日陰者の楽園(3)
「……1つ聞きたい事があるんだが、良いか?」
「なんだい?」
「--お前、行方知れずになってる間どうしてた?」
「……なぜそんな事を?」
「ティナも大概だが、お前も行方不明になる前と後とで信じられん程変わってる」
宇宙が編成した潜入班に合流する道中。
行き先が同じだからと同行している太助に、裕樹はある事を問いかけていた。
「ティナを引き合いに出して欲しくないよ。それに人は成長し、時がたつごとに--」
「そんな変化、微々たるもんだろ。大きすぎる変化は、必ず何かしらの大事を経なきゃありえん」
「……潜入班の人たちが合流してから話すよ」
「話すのかよ!!?」
今まで龍星や正輝にも話さなかったことを、あっさりと話す事にした太助に、裕樹も驚きは隠せなかった。
「勘違いしないで欲しいな。僕は僕の眼で見た物、理解した人しか信じないだけだよ」
「友人の友人を友人と思う気はないって事か」
「まあそうだね。歴史上生徒会みたいに権力ある組織は、必ず伏魔殿の側面も併せ持つ。変な考えを持った、あるいはそれに感化された人間が僕を利用し、妙なことを企む事だけは避けたいからね」
まして--と、太助は前置きをする。
「立場ある身の正輝に、僕の所為で総会長に嫌われてる榊さんに、そんな奴等が付け入る秘密を作る訳にもいかないよ」
その言葉に、立場上何かと衝突が絶えない正輝と、気苦労の絶えない総会長に怒鳴られる龍星の姿が、裕樹の脳裏に浮かんでいた。
「……そういう所変わらないな。で、龍星のダンナと言えば、以前お前を追った後に聞いた話なんだが」
「--僕が境界樹に触れたって噂かい?」
“DIEシステムは、次元の垣根を打ち破った楔、境界樹を制御する為のものである”
学園都市の住人なら、冗談半分程度の知識として誰もが知ってる都市伝説の1つであり、大抵は冗談としてしか会話で使われることはない。
しかし……。
「はははっ……君までそんな事言うの?」
「お前が持ってる技術の大半が、世代クラスでかけ離れてなきゃ俺だって笑ってるさ。それに追う理由がわかりやすい利権じゃないなら、冗談か何か確証があるからとしか思えんだろ」
「ははっ……それ位の鋭さを、どうして女性絡みで向けられないかな」
笑いながらの太助の言葉に、裕樹はそれに反しきっぱりと言い放つ。
笑いが乾いたものへと変わっていき--はあっとため息をつくと--
「そろそろ、出て来いよ」
同時に、裕樹が後ろに振り向いて、人気のない地点に呼びかける。
次にパシャっと音を慣らし、誰もいなかったはずの場所から立っている地点をずぶぬれにしながら、武瑠とクリスが姿を現す。
「玄甲の“水朧”も、最強にかかれば水遊びという所か」
「そーいう気配に敏感なところ、どーしてもちっと女心に向かないかねい--あれだけいったのに」
「余計なお世話だ。それはそれとして、やっぱり潜入班ってお前らか--宇宙も随分無理したもんだ」
「既に久遠光一と神崎深紅が、スタジアムに先行しています」
「それはそれとして--」
2人は一斉に太助に目を向ける。
クリスは、おちゃらけ態度を一変して真面目な表情に変えて。
「さっきの話、是非聞かせてほしいわね」
「良いよ--ウェストロードと北丘なら、僕の欲しい情報を持ってるかもしれないから」
「取引と言う事?」
「そうじゃない。さっきの話聞いてたならわかるだろ?」
「……わかった」
クリスが武瑠に目配せをし、武瑠も頷いた。
「僕はある研究プロジェクトを立ち上げた--ただそれが後に危険な物だと判断され、中止を勧告されたけど僕は強行した」
「そこまでは知っている。研究員最後の1人、加賀凌駕が去ったその直後、行方を眩ませた」
「--彼が去ってすぐさ。研究の結果は失敗に終わったけど、その時僕はある物の存在を知って、そこに辿り着いた。多分……」
都市伝説で、境界樹って呼ばれる物をね




