学園都市のDIE事件ファイル(4)
光一とクリスに見つかり、2人に電子ツールの銃を突きつけられ、電子召喚獣が唸り声を挙げながら跳びかかろうと構えている。
にもかかわらず、あっけらかんとした態度で太助は手を休める事無く、端末を取り出し接続していく。
「少しは動じろよ!」
「別に、電子ツールや電子召喚獣の攻撃なんて、所詮はスタンガンの延長線上。ケガする事なんてないんだから、どうという事はないよ」
「デスクワーク派なアンタのセリフじゃねえぞそれ……まあ良い。一体何を」
「ちょっと待ってもらえればわかるよ」
そう言って太助は、男にゴーグルの様な機械を取りつけ、タブレットを操作し始める。
明らかに話をする態度じゃない太助に、光一は機嫌を損ねるがそれをクリスが制し、前に出る。
「久しぶりね、太助」
「久しぶりだね、ティナ。元気そうで何よりだよ」
「……とりあえず、色々と聞きたい事があるのだけど良い? 今まで一体どこに居たのかとか、あんな危険な技術を手に入れて、手配犯になってまで一体何がしたいのか、とか」
「――その危険な技術を手に入れたからだよ」
だから、朔夜会が決起した程度でガタガタになってる今の生徒会を、信用できない。
そう言った太助の眼に、光一もクリスもぞくっと背に悪寒を感じた。
「――随分と冷たい眼をするようになったわね」
「僕だって君が行方不明になってから、色々あったんだ――今の君みたいに失った物もあれば、手に入れた物だってある」
「そのさえない風貌に全然似合ってない眼も、その手に入れた物とでも言うの?」
「……さえないは余計だよ。まあどうでもいいけど――っと」
タブレットの画面に変化があったのか、表情を変えて太助が操作し始める。
「――やっぱりね」
「何かわかったの?」
「確かに、彼が通り魔事件を起こしたのは事実ではあるけど、無実だって事が……っと」
「ぶっ! ぐぐばあがばが!!?」
捜査している手が、まるでキーボードのエンターキーを押す様な動作を取り、太助は手を止める。
それと同時に、取り押さえられている男が苦しそうな声を挙げ、人形の拘束の中でのたうちまわり始めた。
「何したの?」
「異物を取り除いてるだけだよ」
「――やっぱりDIEシステムの違反使用が絡んでたのか。ってことは、コイツは洗脳か何かをされてたとか?」
「いや、見た限りじゃまだまだ完成度が低すぎるから、精々元々あった感情を増幅するのが関の山だよ」
「となると、酷いフラれ方をした所を誰かに拉致されて、利用されたとかそんな所か?」
「もしくは……はまあ良いか。その発動だって、補助がなきゃ無理みたいだからね」
人形に取り押さえられながらものたうちまわるも、いきなりピタッと止まったと思いきや、顔を青ざめさせ吐き気を表現するように頬を膨らませる。
口を開いた途端に、その口から吐き出されたのは……。
「何、これ?」
「カマドウマ。バッタ目カマドウマ科、別名便所コオロギとも呼ばれている不完全変態に属する昆虫で――」
「たっすん、ボケに博識さはいらないよん」
「いや、君もいきなりキャラ変えないでよ――でも昆虫型の電子召喚獣なんて、初めてだな。アキのタロスとは、別系統の突然変異かな?」
「このでかさだと気持ち悪いって言うより、怖いななんか」
電子召喚獣召喚特有の電磁波とフィールドが形成され、その中で形成されたのは人の身長の2倍ほどある昆虫――カマドウマだった。
にもかかわらず、3人は冷静にそのカマドウマを見上げ、会話を交わしている。
「で、東城センセイはこいつをどうするおつもりで?」
「勿論捕まえて、この事件の証拠以外で使えない様にプロテクトを掛けるんだよ。こいつは僕から見れば粗悪品でしかないけど、明らかにバカな使い方しかされない技術その物なんだから」
「だったら、共闘と言う事で良いのかねい? あちしも今回はたっすんを諦めてあげるから、それで手をうって欲しいよん」
「交渉成立だね――おいでクレナイ、ソウガ」
太助は頷き、自身のタブレットに呼び掛け――自身が直接特別なチューンを施した電子召喚獣四凶、窮奇のクレナイ、渾沌のソウガを呼び出す。




