぎ、走っていた。
荷物を手早く片付け、裕樹の先導で自然公園のバイクが走り難いルートを選びながら
『大丈夫なんですか?』
「大丈夫、ここ裕香よりもガキの頃からの遊び場で、今でも走り込みしてんだ。ファルトレクって奴な」
「と言う事は、この公園の地形と安全な経路は熟知しているって事か」
「勿論。ダンナ、ヤマトを出せ。芹香、D-Phoneの電源を切って、電池抜いてくれ--こっちだ」
「いたか!?」
「くそっ、見失った!!」
「探せ!! 幾ら朝霧裕樹と言っても、ガキ2人女1人連れて包囲を破る事なんて無理だ!!」
「一緒に居た大男は誰なんだ?」
「わからん。くそっ、あいつら何やってんだ!!?」
「--舐めてくれるねえ。それしかないならやってやるってだけで、必要もなくやるかそんな事」
「……出来る自信あるのか」
「あるだけだ。必要ないなら、やる気まではない--ヤマト、何か変な電波はあるか」
『ワンッ!』(フルフルッ)
「ないか。なら一先ずは安心だ--大丈夫?」
「……」(ガタガタ)
襲撃者の怒声を聞き流しながら、裕樹たちは一息ついていた。
場所は、学園都市の地下ケーブルなどのライフラインを通し、整備するための地下通路。
「--地下通路なんて初めて来た。しかし、随分とケーブルが多いんだな」
「8割がDIEシステムサーバー稼働ケーブルだとよ。DIEシステムのサーバー稼働は、結構電力食うらしいから」
「こんなにたくさんのケーブルを使ってるんだね。DIEシステムって
そんなに広くない通路の横を、通路の高さをほぼ埋め尽くす位に通されたケーブル。
それを繋ぎ目のない、アクリル板の様な物で遮断する様隔ててあり、その隔ての先を龍星、裕香は物珍しそうな表情で見ていた。
『……朝霧さん、どうしてこの場所をご存じなんですか?』
その中で、芹香だけは違った。
総書記秘書として、学園都市のあちこちを監査して回った経験はあれど、総副会長が管轄となるこの場所だけは存在を知っているだけで、立ち入った事がなかった。
地下ケーブルに何かあれば、都市機能どころかDIEシステムも稼働しなくなってしまうこの場所は重要度がとても高く、生徒会でも限総会長か総副会長の許可がなければ立ち入る事は絶対に出来ない。
「以前大神から、この地下通路の調査依頼を頼まれたんだ。今まで受けた中で、屈指のきつさだったな」
『--朝霧さんの口からきついだなんて、内容を聞くのが怖い』
うんうん、と一人を除いた全員が頷いた。
『三月ちゃん? 三月ちゃん!』
「……ひぇっ!!? ……あっ、芹香先輩」
『大丈夫?』
「はい……大丈夫でひゃっ!!?」
「あっ、ちょっ、暴れんなよ」
『……朝霧さん、状況的に女の子を抱きかかえて運ぶのは良いですけど、どうしていつもお姫様抱っこ何ですか?』
「この方が抱き上げやすいし、喜ばれる事の方が多かったから、こうして運ぶもんなのかって」
「『ない(ありません)』」
ちなみに裕樹は、三月をお姫様抱っこで、裕香をおんぶで運んでいた。
それを突然の事で気付いてなかったのか、ほぼ恐怖でのパニック状態から抜けた途端、顔を真っ赤にして違う意味でパニックになっていた
『--さっきとは違う意味だけど、大丈夫三月ちゃん?』
「はい……とてもたくましくて、安心できたと言いますか」
『……気持ちはわかるけど、今凄い事言ってるからね?』
その後、裕樹に降ろしてもらった三月は、多少混乱していた。
「さて、これからについてだけど--」
『まず、生徒会議事堂ビルに向かいませんか? 襲撃されたことを、総書記に報告しないと』
「それはまだだ--なあ芹香、最近D-Phoneをメンテした記憶は?」
『はい。先週、定期メンテナンスを頼みました。勿論、総会のメンテナンス担当の方に』
「よし、決まりだ。まず光一と合流して、芹香のD-Phoneを調べよう--ダンナ、ヤマトだして。光一の寮までのルートを先導させてくれ」
芹香の話を聞いて、裕樹は龍星にヤマトを出すよう指示。
それから、目的地を決め、いざ行動に--
『待ってください。まさか、改造を疑ってるんですか?』
「総書記秘書のD-Phoneには、最高級のセキュリティが施されてるからハッキングは難しい。だけど、メンテなら……」
『……それで、私のD-Phoneを電池まで抜く様に』
「ヤマトがいるから感知は出来ても、俺を含めてD-Phoneを内外共にいじくるなんて出来ない。だから優先すべきは、芹香のD-Phoneを調べる事。まあ生徒会には--」
ちらりと、芹香の左肩にのっかっている--
『キーッ!!』
「孫悟空が居んだから、間違いなく伝わってるだろ--さ、そろそろ行こう。ヤマト、頼むぞ」
『ワンっ!』
『--その洞察力と判断力で、どうしてセクハラの基準がわからない上に、その自覚がないのかが不思議です』
「何か言った?」
『……いえ、何も』
「……あの」
「え? あっ、確か朝霧さんの……」
「妹の裕香です。えっと、二宮三月さん……です、よね?」
「うん……裕香ちゃんって呼ぶね。お兄さんには以前お世話になって、今もその……やっぱり、複雑かな?」
「--私、お姉ちゃんになる人は好きで居たい。それだけです」
「……それで良いよ。私、朝霧さんにも芹香先輩にも、裕香ちゃんにも、嫌って欲しくないから」
『ねえりゅーくん、お姫様抱っこしてくれない?』
「ん? なんだ、さっきの裕樹と三月ちゃんを見て羨ましくなったか?」
『うん……私をお姫様抱っこしていいのは、りゅーくんだけだよ』
「撮影ならしてやるぞ」(他意なし)
「せんでいい」
『朝霧さんじゃあるまいし、見世物じゃないんですよ』
「違うのか?」(他意なし)




