バレンタインパニック(プロローグ)
バレンタインデーが近づき、学園都市は色めきだっていた
女子はチョコレートの構想を練り、男子は来るべきその日を楽しみにし--
イベントを都市規模で盛り上げる学園都市は、盛大に盛り上がっていた
「……アンチバレンタイン同盟だあ?」
--そんな中、総書記執務室で呼び出された裕樹が、素っ頓狂な声を上げた。
総書記の名を使っての呼び出しだった為か、よほどの案件かと身構えていた矢先
宇宙も、傍に控えていた芹香も、予想は出来ていたのか特に何も言わない。
『まずこれを聞いてください』
『学園都市生徒会に告ぐ。我等は学生であり、風紀と節制を乱す要素などあってはならない』
『よって、不純異性交遊を促進する邪なる行事、バレンタインデーを推奨する事を一切認めない!』
『直ちに学園都市中から生徒会の名をもって都市中のチョコレートを廃棄し』
『バレンタイン仕様のイルミネートなどの撤廃を行え!』
『これが破られた場合、然るべき報復を覚悟してもらう』
「……なんだ、いつも生徒会に届くスパム系の抗議声明と同じじゃねーの」
『……少しは真面目に聞いてください』
「芹香ももう少し落ち着けって。精神年齢じゃお姉さん通り越しておばさ……」
『怒りますよ』
「はいそこまで! --ユウ、急を要する時に悪ふざけ(?)はよせ。芹香もこれじゃ話が進まないから、早く本題に入ろう」
『--そうですね』
正月からクリスマスまで、あらゆる行事を都市を挙げて生徒が一丸となり、盛大に盛り上がる事が学園都市の矜持である。
その為、いかなる理由があろうと例外を作ってはならない--これは、学園都市の暗黙の了解ともなっている。
『今朝がた、初等部を含めた生徒会執行部員数名が誰かに襲われたんです』
「初等部含めて?」
裕樹が表情を真剣な物に変えた。
ただ、感情露な様子ではなく
「……それが、そいつらの仕業だって? 声明があったのはいつ?」
『昨日です。ただ、証拠がなければ新しい声明が届いた訳でもないので、まだ確定してはいません。ですが関係性があった場合を踏まえて、民間に被害が出る前に早期解決をと……」
「昨日……わかった、引き受ける。裕香もバレンタインチョコ作り張り切ってたんだから、潰されても困る」
『ホント、朝霧さんってお兄さんとしてだけは、合格ですね。裕香ちゃんも10歳ですからね、好きな男の子がいても……』
「全部友チョコだってさ。裕香の友達から聞いたけど、本命欲しがってるの結構いるのに気付いてないって」
『……やっぱり兄妹なんですね。血の繋がりを感じます』
え、なんでそこで? --という表情の裕樹に、芹香ははあっとため息をついた。
「ユウ、わかってると思うが……」
「出来うる限り、内密に穏便かつ平和的にだろ? ーー仰せのままに、一条宇宙総書記」
裕樹が部屋を出ていくと、宇宙が重い息を吐いた上で、応接用ソファーに深く座る。
『けど、何故朝霧さんを?』
「--これが例の声明の報復だとしたら、次の声明が来ない事と報復が早すぎる事が疑問に残る」
『総書記は、誰かがこの声明を利用しているんじゃないか、と?』
「一部の暴走とも考えられるから、これはあくまで俺の推測ーー生徒会への反発に初等部を狙った事実が出来てしまった以上、それを踏まえる事も難しくなった」
『だから、朝霧さんしかいない、ですか? --そう、ですね。りゅーくんでも、あれだけのやり取りでそれを踏まえる事は、難しいかもしれません』
「……さて、保安部への要請は?」
『既に、連絡してあります。名目上はイベント荒らしの警戒ということで、捜査は総会より朝霧裕樹を担当させると。勿論、ログは消去済みです』
「ありがとう」




