甘えん坊日和(夢)
今回はちと息抜きです
「うっ……あっ……」
「--この赤ちゃんが、俺の、妹……?」
当時の裕樹にとって、赤ん坊を抱くことは未知の体験だった。
既に学園都市に編入していて、当然だが身近には同年代以上しかおらず、赤ん坊を見る事等テレビ位しかない。
赤ん坊を抱いたその手には、今まで感じた事のない重さを感じていた。
「……う~っ」
「……手、こんなに小さい」
きゅっと握られてる手を見て、触れるのが怖いと思える位、とても弱々しい手だと感じた。
抱き上げてる事が
「……お、兄ちゃん、だよ」
兄になったんだと言う実感は、未だにわかない。
けれど裕樹の中で何かが始まり、そして幼いながらある思いが芽生えた。
この子は絶対に、俺が守らないと
「……んんっ」
そこで、裕樹は目を覚ました。
当然だが学園都市に在住の、18歳の身体で
「……夢?」
頭を掻きながら、普段はどんな良い夢だろうと悪夢だろうと、気にも留めない裕樹がふと先ほどの夢を思い返す。
あれから10年、あの時の赤ん坊は既に当時の自身より大きくなった。
「……すぅっ……すぅっ……」
……にも拘らず、その赤ん坊だった裕香はまた布団に潜り込み、のしかかる様に裕樹に抱き着いて眠っている。
物理的にも重くなった物の、あの頃感じた重さは今でも変わってはいない。
「あっ、おはようございます裕樹さん」
「ああっ……おはようみなも」
目覚めの頭を働かせ、自身の状況を顧みる。
確か昨日、生徒総会からの依頼で危険度の高い仕事を引き受け、裕香をみなもに任せて仕事に出て--帰ってきたのが夜過ぎてから。
疲れて帰ってきたから、服もろくに着替えないままにソファーに横になって……今に至るらしい
よくよく考えれば、毛布も被った記憶もないから裕香がいつもの様に、甘えるついでにかぶせたのだろうと辺りを付ける。
「ふああっ……なんか、随分と懐かしい夢見たな」
「夢、ですか?」
「ああっ、裕香が生まれた日の事……今でもはっきりと覚えてるよ。初めて裕香を抱いた感触も、兄になったって実感も」
「裕香ちゃんが赤ちゃんだったころですか……きっとすごくかわいかったんでしょうね」
「可愛いのは確かだよ。ハイハイと歩き始めと、喋ったりだけは俺より早かったらしいけど、ベビーカーやチャイルドシートが大嫌いだったり、離乳食を嫌がって食べなかったりとか、変な方向で手がかかる子だったってさ」
「……全部が裕香ちゃんらしいと言えばらしいですね」
「今よりひどい。ハイハイ覚えるまで、抱っこから降ろすとすぐ大泣きして手が付けられなくなった」
「鮮明に頭に浮かびましゅ」
と、ひとしきり赤ん坊時代の裕香の話で盛り上がり--
「--考えてみたら、こんな話宇宙にもしたことなかった」
「そう、なんれしゅか?」
「まあ、お互い裕香絡みで付き合うようになった間柄な訳だし、通じるものがあったから--かもな」
「--裕樹さんだから仕方ないけど、そこはもっと違うセリフが欲しかったれしゅ」
「--すまん」
そこで裕香が身じろぎをして、話は切られた。
少し冷めた朝食を、裕香と一緒に並べるみなもを見て--
「愛情--なんて俺には似合わないけど、みなもにも裕香に通じる何かは感じてるんだよ一応」
「? 何か言いましたか、裕樹さん」
「なんでも……さっさと食ってシャワー浴びたいって思っただけ」




