朝霧裕樹の見合い騒動(2)
「芹香なんだって?」
「見合いの日まで当人と一緒に居るそうだ。立場上の責任と家庭の事情で遠ざけられていた分、何とかする気満々だった」
「傍に居てやるだけでも、何とか何だけどね--調べた限りの家庭環境がこれじゃ、性格ねじ曲がらなかったの芹香のおかげっぽいし」
「--光一。それ今度会ったとき、本人に言ってやってくれ」
芹香との通話が終わった後。
光一の自室にて、集めた情報の整理を行っている。
「--今回の裕樹と、二宮家の三女、三月ちゃんだったか」
「生徒会議事堂ビルではやめろよその呼び方」
「これでも裕樹程じゃないが、生徒会から仕事を受け持つ身だぞ。それ位は弁えている」
年齢関係なく、生徒会役員は一般生徒より立場も待遇も上。
なので、龍星も生徒会議事堂ビルでは年齢問わず、敬語を心掛けている。
「で、情報を整理しよう。俺の方の調査じゃ、二宮家はこの見合いを機に三月ちゃんを二宮家当主として立てようとしている」
「そりゃ、間違いないだろうな。俺の方でも、当主を始めとする血筋の間でも、三女を推す声が多い事はつかんでる」
「それを気に入らない長女の一、次女の二葉がこの見合いをぶち壊そうと何かを企んでいる……位しかつかめなかった」
「勿論それだけじゃなくて、二宮家の血筋、縁者もこの見合いを利用、あるいはぶち壊そうと陰謀が交差しまくってる--見合いの賛否、跡継ぎの賛否、更に各々にも狙いが異なってると」
「見合いと後継者それぞれの賛否の中にまで派閥があるとは」
「日本でも有数の名家だから、その動きには当然利益が生まれるからだろ。ユウとの見合い話だって、婿として迎えて最強の血と陽炎財閥との縁を手に入れるか、とっ捕まえて水鏡グループに突き出すかの旨味がある--とまあここまでにして、これからどうするか話そう」
「そうだな--話していて胸糞悪くなった」
と、話題をいったん切って、本題に入る。
「まずは、成功失敗問わず見合いが円滑に進む事--これが俺達の目的で良いな?」
「ああっ、芹共々異論はない」
「で、今の俺達はユウの友人ってだけで、二宮の内情に介入はできない」
「その辺がややこしいな。下手なことをすれば、宇宙と芹を始めとした生徒会どころか理事会にまで迷惑がかかる」
「だからまずは、三女を当主に推す派閥と接触しようと思ってる--多少腹に一物抱えてる程度は我慢して貰うが、良いか?」
「……その辺は光一に任せる」
情報網や交渉といった智謀の類は、光一の方が長けている。
その為龍星は、その辺りは何も言わなかった。
「で、ダンナに頼みがあるんだけど、その間に姉2人の友好関係調べてくれないかな? 勿論密かに、いざこざは抜きで」
「--友好関係を?」
「まずは今、介入するための土台作りが優先で、次に万一に備えてだよ。その友好関係に荒川公人が絡んでたとしたら」
「……名前が出ただけで納得できた。わかった光一、そっちは任せろ」
「頼むぞダンナ、本当に--何かあったら、連絡頼む」
「ああっ、早速……」
「あっ、その前に--」
いざ行動に移そうとする龍星を制止し、光一が冷蔵庫を開けて……
「おやつの時間だけど、くってく?」
ズルッ!!
「--いざ行動って時に気が抜ける事言うな!」
「悪い悪い。でもそう気が張ってたら、隠密調査みたいな事はできねーぜ?」
「……一理はあるな。じゃあ食っていくか」
「今日はチョコと生クリームのドーナツ。そうだ、芹香と二宮の三女にも持ってく? どうせ顔見せに行くんだろ」
「そうだな」
「飲み物何がいい? コーヒーと紅茶、ジュースもあるけど」
「……部屋が散らかってる時点で台無しだが、おやつの時間というよりティータイムじゃないかこれ」
--一方その頃。
「--へーっ、お見合いってホテルとか料亭の一室のイメージあるけど、海の上でのお見合いは聞いたことないな」
『理事会経由の見合い話で、ユウだからこその待遇なんだ』
「そりゃわかってるけど……姉2人はどうなんだ? とても黙ってるとは思えないんだが」
『……あまりこう言いたくはないが、裏で破談にしようとあれこれ手を回しているらしい。それに二宮の血筋も、便乗あるいは反発するかで意見が分かれていて』
「--宇宙、見合い前に裕香共々顔合わせをしたいんだが、頼めるかな? これじゃ気が気でならんだろうから」
『それなら芹香に頼んだ方が早い。しばらく傍にいるよう言いつけておいたーーそれと』
「ん?」
『芹香が機嫌悪かったんだが、また何か言ったか?』
「んー? 相変わらずスカートのウエスト並みに、言う事きっついなーって」
『そう言う事言うんじゃない』




