新年会のサプライズ(1)
生徒会議事堂ビルとて、そう広くはない。
なので、決して少なくはない人数を納められるフロアなどある訳がなく、ダンスホールで抽選会。
『以上をもって、抽選会を終了いたします。当選された方は、生徒会SP訓練場にて行われる、朝霧裕樹と御影凪のエキシビジョンマッチの直接観戦の為に移動してください』
「うっそおっ!!?」
「ホントに、凪様と裕樹様とが!?」
「夢のカード実現!? って事は……やったあ! あたし凪様の戦いを直接見られるんだ!」
「朝霧さんの雄姿が見られるなんて、感激!」
当選した、主に女生徒からの歓声が会場に響き渡った。
主に凪のファン、あるいは裕樹のファンだと思われる、決して少なくはない人数の女子生徒から。
「すごい人気だね」
『私も凪さんと朝霧さんとのデートの仲介、頼まれたりするからね』
「へえっ、そんなに……って、あの」
『……わかってるよ、つぐみちゃん。でも朝霧さんのデリカシーのなさ、皆知ってる事だから」
「あっ、理解してやってるんだ?」
『うん……窮地にお姫様抱っこつきで助けて貰った人、生徒会にも結構いるみたいで』
「あっ、あははっ……」
そんな様子に、つぐみと芹香は苦笑付きで会話を交わしていた。
ちなみに裕香と宇佐美を除くメンバーは、芹香名義で生徒会特別観客席への招待が決まっている為、抽選には参加しておらず後ろの方でのんびり傍観姿勢だった
「おおっ、ここに居たか」
「あれ、王牙さん」
そんな面々に声を掛けたのは、生徒会SP護送警備隊長にして学園都市武闘派最強の一角を担う男、鳴神王牙。
2m越えの巨漢だけあって、この様な人だかりの中にあっても存在感が薄れてはいない。
『どうしたんですか? 確か鳴神さんは、生徒総会の警護に……』
「その総会より、一条宇佐美、朝霧裕香、瀬川芹香の三名の身の安全を確保せよとの命を受けて来た。今回総会は、大神総副会長を除いて直接観戦はしないそうだ」
生徒会総副会長、大神白夜
完全実力主義のカリスマであると同時に、武においても最強と肩を並べられる実力を持つ。
故に、他なら徹底した護衛が義務付けられている総会において、単独行動が許されている。
『総副会長以外はって……まさか、総会長がまた胃潰瘍を?』
「……そのまさかだ。ああっ、見舞いはこのサプライズマッチが終わるまでやめてやってくれ。今回のイベント、一番骨を折ったのあいつだ」
『なら、成功を見届けるまでは、ですか……わかりました』
「では参ろう」
裕樹とは違う最強の護衛付きで、一行は訓練所へ。
『なお抽選にあぶれた方は、こちらの巨大スクリーンでの観戦となりますので、空席を詰めた上でそのままお待ちください』
「……ちょっと、申し訳なくないか」
『大丈夫、総書記付秘書の私の権限だから』
生徒会SP訓練所。
SPとして一般的な業務、生徒会役員の身辺を警護する身辺警護隊
そして通称“熱血機動隊”と呼ばれる、視察や会談などの移動、あるいは生徒会のパレード等でパレード内から警備を行う護送警備隊。
必要技能が違う為、訓練はそれぞれの部隊で別れてはいるが、それでも個人のスキル向上のために合同での組手などを行う。
その組手は、プロレス系の技を得意とする王牙の意向で、プロレスリングで行われる。
「……と言われてるが、実際は凪がプロレス技にも通じる為に、あえてアウェーにしたというのもある」
「そうなんですか? 王牙さんの趣味とスタイルなのは知ってましたが、そこは知りませんでした」
「知っての通り、凪は技のスペシャリスト。それこそ古今東西の格闘技に通じ、更には1つ1つの完成度も高い」
「更に凪はベンチプレス110kgで、スピードも最速の裕樹の次に早いんだったな……基礎能力だけでも、ずば抜けてるなホントに」
「そして王牙さんはベンチプレス200kg超で、スピードもスプリンター級だっけな」
「その通り。総合力において、ワシに勝つことは不可能とも言われている--それに甘えず、日々の鍛錬は欠かさんがな」
と、王牙、龍星、鷹久、綾香の武闘派面々で楽しく話し合ってる傍らでーー
『抽選会を開いても、ファンの人たちはちゃんと平等に振り分けられてる見たいで、良かった』
「ホントにすごいんだね、凪さんと裕樹さんの人気って」
「はい……ユウって普段こそ、デリカシーのなさとセクハラ発言ばっかりで、それらに関してだけは学習が全く出来ないから忘れてしまいますけど、実力は正真正銘本物の最強ですからね」
「……宇佐美ちゃん、貶し言葉多すぎだよ」
「--否定できないのが悲しいれしゅ」
裕樹、凪への黄色い声を上げる一般観客席を見ながら、芹香とつぐみは感心の声を。
そして宇佐美の侮蔑か歓心かがよくわからない発言に、ひばりとみなもが苦笑してーー。
「ユウ兄ちゃん、まだかな?」
純粋に、兄の雄姿を期待してる裕香がワクワクとして--時は過ぎていく。
プツッ!
『えーっ、長らくお待たせいたしました。この度のサプライズマッチの立会人……いえ、レフェリーを務めます、北郷正輝です』
「へえっ、正輝がレフェリーか」
『最強の立ち合いには最強って、真っ先に指名されたそうだよ』
リングの中央で毅然とふるまう正輝に、龍星が関心の声を上げる
「では選手の入場です。赤コーナーより、御影凪!」
選手入場口にスモークが炊かれ、その中から悠然とした振る舞いで凪が姿を現した。
その背に“斉天大聖”と描かれたロングコートを羽織る、猿型電子召喚獣孫悟空をしがみ付かせながら
「キャーッ! 凪様ー!!」
「素敵-!!」
「こっち向いて-!!」
その姿を見たと同時に、凪のファンたちがまるでアイドルの入場かと見紛う程の、一斉に黄色い声を上げ始める。
「流石は凪だな」
龍星もその人気ぶりには、関心の声を上げる。
『続いて蒼コーナーより、朝霧裕樹!』
こちらもスモークが炊かれた入場口から、不敵な笑みを浮かべながら電子ツールに刀を担ぐように持って、裕樹が入場。
「朝霧さーん!」
「私だけのナイトさまになってー!」
「お姫様抱っこして-!」
「……今なんか変なのあったような」
「あっ、あははっ……」
ひばり、みなもが歓声の中で引っかかるものを聞き取って、苦笑した。
そして、2人がコーナーに辿り着くと同時に、コーナーポストに手を添えそこを起点に飛び上がって、宙返りを披露しながらリングへ。
2人は互いに歩を進め、正輝を間に挟みながら対峙する。
「ルールの説明は不要だな? --我等最強の名に恥じぬ戦いを期待する」
「無論だ--良いか朝霧?」
「ああっ……今のこの高揚には、タキシードでも着せるさーーちと気障だけどな」
正輝が頷いて、一歩下がる。
それと同時に、裕樹が担ぐように持っていた打刀で抜刀術の構えを取り、凪が背にしがみつく孫悟空に手を添える。
正輝が二歩目を踏んだと同時に、裕樹の打刀の刃が煌き、凪が金剛武神如意を振り下ろし--
三歩目で、刃と棍がぶつかった。




