日陰者の楽園(7)
「まさかスタジアムに、朝礼やイベント以外で出向くことになるとは」
学園都市、競争のシンボルであるスタジアムに通じる橋の入口に、裕樹は1人バイクに跨り遠くに見えるそれを見据えていた。
学園都市で最大級のイベントを行う神聖視される場所であり--凪、王牙、正輝らと最強の座を懸けた戦いの場にもなった場所。
裕樹の脳裏には、ひばりが涙を流し、来ないでと泣き叫ぶ様相が目に浮かんだ--しかし。
「--ひばり、待ってなくていい。ただ、裕香に無事なところだけは見せて貰う」
一悶着は覚悟のうえで裕樹はヘルメットをかぶり直し、スタジアムへと向かう。
--一方。
「--さて、彼は向かったことだし僕達も行こうか」
裕樹とは違う、学園都市でスタジアムを臨める海岸地点。
そこで武瑠が玄甲を、太助がクリスと乗れる大きさの水棲タイプの違法召喚獣を展開し、スタジアムの海路搬入口を目指す事になっている。
「ねえ太助、私たちと来る気は?」
「ない--僕はあくまで、僕の目的を優先させるつもりだよ」
まあ怪我したと察知すれば、迅速に駆けつけて治療することだけは約束する--絶対にね。
と、太助は付け加えた。
「それで、侵入経路だけど……」
「用意はある? --僕の方でも、用意はしてるけど」
と言って、愛用のタブレットにスタジアムの見取り図を表示する。
それは、学園都市のトップシークレット級の情報であり、武瑠が守るべき物。
「……どうやってそれを?」
「それは言えないよ。別にこれが終わったら、セキュリティの見直ししてくれても構わないし」
「まあ今はそれより、事を片付ける事だねい--ひばりを攫った事も、堕ちた悪魔として裕樹を欲しがる事も、黙る訳にはいかない。それに……」
クリスの口元は、確かに食いしばっていたのを太助は見て取った。
対照的に、その太助の口元は嬉しそうに笑みの形をとっている。
「それで良いさ--そうでなきゃ、奴らの否定は絶対に出来ない」
--所変わって、スタジアム入口。
全校朝礼や大イベント以外でくぐる事はないと思っていたそこを、裕樹は一歩踏み出すと--。
「ちょうどいいや、ひばりはどこだ?」
と声を掛ける。
それから少しの間をおいて、犬神彰と毒島昭の2名が姿を現した。
「おいおい、せめて出迎えの挨拶位させてくれよ」
「まだ招待状も声明も送る前だかラ、歓迎の準備も出来てねえの二」
「ひばり返してもらったらすぐ帰るさ。その後で歓迎なり抗争なり、好きなだけ付き合ってやる」
「おいおい、来る時期はともかく、帰ってもらっちゃ困る」
「来たからにハ、雇い主の目的通リ、その身を捧げて貰うゼ」
裕樹がため息をつき、電子ツールの打刀一本を具現すると、2人は電子召喚獣を展開し一斉に裕樹目がけてとびかかり--。
裕樹はその攻撃を受け流し、2人の足を引っかけ転ばせる。
すかさず裕樹は、2人の電子召喚獣の首を刎ね即座に駆けだした。
「あっ、待ちやがれ!!」
「この野郎ガ!!」
「……目的はひばりだ。お前らに構っていられるかよ」
所変わって--
「おおっ、来たか」
「! 裕樹さん!?」
「まさか、招待状と声明を出す前から来てくれるとは……いずれにせよ、好都合だ」
「……そんな、どうして」
「妹が絡めば、あの男はお前と同類になる--と言う事だろう」
「……」
「さて、問題は……ん?」
『あー、あー、聞こえますかー。悪なんて概念に凝り固まった井の中の蛙さん。君の正体も目論見もある程度察してるけど、僕はそれ事態には何の興味もない。なのでさっさと君が“機械仕掛けの神”のつもりで作った玩具は消してあげるから、君は朝霧裕樹の手で幕を下ろしてもらうといいよ』
突然スタジアムに響き渡る、スピーカー越しの太助の宣言
それを聞いて、口元から血がにじみ出る程歯ぎしりさせながら……
「--たかだか不純悪程度の分際で、我が暴力神の存在さえも、所詮はひと手間に過ぎんとでもいう気か!?」
「……」
先ほどの余裕ぶった態度はどこへやら、言葉遣いが暴力的になりそこら中に当たり散らし--
ひばりを見て、息を荒くしながらも冷静さを取り戻す。
「……そうだ、早く来い朝霧裕樹!!」




